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彼女はくノ一! 第五話 (180)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(180)

『……挨拶が、命中するって……』
 楓は、耳から離した携帯を、まじまじとみる。
 荒野がいうことだから、比喩とか詩的な修辞ではない……と思う。
 そして、先程孫子が肩にかけていたゴルフバッグのことを思い出す。孫子がやりそうなこと、と……「命中」という単語は、妙に似合い過ぎて怖かった。
『……命中っていっても、撃たれた方も、ただで済ませるタマじゃあないから……。受け止めたはいいけど、着弾の衝撃までは殺す余裕なくて、派手にすっころんでたけどな……。
 それでも、予告なしに狙撃されて、とっさにそれを受け止められたのは、上出来だ……』
 電話の向こうでは、荒野が淡々と「向こう」の情景を中継している。荒野のその声には、呆れと感嘆が半々に入り交じっているように、聞こえた。
「……えっとぉ……」
 楓は、おそるおそる、自分の想像を確かめてみる。
「つまり、才賀さんが、そちらの客さんを、狙撃して……お客さんがそれを自分で防いだ……」
『……客は客でも、どちらかというと招かれざる、のほうだけど……あ。今、二人して、外に出て行った……。
 遠距離射撃が可能な相手と、あの二人、かぁ……。
 どうやって才賀の懐に飛び込むか、という勝負だなぁ……』
 荒野の背後から、『……わ、若い方は、元気なほうが、よろしいのです……』という少しい遠い女性の声が聞こえてきた。その声も、どう聞いても、年寄りの声ではなかった。
 出て行った二人と合わせて、どうやら、荒野のお客さんは、三人以上いるらしい。
『……あ。茅が帰って来た。おかえり、茅。
 今、ヒラヒラな、才賀みたいな格好をした二人とすれ違ったろう?
 あれが、例のアレで……。
 で、こちらが野呂……』
「……加納様!」
 楓が、少し語気を強くする。そのまま止めなければ、荒野はそのまま日常的な挨拶とか世間話を延々と続けそうな気がした。
「その……ほっといても、大丈夫なんでしょうか?」
『え?
 ああ。あいつらのことか。
 大丈夫だろ、多分……。
 才賀もあの二人も、多少、特殊な育ち方をしたから……あー。不器用で、お友達を作り方を良く知らないだけだよ。
 せいぜいやり合って、五分か十分後には、みんなくたくたになる筈だから、またその頃に拾いにでもいくさ。
 第一……お前と才賀だって、似たようなもんだったじゃないか……』
 そう事実を指摘されてしまうと……楓としても返答に困るのである。
「……で、では……その……」
『ああ。
 そのまま、放置しておいていいよ。頃合いをみて、おれが拾いに行くから……。
 いくらもたたないうちに体力使い果たして、そこいらでバテて静かになるだろ。
 お前は、そっちでいつも通りにゆっくりとしていていい……』
 そういう荒野の声には、どことなく達観した響きがあった。

「……で、孫子ちゃんの分のご飯は、結局後でいいの?」
 みそ汁の入った鍋を居間に運びいれながら、羽生が、楓に尋ねる。
 楓が荒野と電話している間に、夕食の準備はすっかり整っていた。
「ええ……。
 遅れることは、遅れそうですけど……」
 楓は、結論だけを伝える。
「……後で……。
 ボロボロになって帰って来そうな気も、ひしひしと、しますが……」
「カッコいいこーや君が、援軍や手助けいらないっていうんなら、多分、大丈夫だろ……」
 なんとなく事情を察した羽生は、したり顔で頷く。
 羽生は、楓よりは「外野でいる」という立場に、慣れている。楓たちとは違って、能力的に「当事者でいる」という選択肢がない。
「……お風呂くらいは、用意しといた方が、いいかもしれないけどな……」
「もう沸いているところだから、ちょっと湯加減、みてくる……」
 ガクが、風呂場に向かった。
「ま。
 孫子おねーちゃんも馬鹿じゃないし、やばそうな相手なら、こっちに救援要請してくるよ……」
 テンが、心配そうな顔をしている楓に、そう告げる。
「……それに……孫子おねーちゃん、出て行く時、すっごく楽しそうな顔をしていたし……孫子おねーちゃんのお楽しみを邪魔しちゃあ、いけないよね……」
 なんだか悟ったようなことを、いう。
「……疲れたら、すぐに帰ってくるって……」
 羽生も、その後に続ける。
「それよりも、ご飯が冷めないうちに、食べちゃお……」

 そのころ孫子は、すっかり迎撃準備を整えていた。
 商店街で荒野といっしょにいるところを目撃しされた三人のうち、扱い易い者を挑発して、こちらに向かわせる……という孫子の目的は、今のところ、滞りなく実現させている。
 孫子の目的は、大きく分けて二つ。
 まず、新参者の実力を確認する。
 次に、現在の孫子が、どこまで現役の術者に通用するのか、確かめる……。
 孫子にとっては、特に二番目の目的が、重要だった。現在の孫子が、一族に対して無力だ……ということになれば、孫子は、楓や荒野たちのバックアップに専念するつもりだった。
 多少、シルヴィから一族の術や技について手ほどきを受けたとはいっても……やはり、長年習練を行って来た術者には、かなわない。しかし、かなわないならかなわないなりに……それ以外の技術と組み合わせれば、なんとか凌げる場面もでてくるのではないか……と、孫子は思っていた。

 実験が成立するための用件は、以下の通り。
 被験者には、本気でこちらに向かって来てもらわねば、ならない。
 実戦を想定した試験でなくては、意味がないからだ。
 次に、被験者は、そこそこ強くなければならない。
 楓や荒野のように、平均を遥かに抜きん出た存在でも困るが、四人組のような鍛練不足も、また困る。
 適度な練度と実力を持ち、しかも、大きく他を凌駕するところの少ない術者……そのような条件を勘案しながら、孫子は、しばらくスコープ越しに二百メートル以上離れた場所から荒野のマンション内の様子を伺っていた。
 三人の来客者をしばらく観察して、そのうち、若い二人組を被験者として選択した。この二人のうち、どちらか一方を、挑発する。その結果、二人同時に相手にすることになっても、構わない。
 これだけ距離があれば、もちろん話し声は聞こえないが、それでも窓越しに見える各人の挙動から、それなりに多くの情報を読み取ることができる。
 もう一人、やや年長の女性もいたのだが、こちらは、サングラスをかけて白い杖を手にしている。加えて、荒野も、他の二人よりは、よっぽど丁寧に接しているように見受けられる。
 特殊な術者か、一族内部でも一目置かれている存在……である可能性が、高かった。
 孫子の実験には、あまり特殊な存在を相手にしても、仕方がないのであった。

 観察を終え、ターゲットを選択すると、孫子は、ライフルのセーフティを外し、携帯電話を取り出す。
 窓ガラスを破損しないために、荒野を誘導して、窓を空けさせるつもりだった。別に孫子自身は、窓ガラス越しに狙撃してもなんの掻痒も感じないのだが、その程度のことで茅や荒野との関係を悪化させるのも、馬鹿馬鹿しい。
 この寒空に、一晩、気密性が破れた部屋で寝ろ、というのも、酷というものだろう。
 ことに荒野は、本人はあまり意識していないのかもしれないが、無類の寒がりだった。炬燵に入った時のとろけきった様子を思い出せば、その程度のことは容易に想像がつく。

 そして、孫子は引き金を絞り……ターゲットがそれを自分の得物で受け止め、反撃に移った。
 なんと、ターゲットは、荒野を押しのけるようにしてベランダに出て、そのまま、手摺りの外に身を踊らせた。
 ターゲットと良く似た少女も、ターゲットとほぼ同時に反応する。
 俊敏な動作で、荒野のマンションを、こちらはドアの方から、飛び出た。
 片方がわざわざ、孫子から狙いのつけ易い外に飛び出したのは……もう片方を、孫子に近づけるための囮役を、買って出た……ということらしい。
 特に打ち合わせをした様子もないのに、二人が動き出したのは、ほぼ同時、だった。
 孫子からは、細かい顔の造作までは判別できないが、事によったら近親者、とか、かなり近い関係の者なのかも、知れない。
 気心が知れた、二人組の術者……が、今回の被験者……と、孫子は、想定し、時折、囮役の少女に向けて引き金を絞りながら……彼女たちが、近づくのを、待った。




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  • 2006/10/15(Sun) 17:46 
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