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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(102)

第六章 「血と技」(102)

 シルヴィの、「どう解釈したらよいのか迷う誘い」には、適当に言を左右にして逃げをうっておいて、マンション前で別れ、自分たちの部屋に戻ると、キッチンで、メイド服の茅と野呂静流が肩を並べて調理をしている所だった。
 目が不自由だという静流は、包丁を使ってキャベツの線切りをしている。見ていて危なげのないしっかりした手つきで、しかも、包丁を動かす手が異常に早かった。あっという間に、わずか数十秒という時間でキャベツの一つを切り刻み終え、切ったものをボウルにほうり込み、次のキャベツを掴む。調理に慣れた健常者の調理人でも、これほど早い者は少ない筈であり、下手をすると、フードプロセッサよりも、早い……。
『……流石は、最速……』
 荒野は、妙な所で感心した。
 茅は静流に包丁を使わせている間に、煮魚や豚汁をみたり、ドレッシングを作ったりしている。胡麻を摺ったものと若干の調味料を合えた、オリジナルのドレッシングだった。まろやかさの中に、ピリ辛風のアクセントが加わり、食が進む。
 シンプルで、栄養のバランスもそここそ良く、飽きがこなくて、量がたっぷりとある、という荒野好みのメニューで、これだけ同居生活が長くなってくると、茅も流石に荒野の好みを学んでいた。

 茅や静流も女性にしてはよく食べた方だが、荒野は二人合わせた量のさらに倍ほど、都合四人前相当を平らげ、すっかり満足した所で、食後のお茶、という段になってと、荒野は、二人に、
「……お隣りで、みんなと一緒にお茶にしよう……」
 と、提案した。
 もともと、そのためにマンドゴドラでケーキを調達して来たのだ。
 酒見姉妹も、そろそろあそこになじみはじめている頃かも知れない。
『……あそこ家の人たちは……』
 滅多なことでは動じないし、順応能力も高い。
 双子にしてみれば、あんな「一般人家庭」に接するのははじてめてのことだろうし、今頃、かなり戸惑っている筈だ……と、荒野は予測した。
 荒野の提案を茅がすんなりと受け止めたのは当然だったが、静流も、荒野たちがかごく簡単に説明すると、狩野家の様子に興味を持ったようだった。
 そこで、ケーキの箱を抱えて三人と一匹でお隣りに向かう。静流が連れていた精悍な面構えをした犬(静流は「こらん」という名前だ、と教えてくれた。どういう字を書くのか、それとも外国語なのか、ということまでは話してくれなかった)はやはり盲導犬で、躾が行き届いていた。
 当初、茅が「こらん」を家に上げ、ミルクでも与えようとしたが、
「……よ、よそさまのお家にお邪魔する時は、餌を与えないはもちろんのこと、い、いつも玄関先で待たせるようにしているのです……」
 と、静流は説明した。
「こらん」は、静流の命令しか聞かないし、静流の与えた餌しか、口にしない。
 まさに、「静流の」犬、だった。

「静流の犬」こらんは、狩野家でも荒野のマンションでと同じように、玄関に座り込み、そこから動こうとはしなかった。
 荒野は、ケーキの箱を出迎えたガクに渡す。
「……これ、盲導犬ってやつ?」
 挨拶をする前に、ガクはそういって、座り込んだ「こらん」を物珍しそうに、しげしげと眺めた。
「……そ、そうなのです。
 こ、こらんは、わたしの犬なのです……」
 静流が、どもりながら、しかしはきはきとした口調で、ガクの方に体をむけて、答える。
「……あ。おねぇさん……目が……」
「は、はい……。
 まるで、みえないのです……」
「……ふーん……。
 そういうヒトも、こういう犬にも初めてあった……。
 ボクは、ガク。茨木、岳……」
「の、野呂の、静流、なのです……」
「野呂、かぁ……。
 じゃあ、おねぇさん、足が早いんだ……」
「……あ、足は、それほどでも……。
 こ、この目ですから、危なくて遠くまで勝手に走れませんし……。
 で、でも……ち、近場では、こ、これで、なかなかのものなのです……」
「……ああ。
 そんな感じだ……おねぇさん……ちっとも、動揺していない……」
「……ガ、ガクさんも……全然、汗の匂いも、心拍数も……変わらないのです……。
 お、大物の、気風を漂わせているのです……」
「……そっか、おねぇさん……目の変わりに、他の感覚が鋭いのか……。
 ボクは、鼻だけだけど……それだと、そこのこらん君程度でしかないな……。
 ……ね?
 おねぇさん、そこのこらん君の名前、どういう字、書くの?」
「……あ、嵐を呼ぶ、と書いて、呼嵐、です……。
 ち、父が、そう、名付けたのです……」
 玄関先で、さっそく話し込むガクと静流。
 意外に、この取り合わせは、馬が合うらしい……と、荒野は思った。
 結局、荒野が、
「……ま、こんな所で長話もなんだから、中に入って……」
 と、頃合いを見て即さなければならなかった。

 居間に通されると、風呂あがりの孫子が妙にさっぱりとした表情で、食事をとっている最中だった。
 メニューは、焼き魚とインゲンの和え物にみそ汁。
 玉木との付き合いができてからこっち、海産物の摂取量が多くなったのは、こちらでも同様らしい。
 他の住人はすでに食事を終えたらしく、楓が台所で洗い物をしている気配がした。テンが、炬燵の上にノートパソコンを広げており、香也はすでにプレハブに籠っているのか、姿が見えなかった。
 ティーセットの入った箱を抱えた茅が、例によってすたすたと台所に姿を消す。文字通り、「勝手知ったる」という奴だった。
「……双子は?」
 荒野が、誰にともなく、たずねる。
 あの二人が、「権威や強者にはとことん弱い」という気質であることは、資料から見ても明らかであり、この家の人々と荒野が親しくしている、ということを早いうちに見せつけておけば、少なくとも、ここの人たちと無用のトラブルは避けられる筈だった。
「まだお風呂ですわ。
 ……すぐ、来ると思いますけど……」
 着ていた服がボロボロだったので、楓と孫子の服を着替えに渡しておいた、という。
「……ま、いいか。
 ケーキ、もって来た……。
 バレンタインなんとかスペシャルと、普通の。
 特製ケーキは、おれたちはもう食べているんで、ガクとテンが食べていいよ……」
 荒野がそういった途端、
「……えー!」
「……ずるい!」
 パジャマ姿の酒見姉妹が、どたどたと居間に入って来た。
 風呂あがりだから、二人とも顔が上気している。
「……お前ら……。
 下手すると……ガク以上に、単純な思考回路しているな……」
 半ば飽きれながら、荒野がそういうと、
「……ボク……このおねぇちゃんたちほど、食い意地張ってないし……」
 これみよがしに、ガクが膨れてみせた。
「……お前ら……ガクよりも、意地汚いってさ……」
 今度は、荒野がそう、酒見姉妹に水を向ける。
「……だって、ガク……。
 その、マンドゴドラのバレンタインスペシャル、昨日、一人でいくつも食べてたし……」
 それまで黙々とノートパソコンに向かっていたテンが、種を明かした。
「……昨日、みんなの注意がカニに向かっていたことをいいことに、ガク、ケーキをほとんど独り占めしてたんだ……」
「……つまり……双子とガクは、食い意地に関しては、どっこいどっこいということだな……」
 荒野は、もっともらしい顔をして、そう結論した。
 ……結論が出たからといって、、どうだということもないのだが……。

「……お茶が、はいったの……」
 その時、茅が、ティーポットと暖めたカップを持って、居間に入って来る。

[つづき]
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