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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(92)

第六章 「血と技」(92)

 結局、荒野が帰ったのは、その日も最終下校時刻ぎりぎりだった。
 茅が現在の環境に順応し、自分の意志で動き始めた今、早めに帰ってもする荒野にはすることもなかったので、夕方遅くまで学校に居残ることには抵抗はない。しかし、どっぷりと「学生生活」に浸っている自分の姿の滑稽さを自覚し、内心で苦笑いする程度の客観性は、荒野は持ちあわせていた。
 最終下校時刻ギリギリ、という時間なのに、下駄箱のあたりは混雑していた。昨日の帰りと比較しても、人が多い。全体的な人数は増えても、珍しく知った顔に出会わないな……と、思っていたら、肩を叩かれた。
 振り返ると、コート姿で鞄を持ち、帰り支度を済ませた堺雅史と柏あんなが揃ってたっていた。二人と荒野は学年も違うので、その日初めて、顔を合わせたことになる。
「……なんか、凄い人だね……」
 挨拶もそこそこに、校門に向かって歩きながら、荒野は堺にそう話しかける。
 手短に、情報を交換するつもりだった。
「ええ。
 従来の部活組に加えて、自習組とかボランティアとか、いろいろと居残る人が増えちゃって……」
 堺は、そう答える。
「そういや……先輩、早々にこちらの全員に自習範囲を指示して、出て行ったっけ……」
「佐久間先輩、大活躍ですよ……。
 神出鬼没、っていうか……あっちにいたと思ったらこっちにいて、ちゃっちゃと的確なアドバイスをしたかと思ったら、いつの間にか姿を消しているんです……。 去年まで生徒会で活躍していたとは聞いていましたけど……あそこまでやり手だったとは……」
 堺たち一年は、当然のことながら、昨年の佐久間沙織の活躍を直に目撃する機会に恵まれなかった。
『……とはいっても……去年は、先輩も、それなりに、自主的なストッパー、かけてはいたんだろうけど……』
 最近の沙織は……荒野には、なんだか自分の能力を公然とフルスロットルで駆動することに、喜びを見いだしているように、見受けられた。
『……上の学校にいったら、早速、いくつもの伝説を作りそうだよな、あの人……』
 二人とは帰る方向が違うので、校門を出たところで別れることになる。
「……また、明日」
 とかいい合いながら、荒野は二人と別れた。
『……さて……帰って、夕飯まで、どうして過ごすかな……』
 ぼんやりとそんなことを考えながら、家路を辿る荒野。
 茅や楓、孫子、それに、テンやガクまでもが、それぞれ自主的な判断に基づいて行動を起こしている今、荒野は、実は、暇を持てあましている。
 家事については、茅にどんどん仕事を取り上げられていた所に、昨日などは四人組という荷物持ちが不意にできたので、食料の備蓄はどっさりと増えた。大食いを自認する荒野でも、週末までは十分に持つだろう、と確信できる。例のリストについては、要注意人物のデータを頭に叩き込んだので、後は、これといってすることもない……。
『こうして、みると……』
 自分は、意外に、無趣味だったんだな……と、荒野は改めて思った。
 今までの人生が、特に、この土地に住みはじめてからの数ヶ月が、波乱に富みすぎたんだ……ということは、あるが……。
 それでも、不意にぽっかりと余分な時間ができると、やることを思いつかないのは、どうかと思う……。
 そんなことを考えながら、真っ直ぐにマンションへ向かっていくと……不意に、悪寒を感じた。
 背筋にぞくり、と来る……生命の危機に際した時に感じる、直感的な不安、生理的な、警告……。
 今まで何度となく死線をくぐり抜けた荒野だからこそ感じとれる、信頼できる、予感……。
『……近くに……』
 自分を脅かすほどの、存在がいる……。
 そう感じた荒野は、さり気なく、周囲に意識を集中する。
 そろそろ商店街の外れにさしかかる所で……マンドゴドラの近所、でもある。人通りは、多いといえば多い。例のイベントの影響で、いつもよりは、人は多いのだが……混雑している、というほどには、密集はしているわけではない。
 ちょうど、交差点にさしかかったので、信号待ちを利用して、さり気なく周囲を見渡してみる。例の、背筋のヒリヒリは、まだ消えていない。
 すると……荒野の視界に、見慣れないモノをみつけた。
『……あ……』
 二十歳くらいの、女性だった。
 大きな犬を連れている。いや、犬に、先導されている、という方が、より正確なのだろうか。もうかなり暗くなっているというのに、顔の半分くらいを隠す濃い色のサングラスをして、白い杖をついている……。
 つまり、目が不自由だ、ということなのだが……彼女とは、荒野は、書類上であったことがある。彼女がこんなところに来ている……ということは、つまり、荒野に会いに来た、ということだった。
 そこで、荒野は、周囲に意識を飛ばし、警戒しながら、その女性に声をかけた。
「……しずるさん……野呂静流さん、ではありませんか……」
 荒野はゆっくりとその女性に近づきながら、声をかけた。
「荒野です。
 加納、荒野です……」
「加納……荒野、さん?」
 荒野が「野呂静流さん」と呼んだ女性は、白い杖を両手に持ちながら、声のした方に、つまり、荒野の方に、顔を向けた。
「……は、はじめ、まして……。
 その、野呂、静流です……。これから、ご挨拶に伺おうかと……」
「来るのなら、事前に連絡をくれれば、お迎えにあがりましたのに……」
 荒野は、静流を刺激しないように、害意がないことを明確にするため、できるだけリラックスした声をだした。
 静流の噂は、以前から何度も聞いたことがあったし……それに静流は、生まれついての障害のせいで現場に出ることはないが……温厚な性格だ、と聞いても、いる。
 しかし、存在自体が危険物……という事実には、変わりはない。
「……そ、そんな、もったいない……。
 わ、わたしなんかのために、加納の直系様にご足労を願うなどと……」
 静流は顔を伏せながら、わたわたと答える。
「……わ、わたしは、加納様がここを、一族が安心して住める町にしようとしていると聞いて、来たのですが……」
 静流の反応をみて、
『……噂通りの人、らしいな……』
 と、荒野は思った。
「……いえ……。
 立ち話でもなんですし、一度、うちに来ますか? なんなら、タクシーを拾いましょうか?」
 荒野は、気を効かせたつもりで、そう進言した。
「いえ。お申し出は、ありがたいのですが……これで、歩くのはまるで苦にならないたちですし……。
 それに……」
 言葉の途中で、静流の手にする白い杖が、揺らめく。
「ちょ……!
 こんな往来の真ん中で、そんな物騒なもん、振り回さないでください!」
 静流が仕込み杖を一瞬だけ抜いたのとほぼ同時に、荒野は大股に二、三歩退く。
 荒野以外には……静流が「抜いた」のに気づいた通行人は、いなかったようだが……。
「……ほら。
 周りに、人も、大勢、いますから……」
 荒野は、この寒い中、冷や汗をかきながら、必死で静流を説得しようとする。
「……でも……これでも、術者の端くれ……こんなに殺気をぷんぷんさせている方が側にいると……ついつい、体が自然に反応してしまうもので……」
 これで静流は、例の名簿に記された術者の中でも、「近接戦闘能力」でいえば一、二を争う存在だ。いや、「半径五メートル以内」という条件を付けさえすれば、荒神とだって互角にやり合える存在かも知れない……。
「……と、いうことで……」
 荒野は、かなり白けていた。
「いい加減……遊んでないで、姿を現してくれませんかね……。
 姿を現してくれれば、静流さんと一緒にうちのマンションにご招待しますよ……。
 でないと……加納の直系と野呂の直系、このタッグと、やり合うことになりますけど……」
 もちろん、それは静流に、ではなく……先ほどから故意に殺気を放って、荒野を刺激している人物に向けられたものだった。




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