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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(98)

第六章 「血と技」(98)

 囮役の少女は、果敢だった。
 ライフルを連射する孫子に向かって、臆することなく、真っ直ぐに向かってくる。
 姿を隠しているもう一人の少女を、完全に信頼している。それに、度胸がある……とはいっても、自分に向けて銃弾を連射する向かって、数百メートルの距離をほぼ直線上に向かってくる、無謀と紙一重の蛮勇は……。
『……嫌い、ではない……』
 と、孫子は、判断する。
 しかし、孫子は、手加減しない。
 囮役の少女に向け、立て続けにスタン弾を打ち込みながら、孫子は、神経を尖らせてもう一人いる筈の少女の姿を探し求める。かといって、囮役の少女からも視線を外すことはできないので、孫子にとってはなおさら、神経をすり減らす状況だった筈だが……孫子は、うっすらと微笑んでいる。
『……ここには……』
 楓といい、この少女たちといい……。
『手加減をしなくともいい方が、いっぱい……』
 孫子は流れるような動作で弾倉を取り替えながら、囮役の少女を狙撃し続ける。
 狙撃しやすい体幹部を狙っているし、相手はどんどん近づいてくるのだから、孫子の腕なら外しようがないのだが……孫子が送り込んだスタン弾は、ことごとく、「手動」で弾かれている……らしい。
 それでも、腕や肩にはかなりの負担を与えている筈だし、体力の消耗も強いているから、まったくの無駄ではない。
 最悪、これから「二人同時に」相手にしなくてはならない事態が来ることも、可能性としてはありえるわけで、であるとすれば、孫子としては、少しでも相手を損耗させておきたいところだ。
 だから、孫子は、囮役の少女に対する攻撃の手を、緩めない。
 その少女は、すでに顔の細かい部分まで、判別できる距離に近づいていた。と、いうことは、もう一人の少女の方も……すぐそこに、いてもおかしくないわけで……。
 微妙な気配を感じ取った孫子は、不意に、ライフルの銃口を下に向けて、放つ。
『……そこ!』
 いた。
 すぐそこの、塀の脇から、顔を出している。
 しかし、孫子の放ったスタン弾が届く前に、顔を引っ込めた。
『やはり……近親者?』
 そんなことを思いながら、孫子は、銃口をすぐに、囮役の少女の方に引き戻す。
 その一瞬だけ顔を覗かせた少女と、囮役の少女は、呆れるほど似通った目鼻立ちをしていた。姉妹か……せいぜい、従姉妹、といったところだろう。
 人数が多く、血がかなり拡散しているとはいえ、六主家は、血族集団だ。近親者で組んで仕事をしているパターンも、多いに違いない……と、孫子は推測する。
 そうこうするうちに、囮役の少女は、もうかなり孫子に近づいている。
『予想よりも……早い……。
 野呂系?』
 そんなことを思いつつ、孫子は、引き金を絞りつつける。
 いずれにせよ……。
『ここからが……』
 本番ですわ……と、孫子は思う。
 この一戦で……孫子が、術者を相手にして、戦力になるのかどうかが、明瞭になる……。
『……お手並み、拝見……』

 当然のことだが、狙撃者との距離が詰まるにつれ、それを弾く酒見純の負担も、強くなってきた。それでも純は、狙撃者に向かってまっしぐらに進むことを、やめない。
 しかし……。
『……あっ……』
 間近に、あと二十メートル強、という距離にまで近づいて……純は、狙撃者の立ち位置が、巧妙に考えられたものであることを、知った。
 まず、近場に、それ以上高い場所がない。
 高所を押さえている……ということは、遠投/射出武器の使い手を、かなり有利にする。重力の助けを借りられるからだ。射出した物体には重力エネルギーが加わり、そこに押し寄せようとする者は、逆に、そこまで昇っていかねばならない。
 孫子の立っている変電器の上、は、ただ高い……というだけではなく……周囲から、孤立していた。
 あそこに近寄ろうとするのなら……電線の上を伝っていくしか、道がない。
 しかし、そうすると……今度は、至近距離から、狙撃者に狙い撃ちにされる、ということであり……。
『……せっかく……ここまで来たのに……』
 純は、口惜しさに奥歯を強く噛みしめる。
 あまたのスタン弾を弾いてきた純の腕は……すでに、感覚がない。かろうじて投擲武器を投げることはできても、微妙なコントロールは望めそうにない。
 二十メートル、というのは……熟練者が扱う場合でも、手裏剣や六角などの有効射程距離、ギリギリだ。熟練者でなければ、そこまで離れれば命中させられないし、まぐれで命中することがあっても、たいしたダメージは期待できない……。
 その狙撃者は……「距離」と「高度」という地の利を考慮し、そのポジションを、要害と化している。
『……粋は?!』
 純が、そう思った時……狙撃者が、銃口を下に向けた。

『……わっひゃぁ……』
 急いで顔を引っ込めた粋は、心中で、舌を巻く。
 様子見で、ちらりと顔を覗かせただけで……途端に、銃撃された。
『あの子……とんでもなく、勘がいい……』
 ちらり、と見えた狙撃者の姿を思い返しながら……。
『……ひょっとして、一族?』
 粋は、そんなことを、思い、それから、自分の想像を、慌てて打ち消す。
 あんな変わり種が一族にいたら……絶対に、噂が広まっている筈だ。
 スカート姿で、涼しげな瞳をした狙撃者は……引き金を引くその瞬間も、微笑みを浮かべていた……ように、粋には、見えた。
『……あの子……』
 粋は、高速で思考を回転させる。
 あの狙撃者は……。
『……予想以上に、難物かも……』
 力押しでなんとかできるような、単純な相手ではない……と、いう気が、ひしひしとしてきた。
 少なくとも、酒見姉妹がこれまでに見聞してきた、どんなパターンにも該当しない、敵であることは確かで……。
 だからこそ、反応も対策も、考えるのが難しい……。
『……お姉様……どうしましょう?』
 ここから、攻撃が有効に作用する距離まで近づくのでさえ……かなりの苦労を強いられるのではないか……という、かなり確実な予感を、この時の粋は持っていた。




[つづき]
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