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彼女はくノ一! 第五話 (174)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(174)

 その日も、樋口明日樹は香也に送ってもらった。以前からそうして貰うのが習慣になっているので、格別の感慨はない。だが、部活の時と並んで、最近、周囲の騒がしさにもかかわらず、いつものペースを崩そうとしない香也を確認できる時間なので、僅か数分の帰り道を、明日樹は、かなり貴重なものと見なしている。
 本当に……香也は、以前となにも変わらない。
 あれほど周囲が騒がしくなっても変化しなさすぎて、見ていて拍子抜けぬけするほどだ。そして、その香也の「変化のなさ」は、樋口明日樹を安心させる。
「……狩野君……」
 すぐ横を歩いている香也の方をみて、樋口明日樹は、香也の肩がまた高い位置に来ていることに気づく。
「また……背、伸びたんじゃない?」
 出会った初夏の時には、すでに明日樹よりも背が高かった。その後も、順調にすくすく育っている。
 たいして、明日樹の背丈は、以前とあまり変わらない。母も父も、姉もさほど大柄ではないから、明日樹自身もこれ以上、背は伸びないのではないかな、と、思っている。
「……んー……」
 香也の返答は、特に第一声は、大体同じだ。どんな質問をしても、大抵はそういって、考える時間をつくる。
「……そう……なの、かな?
 正直、自分では、わからない……」
「大きく、なってるよ……。
 肩の位置が、もう……わたしの目より高いくらいだし……」
 このまま香也の成長が止まらなければ、すぐにでも頭一つ分の身長差が出来てしまう訳か……と、明日樹は思う。香也は、背が高くなっている割には、あまり肉が付いたようには、見えない。
 いや……肩幅は、広くなっているか……と、明日樹は自分の考えを打ち消した。
 いつもぼっとーっとした雰囲気で威圧感がないので、普段はあまり意識しないのだが……背が伸びるに従って、香也の体は、確実に「少年」から「男」のものに変化している……ような、気がする。
 特に、この冬は……冬休み前に比べると、香也は、随分大人っぽくなったように感じた。
 例えば、以前と同じにぼーっとしていても、最近では、どっしりと落ち着いた芯のようなものを感じることがある。
『……なんだか……』
 こうして肩を並べて歩いていながらも、香也が明日樹をおいてどこかに行ってしまうかのような疎外感を、明日樹は感じている……。

 明日樹を送ってから帰宅した香也は、母屋には戻らず、そのままプレハブに向かう。居間ではみんなが以前として賑やかに過ごしている筈であり、また、そうした雰囲気自体は香也自身も嫌いでは無かったが、香也には、みんなと戯れること以上にやりたいことがあった。
 すきま風の吹き込むプレハブの中に入り、戸を閉めて、灯油ストーブに火を入れ、棚の奥に隠しているスケッチブックを取り出す。
 別にみつかっても構わない気もするが……香也は、そのスケッチブックだけは、まだ誰にも見せていない。
 単純に、気恥ずかしいからだ。
 脱いだ上着をハンガーにかけた香也は、椅子に座ってパラパラとスケッチブックをめくる。
 ……楓、荒野、茅、孫子、羽生譲、真理……テン、ガク、ノリ……樋口明日樹、飯島舞花、栗田静一……香也の身近な人々の顔や姿が、断片的にスケッチされていた。
 ごく最近になって、こっそりと、周囲に誰もいない時を見計らって、記憶に頼って描きはじめたものだ。
 ついこの間まで……香也は、人物画には、まるで興味を示さなかった。人物画に……というより、他人、というものに対して、どこか興味を見いだせないでいた。
 しかし、近頃では……それも、徐々に、変わってきている。
 香也は、スケッチブックの新しいページを開いてキャンバスに立てかけ、鉛筆を用意する。
 香也が一人きりになれる時間は、最近では貴重だ。
 先ほどの夕飯時の会話から類推するに、ひょっとしたら、このプレハブに頻繁に出入りしていた人々も、どんどん多忙になって、香也の周囲はまた元の静けさを取り戻すのかも知れないが……それでも、香也は、今、この一瞬に、香也の脳裏にある彼らの姿を紙に写すことが、ひどく重要なことに思えた。
 そして、香也は、自分の絵に没頭しはじめる。

 浅黄が眠たげな様子を見せはじめたので、徳川も浅黄を伴って早々に帰宅した。同時に、茅も隣のマンションに帰る。飯島舞花、栗田静一は、樋口明日樹と同時に家を出ていた。
「……後の片付けはやっとくから、楓と才賀も風呂でも入って寝ろって……」
 酒盛りを続けていた三島百合香が、そう告げる。
 ちびちびと長く呑んでいたわりには、酔ったようにも見えない。割と強いのかも知れない。
 その言葉を機に、孫子は、「……では……」と立ち上がり、テンとガクもそれに続いた。おそらく、着替えを用意して、風呂に入るのだろう。
 楓は、荒神に確かめたいことがあったので、居間に残った。多忙な荒神がこの時間にこの家に帰ってくることはほどんどないし、さらにいえば、こうして寛いでいるのも滅多にあることではない。
「あの……師匠」
 孫子たち三人の気配が完全に遠ざかったことを確認して、楓は炬燵こしに荒神に向き直る。
「最近の、ことを……師匠は、どう思っているんですか?」
「最近のことって……具体的には、何を聞きたいんだい?
 雑種ちゃん……」
 荒神は、なみなみと日本酒を注いだ湯飲みを傾けながら、楓に問い返す。
「茅様とか、テンちゃんたちのこと……。
 それに、加納様が、正体を明かした上で、この町に居続けること。
 あと、一族のいろいろな人たちが、集まりつつあることとか……」
 楓は、気になっていることを順番に口にだしていく。
「なんだ、そんなことか……」
 楓の言葉を聞いて、荒神は、露骨に失望した顔をした。
「どう思っているって……どうにも、思っていないよ。
 なるようにしか、ならないさ……」
「あの……加納様のこととか、一族の人たちのこととか……師匠は、心配には、ならないんですか?」
「心配……心配、ねぇ……」
 荒神は、思案顔で視線を上に向ける。
「このぼくが心配すると……何か事態が、好転するのかな?」
 そして、逆に楓に向かって問い返した。
「……正体がばれたのは、荒野君のせいではないけど……ここに居続けることにしたのは、荒野君の選択だよね?
 それと、今日の雑魚四人組みたいなのがいくら集まったところで、大勢に影響はないよ……」
「では!
 その……茅様……とか、ガス弾を使った人たちのことは……」
「雑種ちゃん」
 荒神は、意外に真面目な顔をして、楓の目を見返した。
「人は……自分では、生まれを選べない。
 ……雑種ちゃんが、雑種ちゃんなのも、荒野君が、加納本家と二宮本家の両方の血を嗣いでいることも……自分で選んで、そうなったわけではない。
 でも、雑種ちゃんとか荒野君が、今、この土地にいることは……産まれとは関係なく、自分の意志なんじゃないのかい?
 そして、それは……茅ちゃんたちや、これからくる雑魚どもも、同じなんじゃないのかな?」
 楓は……なんと返答していいのか分からなかった。
「みんな……好きにすればいいのさ。
 ただし、好きにしたその結果は……否が応でも、自分で引き受けなければならない……」
 荒神はそう続けて、また一口、湯飲みを傾ける。
「それに……ね。雑種ちゃん。
 外つ国ではいざ知らず、この国の神様は、伝統的に、人間にはなにもしないんだ……。
 なんの意味もなく存在し、来たりては、去る。
 ただ、それだけの代物だよ……」




[つづき]
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