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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(95)

第六章 「血と技」(95)

「「……わたしたち……」」
 何のために、ここに来たのか……と、荒野が問うと、酒見姉妹は顔を見合わせ、頷き合う。
「「……普通の女の子として、生活したいんです……」」
 荒野の眉が、片方だけ、ぴくんと跳ね上がった。
 一般論としていえば……そういう意見も、あり、だとは思う。
 しかし……この双子の口から出ると、途端に胡散臭く聞こえるのは……どうしたわけだろうか?
「知っての通り……わたしたちは、両親ともに、生え抜きの術者で……」
「わたしたちも、幼い頃から、両親に、野呂と二宮、両方の体術を、仕込まれてきました……」
「おかげで……今では、年齢部相応な評判も、一族内部でいただいている身です。
 が……」
「物心ついたときから、人に倍する英才教育。
 その後は、仕事仕事の毎日……わたしたちは……」
 ここで二人は、立ち上がって、お互いの肩をひしと抱きすくめた。
「「……学校というものに、通ったことがないのです……」」
「あの……新しい、お茶が入りましたけど……。
 今度のは、渋めに入れましたから、甘いケーキなどにも、合うと思います……」
 目が見えない……ということを感じさせない動きで、静流が、荒野と双子の前に新しいお茶の入ったマグカップを置く。
 まるで動揺を見せず、自分のペースを崩そうとしない静流も、大概に大物だよな……と、荒野は思った。
「そう……っすね。まずは、ケーキでも食べながら、続きの話しを聞きましょうか……」
 荒野は、半ば、自分自身に言い聞かせるようにいいながら、ケーキ用の皿とフォークを、食器棚から出した。
「ほら……君たち待望の、マンドゴドラのケーキだ……」
 そういって、持ち帰った箱を開け、皿の上に取り分ける。
「「……こ、これは……!!」」
 荒野が皿に出したケーキを見て、立ち上がったままの双子は、恐れおののいた。
「「……マンドゴドラ謹製、一日百個限定、バレンタインスペシャル、ラ・チョコラーテ!!」」
「……いや、名前は知らないけど……。
 バレンタインだから、チョコレートケーキってのは、定番っていうかストレートすぎるっていうか……」
 マスターや茅にケーキの説明を聞かされていなかった荒野は、そんなことをぶつくさ言いはじめる。
「「これは……毎日、開店三十分以内に売り切れ必至の、レア・アイテムなのです!」」
 双子は、そんな荒野に向かって、真剣な顔をして身を乗り出す。
「「……荒野さん!
 これ、取り置きして貰えるなんて……あのお店と、どういう関係なんですか?!」」
「どういう関係って……少し前に、何度か、店の宣伝に協力したんで……ケーキ食べ放題にして貰っているんだけど……」
 双子の表情があまりにも鬼気迫るものだったので、荒野も若干引き気味になっている。
「「そんな! そんな!」」
 双子は、声を揃えて驚いていた。
「「加納本家直系だから……最近、人気急上昇中のケーキ屋さんと、そんな関係にあったなんて……。
 もっと恐い人かと思っていたのに……」」
 ……お前らと、一緒にするな……と、荒野はいいたかった。
 通称、酒見ツインズ。
 この二人は……どうも、血に酔う性質があるらしく……仕事に出れば……必要以上に、死傷者を出す。上層部も弁えたもので、最近では双子のそうした性質にあった仕事ばかりを回すようになっている。
 つまり……どんなに甚大な被害が出ても、困る事がない、という悪質な相手にしか……双子は、派遣されない。
 酒見ツインズは、この若さで、荒事専門……流血沙汰の、エキスパートだった。
 二宮はともかく、野呂の連中は、もっとスマートな仕事ぶりを好む傾向がある。特に古参の中には、この双子の仕事ぶりを露骨に嫌っている者も、多かった。
「戦闘能力」ということで比較すれば、荒神や鈴流の足元にも及ばないが……性格的に、やばすぎる……故に、荒野は、この二人を「限りなくレッドに近いイエロー」と分類している。
「その……マンドゴドラのケーキと、静流さんのお茶……を、一緒に味わう機会なんて、滅多にないから……ゆっくりと、味わっていただこう……」
 それでも荒野が平然ということが出来たのは、例え荒野一人であっても、酒見ツインズの二人を一緒に相手にして、引けを取ることはない……という自信があるからだが……二人は、そうした荒野の思惑を知ってか知らずか、
「「……はーい!」」
 と声を揃えて席に座り直す。
 その様子は、なんだか無邪気であどけなくて……でも……。
『……お前ら……もっと静かに、食えないのかよ……』
 ケーキやお茶を一口、口にする度に、「おいしー! おいしー!」といいあって、じたばたと手足を振る双子の、なんとも落ち着きのない食べ方に、荒野は辟易した。

「……で、君たちは……ふ、普通の女の子の生活を、ってことだけど……」
 いいながら荒野は「……こいつらほど、普通の女の子、という概念から遠い者はないんじゃないだろうか?」とか、思っている。
 しばらくして、ゴテゴテにクリームの乗ったケーキを丸ごと一つずつ平らげたことで、酒見ツインズはようやく静かになった。物欲しそうな目で箱の方を見ているが、荒野が「後でマンドゴドラのマスターに紹介してやる」というと、途端に静かになって、荒野の話しを聞く様子を見せた。
「その……学校か、もしくは、職場か……。
 その辺の、偽装工作とかは……」
「……していまーす!」
「……正規のルートで受験して、来年からちゃんと入学しまーす!」
 片手を上げて、元気よく、そう答える。
 書類によると、この二人は、荒野より一つ年上だったから……佐久間先輩と、同じ学年、ということになる。
 まさか……と思いつつ、荒野は、二人に四月から通う学校の名前を聞いた。
 二人は、沙織が通う予定の学校の名を、答えた。
 荒野自身の志望校、でもある。
「わたしたち……学校には、通ったことはないけど……」
「勉強だけは、自分たちで、してきたから……」
 二人も、かなりの難関校を実力で突破した、ということがよほど誇らしいのか……固まった荒野に向かって、胸を張った。
「「……学科の知識だけは、あるのです!」」




[つづき]
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