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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(101)

第六章 「血と技」(101)

 孫子とともに酒見姉妹を狩野家に送り届けた後、荒野は、その足でマンドゴドラに向かって「売れ残りのケーキを下さい」といって、マスターに微妙な表情をさせることになる。
 その時刻、茅と二宮静流の二人が、共同で夕食を調理中であり、荒野としては、時間を持て余していた。静流は目が不自由とは思えないほど、てきぱきとした動作でキッチンを動き回り、茅と談笑しながら、仲良さそうに、食事を作っていた。はっきりいって、荒野がはいりこむ隙がないように、思えた。
『……茅のことを考えれば……』
 これでいいんだよな、と、荒野は思う。
 一抹の寂しさを感じない訳でもなかったが、荒野はもともと、茅は、もっと多くの人と触れ合うべきだと、思っていた。
 気づけば……茅は、学校でも、ボランティアやコンピュータ・システム回り、それに、自主勉強会の準備などを通じて、多くの生徒と知り合い、頼りにされており、狩野家の三人娘にも、何故か一目置かれている。
 荒野が特に心配するまでもなく、気づけば茅は、多くの、多様な人々と触れ合いっており、また、頼りにされる存在にも、なっていた。
『……茅の周囲だけをみれば……』
 物事は、いいほうに転がっている……ように、思える……。
『……後は……』
 現在の状況を、継続的なものにするために、何ができるか……ということを、荒野は考えれ、実行しなければならない……。
 流入してくる一族の問題は、さておき……。
『……一番のネックは……ヤツラだよなぁ……』
 荒野の脳裏に、ガス弾の事件が蘇る。
 より鮮明に思い出すのは、佐久間現象の記憶を覗き込んだ茅が描いた、似顔絵だったが……。
『どうやって……やつらの先手を取って行くか……』
 この時点で荒野は、敗北する可能性をまるで考慮していない。
 やつらがどういう悪辣なことを行おうとも、実力で阻止する。万が一、阻止行動に遅れをとって間に合わなくとも、能力の及ぶ限り、被害を回復させるように、努める……。
 有働が前に指摘した通り、無差別テロを事前に察知し、十割阻止する……ということは、どんな組織にも不可能な事だったが……それでも、出来る限りのことをする、という選択肢は、残されている。
 そして、荒野が、この土地から逃げない……という選択をした以上……たとえ、この先、現実に少なからぬ被害が出たとしても……荒野は、そこから逃げない、と覚悟を決めている。
 実際に被害が出た時は……おそらく、今ほど、快適な生活は、いとめない。あちこちで白眼視される、筈だったが……それでも、ここに踏みとどまって、少しでも被害の埋め合わせをして、過ごすことになるだろう……。
 現状で、荒野が想定する「敗北」とは、この場から逃げ去ることであり、「完全な勝利」は、以前、宣言したように、対一族用の兵器として育てられた子供たちを一人残らず捕らえ、洗脳を解き、社会復帰させること。その中間に、いくつかの「不完全な勝利」のパターンが存在し、「多大な被害を出して、残りの生涯を埋め合わせに捧げる」とか「敵の子供たちを、死傷させてしまう」、同様の別ベクトル・パターン、「仲間を、死傷させてしまう」などの可能性が、様々に想定できた。
 が……。
 いずれにせよ、荒野は、「逃げ出さない限り、敗北ではない」と定義している。
 そして、「できるだけ、きれいに勝ちたい」とも。

『……そのために、今、おれにできることは……』
 茅、楓、孫子、テン、ガク……荒野の仲間たちは、それぞれの方法で、襲撃に備えはじめている。地元とのネットワークを密接なものとし、経済的な基盤を固め、消耗品の補充機構を構築し、戦力の増強を図っている。
 規模こそ小さいが……国家が、仮想敵国を想定して、戦端を開く準備をしている……様子の、ミニチュア・サイズ版、ともいえた。
 そうした中で、流入してくる一族の世話、の他に、荒野にできること、は……。
『……情報収集、か……』
 荒野の立ち位置では、今はその作業に集中するのが、適切に思えた……。

「……はぁーい!」
 荒野がそんなことを考えていると、夜道の向こうから、シルヴィ・姉崎が歩いてきた。
「この間の返事……もらいに、来たの。
 カヤとは、十分に話し合う時間があったでしょ?」
 このタイミングで、偶然、ということは、ない。
 この前の申し出を、荒野が十分に検討する期間を置き、なおかつ、一人きりになる時期を狙って、姿を現したのに、違いない。
「……ああ。うん。受ける。
 茅と話し合った結果、そういう結論になった……」
 荒野は、出来る限りそっけない口調で伝えた。
 一時期、兄弟として暮らした事がある相手と、こういう話し合いをしているのが……どことなく、こそばゆい。
 シルヴィを、いまさら異性として意識する……というのは、実に、奇妙な気分だった。
「……All right!
 予想通りの、結論ね……」
 シルヴィは、荒野と肩を並べて歩きながら、快活な様子でそういった。
「……カヤは、賢い……。
 損得が解る、いい子……」
「……それは、いいけど……」
 荒野は、今一度、確認した。
「見返りの方は、確かなんだろうな……」
「……姉崎の名にかけて、誓うね……」
 シルヴィは、笑いながら自分の胸に手を置いて、宣誓した。
 不信と不誠実とが平然とまかり通る世界だからか……六主家に連なるものが、自分の属する家名にかけて「なにか」を誓うことは、かなり重要な意味を持つ。
 そうした誓約を一度でも違えれば……他の六主家から、完全に孤立する……ような、システムになっているのだ。
 この世界なりの、最低限の「安全保証」だった。
「……bad kidsは……姉崎にとっても、都合がいい存在ではない……。
 コウたちが始末してくれるのが、一番、ケーザイテキね……」
 ネイティブなみの流暢な日本語も話せる筈なのに、シルヴィは、時折故意に、おかしなアクセントでしゃべる。
「悪餓鬼ども、か……」
 荒野は、つぶやいた。
「いい、呼称だな……」
「……そのワルガキのインフォメーション……コウに、あげるよ……」
 シルヴィは、チロリと自分の口唇を、なめた。
「……今度の週末とか、どう?」
「……いいけど……」
 荒野は、頷く。
 ここまで話しがまとまってしまえば、拒否する理由がない。
「あの……お手柔らかに……特に、一度に多くは、できない。
 回数的に……」
「……Why?」
 シルヴィが首を傾げる。
「コウ……若いのに……」
「……茅がつけた条件がな……。
 シルヴィとやった後、その二倍とか三倍、やらなくっちゃいやだってことで……」
 荒野が素直に答えると、シルヴィは、破顔し、首をのけ反らせて大笑いした。
「……はっ……はっ……。
 カヤ……nice!」
 シルヴィはたっぷり三分くらい笑って、ようやく息を整える。
 そして、不意に真顔になり、
「……コウ……実は、姉崎秘伝の、とっても良いドラッグが、あるんだけど……」
 といった。

[つづき]
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