2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(97)

第六章 「血と技」(97)

「……なんじゃこりゃぁあ!」
 酒見純は、思わず、罵声を上げて飛び起きた。
 それから、再度狙撃される可能性に思い当たって、姿勢を低くしたまま、ベランダの方に向かう。
 妹の粋も心得たもので、純の意図をすぐに察知すると、玄関の方にかけだした。
 荒野はベランダで電話中だし、野呂静流はのほほんとお茶を飲んでいる。しかし、この二人は術者としても別格だ。表面的な態度のみをみて、外見通りにリラックスしている、とのみ解釈するのは、間違っている。いや、見た目の通り、リラックスはしているのだろうが、この二人の域までいくと、他に注意力を分散していても、銃弾くらい、鼻歌交じりに弾いてしまう。
 六主家の本家筋の者、全員がことごとく優秀な資質を備えるわけではない。しかし、優秀な、桁外れの能力を持つ者を多く排出しているのもまた事実であり、この二人はその生きた実例だ。先天的な資質の良さに加え、鍛え方も、並ではない。特に荒野など、若輩ながら、あの「最強」の一番弟子として認められた者、なのである。
 比較して……自分たちは、違う。
 資質も……二宮のパワーと野呂のスピードを兼ね備える……といえば聞こえはいいが、いい方を変えると、どっちつかずで、どちらにも突出していない……ということになる。
 筋力にしろ、反射神経にしろ、流石に「並の術者」よりは、よほど上回った性能を持ってはいる。が、自分たち以上の能力を持つ者など、一族内部には、ごろごろいる。
 だから、酒見純と酒見粋は……自分たちのアドバンテージを作ろうと、必死に努力し、工夫を重ねた。両親から、異なる体系の体術を同時に習い、自分たち用にカスタマイズし、「双子」という利点を生かした立ち回りを、練習し体に染みこませた。

『この暗さの中で……狙いが……正確』
 ベランダの手摺り伝いに階下に降りていきながら、酒見純は、「狙撃者の腕と判断力は、確かだ」と観察する。日が落ちているのにもかかわらず、純が嫌がる場所に、的確に弾丸を送り込んでくる。そもそも、純の動きを観察し、行く手を予測しながら、手がかりや足がかりになりそうな場所ばかりを狙う、という「いやらしさ」だ。
 暗くて視認しにくい弾丸をようやく見極め、それを避けながら、純は、わざと狙撃手に自分の体を見せるようにして、階下へ階下へと移動していく。
 先ほど、弾丸を受け止めた際の衝撃で、握力が半ば効かなくなっている。
 純が、あえて囮役を買って出たのも、今の自分が狙撃手の目の前まで迫ったとしても、その後、果たして互角以上に争えるか否か、自信がなかったからだ。
 自信がない以上、粋を狙撃者の元に送り出すまでの、粋の盾……に、なりきったほうが、狙撃手を撃破する可能性も高かまるように思える。
 そして……別ルートで狙撃手の元に向かっている筈の粋も、そのことは、分かっている筈、だった。

 酒見粋は、姉の純とは違うルートを辿っている。
 玄関から共用廊下に飛び出し、非常階段へと向かう。狙撃手がいる方向からは、粋の姿は確認できない筈、だった。狙撃手が単独かどうかも今の時点でははっきりしていなかったが……チームを組んで包囲している、という可能性は低い……と、粋はみている。
 根拠は……同じ部屋にいた荒野と野呂静流の態度に、あまりにも緊張感が欠けていたからだ。
 もし、狙撃手(と、いるかどうか分からないその仲間)が、無差別に包囲殲滅を図っていたのだとしたら……あの二人も、何らかの動きを見せているべきで……それがない、ということは、これは……実戦、ではないのだ……と、粋は結論する。
 それも……二人の落ち着きぶりを思い返せば……あれは、どうみても「他人事」という態度だった。つまり、狙撃手の狙いは……自分たち、だけ……という可能性が、濃厚……。
 手っ取り早くいうと……狙撃手に……。
『……遊ばれて……いる?』
 この結論が、一番妥当だ……と、粋は考える。
『でも……純ちゃん……』
 頭に血が昇っているんだろうなぁ……と、粋は、予測する。
 なにより、直接弾丸を受け止めたのは、純である訳だし……。
『今頃……純ちゃん……自分が盾になって、突破口を作ろうとかなんとか……悲壮なこと、考えているに……』
 違いないのだ。
 産まれた時からともに育った姉妹であるだけに、思考パターンは、手に取るように分かる。
 一卵性双生児で、産まれてきた順番などあまり意味がないだろうに……純は、いつまでも「姉」であろうとする所がある。その癖、思慮が浅くて、頭に血が昇りやすい……。
『……その点は、自分も、あまり変わらないか……』
 粋は、スカートの中からごつい山刀を取り出す。
 この山刀を握る時の、ずしり、とする感触は、酒見姉妹を安心させる。

 山刀……重量と本来の機能でいえば、「刀」ちょいうよりも「鉈」に近い。が、形状は、ナイフだ。刃はついているが、「一応」という気休めでしかない。斬る、というよりも、重量と薙ぐ時の勢いで、ダメージを与える。本来は、人里離れた野山を進むとき、枝を払いながら進むための「道具」であって、「武器」でさえない。しかし、姉妹はこの山刀を「凶器」として愛用している。
 酒見姉妹は、外見は華奢でか細い。が、二宮の血が入っているので、そこいらの成人男性も及ばない筋力を持っている。ので、重い山刀も軽々と扱える。体自体が小さいので、ウェイトでは、大抵の相手に負けるが……この山刀を振り回せば、その不利もある程度は、埋められる……。
 また、山刀の質量は、純が、先ほど孫子のスタン弾を受け止めたように、防御にも役に立つ。山刀は、分厚い鉄板でもある。

 孫子はライフルを抱えながら、二人を、酒見姉妹を待っている。今回は、二人を迎撃することが目的だから、孫子は狙撃時のセオリーをあえて無視していた。
 本来なら、一発射出する度に移動し、狙撃場所を変え、居場所を悟られないように努めなくてはならないのだが……孫子は、「そこ」で二人を待っていた。
「そこ」……マンションからは、直線距離で三百メートルほどの、電柱の……変電器の、上……だった。
 荒野のマンションが狙える高所……というと、こんな所しかなかったのだ。
 電柱の上で、リボンやフリルをふんだんにあしらったドレスを纏った孫子が、ライフルを構えながら仁王立ちになっている……という様子は、傍目にはかなりシュールかつ滑稽な光景であったが……幸か不幸か、目撃者はいなかった。周囲は住宅地であまり背の高い建物がなかったし、すっかり日が暮れた中、電柱の上を見上げて歩いている者もいなかったので。
 仮に、その時の孫子の姿を見かけた者がいたとしても……あまりにも、非現実的な光景に、「……これは幻覚だ、これは幻覚だ……」と、自分に言い聞かせるに違いなかった。




[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのじゅうに]
Link-Q.com SPICY アダルトアクセスアップ アダルト探検隊 アダルトファイルナビ AdultMax  えっちなブログ検索 いいものみ~つけた 影検索 窓を開けば

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ