第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(184)
香也の絵を取り込み、それを3D化したものをテンはノートパソコンに表示させた。茅にみせて、細かい部分を修正してもらう。予想図の方はともかく、佐久間現象の記憶の中の像と、現在の再現データを照合することには、意味がある……と、荒野たちは、思った。
「……服装や髪形で、印象もかなり変わるからね……。その点、骨格は、整形でもしない限り、あまり変わらないし……」
ガクは、真剣な顔をして画面を覗き込みながら、そういう。
「……一度モデリングしてしまえば、機械的に、このデータに近い人をチェックするのは、簡単だよ……」
「……モニターする装置があれば、の話だけど……」
テンが、そう続ける。
「でも……徳川さんで作っている、監視カメラ、もうかなりいい所まで仕上がっているらしいし……」
「……そう。後は、ソフトの微調整だけ……。
製品かの前のテストと称して、この周辺に、無料で一万個くらいばらまいて設置する作業が……うちの会社の、初めて受注する仕事になる予定です……」
孫子が、答える。
登記も、事務所の設置もまだなのに、口約束で仕事が入っているのであった。
「……玉木のねーちゃんが、バレンタインイベントの後片付けをしてもらいたいとかいってたけど……どっちが先になるのかな……」
ガクが、首を捻る。
シルバーガールズの撮影に協力している関係で、テンとガクは玉木と話す機会が増えている。
「受けられるものは、どんな仕事でも受けますとも……。
今週中に、事務所の開設と登記も、形になりそうですし……後は、登録者集めですね……」
「……な、なに?」
「先から、なんの話しなの?」
話題にもノリにもついていけない酒見姉妹は、しきりにそんなことをいいながら、身内の話しをし続ける人々を見回している。
「話すと長くなるし、そのうちいやでも思いしるだろうから、今、詳しくは説明しないけどな……」
荒野は、酒見姉妹に、しみじみとした口調で説明した。
「……世の中は広くて、一族以外にも、特異な才能や能力を持った奴が、いくらでもいるっていうこった……」
荒野のその言葉は、なんだか知らないが、有無を言わせぬ説得力を持っていた。
「……は、はい。
い、一族以外にも、よ、世の中には、さまざまな才能を持った方が、い、いっぱいいるのです……」
そういったのは、野呂静流である。
「……わ、わたしは、この前まで、東京にいたのですが、あ、あそこには、パ、パートタイムの殺し屋さんとか、飲食店を経営している魔女さんとか、無理やりほつれた物語を終わらせる、デウス=マキナな人がいたりするのです……」
唐突、かつ意味不明な言辞だった。
「……東京に、静流さんのユニークな知り合いの方々が多くいることは、分かりました……」
そこで、荒野は、軽くいなして本題に戻すことにした。
「……で、この町にも、外見小学生な保健室の先生とか、マッドサイエンティストな学生とか、自称女子アナ希望のお調子者とか、これまたいろいろなやつらがいて、そいつらの連鎖反応でいろいろなことが同時進行で起こっている……最中な、わけだ……」
もちろん、この土地の現状に詳しくない酒見姉妹と野呂静流に、説明している。
「……そ、そう、その、小さい、保健の先生なのです……」
野呂静流は、意外な指摘をした。
「……居酒屋を経営している魔女さんから、お正月に、子供にしか見えない女の方と、デウス=マキナな人が、魔女さんのお店で、いろいろと興味深い話しをしていた……と、聞いていたのです。
そ、それで、この土地に、興味を持ちはじめたのです……」
「……え?
あっ……それって……」
荒野は、その当時の事を必死で思い出す。僅か一月ちょい前の事なのに、はるか昔、のような錯覚がある。
「……ええっと……あの時、先生は……データを、のらさんの知り合いの、なんだか変な人に、渡して……意見を聞いてくるっていって……」
「は、はい……。
その、デウス=マキナな人は、折り紙付きの変人なのです……。
でも、不思議な思考回路を持っているので、袋小路に行き当たった時、思わぬ突破口を作ってくれることもあるのです……」
「……そういわれてみれば……のらさんと静流さんの、共通の知人であっても、おかしくはないけど……」
荒野は、半ば呆然としながらも、渋々、納得する。
「そんなところで、接点があるなんて……。
世の中、広いようで狭いなぁ……」
「……わ、わたしがここに来たのも、その、デウス=マキナさんと、魔女さんが、別々に、この町にいけと助言してくれたからなのです。
デウス=マキナさんは、面白がってそう勧めているだけですが、魔女さんの占いとアドバイスには、従った方が賢明なのです……」
どうやら静流は、その連中に、ある種の信頼を寄せているようだ。
「……ま、魔女さんは、迷うくらいなら、自分の足で歩いていって、自分で道を切り開け、と、いいました。
デウス=マキナさんは、百一匹ニンジャ、大行進! 面白い展開になって来たから、是非、参加するように……と、い、いいました……。
わ、わたしが、じゃないですよ!
……その人が、いったんですからね……ひゃ、百一匹、って……」
「……いや……いいけど……」
荒野は、追求するのが馬鹿馬鹿しくなったのか、静流から目をそらし、酒見姉妹に話しかける。
「と、いうわけで……世の中、いろいろな人がいる訳だから、一族の一員だという程度で、疎外感を持つ必要はないぞ……。
何せ、この世には……おれたちなんかよりも、もっと濃い連中が、大勢いるからなぁ……」
言外に、「酒見姉妹程度では、キャラの立ち方が足りない」といっているようだが、荒野はそもそも「キャラが立つ」という概念さえ知らない筈なので、単純に、「これ以上、変人に、この場を引っ掻き回されたくない」と思っているのが、自然と態度に現れているだけであろう。
「……とにかく、普通の女の子として暮らしたくてここに来たんなら、くれぐれも、問題、起こさないでくれ……。
頼む……」
酒見姉妹に向かってそういって頭をさげる荒野の姿には、そことはない哀愁が漂っていた。
そんな荒野の頭を、茅が「いいこ、いいこ」といいながら、手で撫でている。
「……そ、そういわれても……」
「……わ、わたしたちだって……静かに暮らしたいから、ここに来た訳で……」
いきなり荒野が頭を下げたので、姉妹はばつの悪い表情をして、しどろもどろになった。
「そ……それよりも! そういうことをいうのなら!」
「そうそう!
こういう凶暴な、面識のない人間を、いきなり狙撃してくるような、変な女にいって!」
酒見姉妹は、二人そろって、孫子を指さした。
「……あら?
あの程度、ほんのご挨拶、のうちだと思いますけど……」
姉妹に指弾された孫子は、にこやかに応じた。
「……あれでご満足できない、ということになりますと……今度は、完全武装で改めてご挨拶をし直さないと……」
こういう時の孫子の笑顔は、妙に迫力がある。
「……すいません。もう、おなか、いっぱいいっぱいです……」
「……ご挨拶は、もう結構です。謹んで、辞退させていただきます……」
即座に、孫子に対して頭を下げる酒見姉妹。
計算高い……というより、「自分たちが適わない相手」を肌で感じるセンスを所持しており、なおかつ、「弱いものにはとことん強気、強いものにはとことん卑屈」というDQN根性の持ち主だった。
「「……おねーさまと呼ばせてください……」」
そう、声をそろえる酒見姉妹は……もちろん、「最強の二番弟子」である楓にも、逆らうつもりは微塵もないのであった……。
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