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彼女はくノ一! 第五話 (178)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(178)

 香也は、有働たち放送部員に混ざっていくつかの不法投棄現場を回った後、絵を描くのに適当な場所を見つけたので、そこに腰を据えることにし、放送部員たちとは別れた。この周辺に用事のない香也は、当然のことながら、土地鑑もまるでなかったのだが、周辺地図のプリントアウトは有働から渡されていたし、すぐ近くに徳川の工場もあり、そこには楓たちも来ているそうだから、いざとなれば、連絡すればなんとでもなる……と、思っていた。
 それよりも……。
 香也は、横倒しになったドラム缶の上に、スケッチブックから引きちぎった紙を一枚敷き、その上に腰掛ける。
 ……今の香也には、目の前の光景からうけるインスピレーションを、どのようにして紙の上に定着させるのか……という問題の方が、よっぽど、重要だった。
 香也は、改めてスケッチブックを開き、適当に目についた廃材を、スケッチしはじめる。
 まだまだ、最終的に、どのような絵にする……という具体的な構想は、ない。だから、構図とかを考える段階でもなく、今は、イメージを固めるため、目と手を、被写体に馴らすことのほうが、先決だった。
 香也は、こうした有象無象の廃棄物の山、を描いた経験がほとんどない。だから、「馴らし」は、絶対に必要だった。
 その場所は、近隣でも最大の「不法投棄場」とのことであり、廃棄された工場内が丸ごとゴミで埋まっている。これだけの大きな地所なら、どこかが買い取って使用しても良さそうなものだが……有働の話しでは、以前にこの工場を使用していた会社が倒産する際、債権関係がかなりおかしな具合になってしまったようで、アンダーグラウンド関係の組織のいくつが複雑に権利を握りこんで、身動きが取れなくなってしまい……結果、まともな買い取り先もみつからず、こうした惨状を十年以上も晒している……ということだった。
 今の香也の前には、かなり広大なゴミの山が出現している。
 ……今香也が腰掛けているドラム缶、冷蔵庫、洗濯機、テレビなどの家電品、箪笥や机、椅子などの家具、自転車、バイク、スクーター、トラックかトレーラーの大型タイヤが向こうに積み重なっている……果ては、タイヤが取れたバス……などの大物も、鎮座している。
 そうした廃物が、屋根が半ば落ち、朽ちかけた工場の中に、放置されている……。
 工場自体が、老朽化されたまま、手入れもされていない建物だから、敷地を取り囲むようにトラロープが張り巡らされ、所々に「立ち入り禁止」の表示されているのだが……長年、管理責任が放棄された場所でもあるので、そうした表示も多くは地面に落ちている。
 ここでは……「場所」そのものが、見捨てられ、人目を忌むように、ひっそりとしている……と、香也は思う。
 香也は、有働に案内されるまで、近隣にこんな場所があるなどとは、思わなかった。
 誰かのものではあるのだが、誰のものであるのかもはっきりとしない空白地帯……であるが故に、行き場のない廃物を呼び込み、累積してしまった場所……の静寂は……香也を、奇妙に落ち着かせた。
 香也は、手を動かし、目の前にある現実を、紙の上の描き写す。
 香也は、意識は目と手に集中し、他の感覚を、意識することはない。
 香也は寒さも感じない。うち捨てられた場所に、たった一人で居る、という事実も、意識の外にある。
 香也は、日が暮れて、手元が見えなくなるまで、そうして黙々と絵を描き続けた。
 塗装が剥げ、朽ちかかった木部が露出している家具を。錆の浮いた、あるいは、一面錆に覆われた金属を。その質感、その存在感をどのようにすればキャンバスに再現できるのか考えながら、ひたすらに、手を動かし続けた。

 夢中で手を動かしているうちに、あっという間に日が暮れて、手元も見えないようになった。
 街灯さえも遠い場所である。そろそろ帰るかな、と、香也が腰を上げると、ちょうどその時、ポケットの中の携帯が、「メリーさんの羊」のメロディを奏でた。
『……あ。香也様ですか?
 今、どこにいます? 有働さんから、この付近に来たと聞きましたけど……』
 携帯をとり、出てみると、楓の声が聞こえてきた。
「……んー……。
 有働さんに案内された所で、ずっと描いてたけど……もう暗くなったんで、帰ろうかなと思っていたところ……」
『……そうですか。
 まだ、最初の所から、動いていないんですね?
 じゃあ、場所は分かりますから、迎えに行きます。今、茅様も一緒なんですけど、徳川さんにタクシー呼んで貰っていますから、一緒に帰りましょう……』
「……んー……。
 分かった。じゃあ、分かりやすい場所に出て、待っている……」
 そう返事をして、香也は通話を切り、帰り支度をしはじめる。帰り支度、とはいっても、筆記用具を鞄の中にしまい、スケッチブックを畳んで鞄と一緒に抱えるだけだが。
「立ち入り禁止」の看板が針金で固定されている鉄の門を開き、僅かに空いた隙間をすり抜けて、外に出る。
 公道のすぐ脇で、街灯の下の明るい場所で立っていると、いくらもしないうちに一台のタクシーが近づいてきて、香也のすぐ目の前に停まった。
 助手席に、茅が座っているのが、見えた。
 後部座席の扉が開いたので、香也は荷物を持って、そちらに向かった。
 中に入り、後部座席に座ると、そこには制服姿の楓が座っている。
「……テンちゃんとガクちゃんも居たんですけど、自転車で来たとかで……」
 香也の顔をみるなり、楓はそういった。
「……わかったの。才賀には伝えておくの」
 茅は、助手席で誰かと電話している。茅は一旦通話を切ると、今度はメールをうちはじめた。
「……どうかしたんですか? 茅様?」
 楓が、茅に尋ねる。
「荒野が、新しい一族に接触したそうなの。
 限りなくイエローに近いレッドと、限りなくレッドに近いイエロー二名……。
 後者の存在は、是非才賀に伝えなくてはならないの……」
「……はい?」
 楓が、怪訝な顔をする。
「その、なんで……そこに、才賀さんが……」
「茅が伝えなくても……才賀、今日、商店街にいたから……どうやら、荒野があの三人と一緒にいたことを、人づてに聞いて知っていたようなの……」
 茅は、携帯の画面を見ながら、楓や香也にはよく理解できないことをいいはじめた。
「人が争う理由は……利害の不一致やイデオロギーのみに限らないの。
 時に、近親憎悪的な感情も、争乱の原因となる。
 しかし……そうした争いは、相互理解を効率的に促進する、という作用もあるの……」





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