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彼女はくノ一! 第五話 (181)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(181)

 孫子が一番知りたかったのは、自分の視力が、現役の術者にどれほど通用するか、ということだった。
 囮役の少女は、今の所、孫子に対して自分の姿を意図的に晒している。だから、孫子も、申し訳程度に牽制の銃弾を送る程度にしている。それでも、若干の足止めくらいにはなっている筈なのだが……囮役の少女は、器用にベランダの手摺りなどを足場し、マンションの壁面伝いに、地上に降り立った。
 より正確に言うのなら、マンションに隣接した家屋の屋根に。
 その少女は、屋根の上を軽快な足取りで、孫子のいる方向に、真っ直ぐに疾走してくる。囮役であるから、物陰に隠れようともしていない。
 問題は……荒野のマンションから姿を消したままの、もう一人の少女だ。
『……さて……』
 孫子は、油断なく周囲に気を配りながら、突進してくる少女に向け、弾倉を何回か替え、次々とスタン弾を送り込む。徳川の工場でバックアップ体制を確立してあるので、弾数に不安はない。
 囮役の少女は、孫子が打ち込んだスタン弾を片っ端から器用に無骨な得物で打ち払いながら、速度を緩めずに突進してくる。
『どう……歓迎してあげましょうか……』
 ゲームのルールは簡単だ。
 彼女たちがここに来るまでに、孫子が彼女たちの戦意を喪失させれば、孫子の勝ち。そうできなければ、孫子が彼女たちにタコ殴りになり……そして、以後、実戦の場に出ることを、控える。
 ……足手まといになると分かっていながら、荒野や楓にまとわりつく……というのは、孫子のプライドが許さなかった。
 孫子は、囮役ではない、もう一人の少女の出方を予測する。
 物陰に隠れ、気配を押し殺して、そっと孫子に近づいてくる……というのが、セオリーだ。
 一息に孫子に飛びつける場所まで近寄ることが出来れば……囮役の少女と連携して、孫子に襲いかかってくるだろう。
 つまり……。
『……もう一人の少女の接近に気づくか……囮役の少女を、事前に撃破できれば……』
 孫子の勝率は、かなり高くなる。
 二対一で近接戦……ということになると、ただでさえ身体能力では見劣りする孫子は、ますます分が悪くなる。だが、一対一で、銃器を手にしている状態なら……まだしも、やりようがあった。

『なんで……隠れない? 移動しない?』
 孫子が心中で「囮役の少女」と呼んでいる、酒見純は、電信柱のてっぺんに棒立ちになったまま、自分に銃口を向けている孫子の態度を不審に思った。
 こちらが遠距離用の武装をしていない……という予測をしているのは、理解できたが、まるで姿を隠そうとしないのは……どうにも、附に落ちなかった。
『……まるで……誘い込んでいるような……』
 酒見純は、不審に思いながらも、次々と打ち込まれてくる弾丸を山刀で弾きつつ、刻一刻と孫子に近づいていく。
 不意をつかれた初弾こそ、まともに受け止めてしまったが、真っ正面から飛んでくる弾丸を横合いからはじき飛ばすことは、純にとってもさほど難しいことではない。受け止める、のではなく、横合いから弾く、のであれば、腕に受ける衝撃も少ない。それでも、初弾の衝撃がまだ腕に残っているから……投擲武器など、指先の微妙な運動が必要となる攻撃は、不可能だった。
 仮に、あの狙撃者……孫子に、肉薄したとしても……純にできるのは、力任せに不器用な攻撃を行うこと、くらいだ。
『……粋……』
 だから、純は、故意に姿を晒して、囮役を演じている。
『わたしが……気を引いているうちに……』
 あの狙撃者を……。

『……ったく……あの狙撃者も……お姉様も……』
 酒見純は、苦労して気配を消し、物陰に身を隠しながら、地上を、路地裏を走っている。
『……二人とも!』
 まっしぐらに狙撃者を目指している純に比べ、姿を隠しながら、道に沿って、走っている粋は、どうしても遅れがちになる。そのタイムラグを少しでも短縮しようと、粋は、汗まみれになりながら全力疾走をしていた。
 狙撃者……孫子に居場所を気取られないように気をつけながら……だから、神経を使うし……なおさら、疲れる。
『……自分に……酔いすぎ!』
 そもそも……あの狙撃者は、かなり芝居がかっている。
 粋は、わざわざ荒野や野呂静流と一緒の時に攻撃してきたことからも、単純な「敵」ではない……と、予測していた。
 現在、狙撃者が一箇所に、それも、これみよがしに、分かりやすい場所に陣取って、純を攻撃している……という特殊さ、を考えてみれば……狙撃者の目的が、自分たちの撃破にはないことは、容易に想像できる筈なのだ。
 敵の目的は……自分たちを撃破すること、ではなく……自分たちと、敵対すること、そのもの、だ……と、粋は、想定している。
 だとすれば……敵の思惑に、乗らない……。挑発や、攻撃を、ことごとく無視する……というのが、敵に一番ダメージを与える方法なのだが……。
『……もう!
 お姉様ったら!』
 だが……最初に攻撃を受けたことで、すっかり頭に血が上っている純は、そうした簡単な想像力さえ、発揮できない状態にあるらしい。
 いや、今では……。
『……お姉様……自分が盾になる、とか……ナルシスト・モードに……』
 すっかり没入している可能性が……高い。
 こうなると、この茶番を止めるのは……比較的、現在の状況を俯瞰できている、自分だけ……と、粋は思う。
『……それに……』
 粋はようやく……狙撃者、の姿を、間近に捕らえる位置に、到達した。
 狙撃者は、純の方に向けて、ライフルを連射していて……どうやら、粋の存在は、まだ感知していないらしい。
『もう少し……近寄らないと……』
 狙撃者の……ファッション・センスは、なかなかのものだ。服のセンスと着こなしだけは、手放しで称賛してもいいと思う。
 ……他人を狙撃する時に、わざわざああいう恰好をする神経は、粋にも理解出来なかったが……。
『腕は……確か、か……』
 ライフルを連射する姿勢に、隙、がない。
 粋の視界に入ってからも、何回か弾倉を取り替えているが……その動作は、スムースだ。弾数にも、かなり余裕があるらしい。
『……腕利きで、弾数にも余裕がある、スナイパーが相手……』
 二人がかりでも、厳しい戦いになりそうだ……と、粋は、覚悟を決めた。




[つづき]
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