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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(103)

第六章 「血と技」(103)

 その夜は、野呂静流と酒見姉妹の顔見せを兼ねた歓談となった。
 途中、新参の三人には構わず、茅や孫子が現在抱えている案件の話しをしだして、こちらの事情にまだ明るくない三人を戸惑わせたりもしたが、そうしたやり取りの末、三人も多少は打ち解けたようだった。
 特に静流は、目の障害があり、吃音もあるものの、特に卑屈に振舞うこともなく、ゆったりと寛いでいるように見えた。酒見姉妹の方は、どうみても静流ほど無邪気には見えなかったが、それでもなにかと騒がしい連中の中で、徐々に構えを解きだしているのは、荒野にも肌で感じられた。
『基本的に……同じような年頃だしな……』
 酒見姉妹は、移住者リストに記載されていた者の中でも、比較的癖の強い方に分類されている。その姉妹が、初対面で、戸惑いながらもこれほどペースを崩されているのが、荒野にはおかしかった。
『反発や摩擦は、あっても、いい……最終的に、丸く収まるのなら……』
 と、思う、荒野だった。
 もともと、一族の中には、一定の割合で、何かと口実を設けては「実戦」に及ぼうとする、血の気の多い連中が存在するのだ。どうせ避けられない衝突なら、適度に発散する機会と相手を与え、少しでもコントロールしようとする方が……まだしも、現実的に思えた。
『……そうなると……』
 そうした血の気の多い連中を、何かと手段を講じて、玉木たちの「撮影」に協力させる……というのも、ひとつの手かも、知れない……。
 とか、荒野は思いはじめている。

 翌朝、いつものように、多人数でランニングに出かけると、テンがちょうど荒野が考えているのと同じことを提案してきた。
 酒見姉妹が、自分たちに興味を示しているようなので、今日の放課後、徳川の工場内で、玉木たちの撮影隊の監視の元、模擬戦を行いたい……との、ことだった。
「……ま、いいんじゃねーの……」
 内心では、テンの方からそういってきたことに驚きながらも、口に出した荒野の返事はそっけなかった。
「あいつら……おれたちにどうこうするほどの実力は、ないけど、なんかの間違えで、一般人に襲い掛かるようにでもなったら、それなりに脅威ではあるし……お前らなり才賀なりが、あの二人を抑えられるのなら、こちらとしては、むしろ歓迎したいくらいなんだけどな……」
「……ねーねー。かのうこうや」
 ガクが、あっけらかんとした口調で、荒野に語りかけてきた。
「あの二人、ってもしかして……権威とか力に弱いタイプ?
 そんでもって、弱いものいじめが好き、とか……」
 一応、「問いかけ」の形をとってはいる。
 が、ガクの表情をみれば、わかりきった事実を念のために確認している……つもりであることは、明白なようだった。
「……ああ。そんなもんだ……。
 あいつら……下手すると、ガクよりも、分かりやすいからな……。
 やはり、普段の態度でわかったか……」
 荒野は、これにもあっさりと頷く。
 その意味で、あの双子は……荒事以外に、あまり使い道がない人材でもあるのだ。
「……なんか、聞いていると、さいてーなんじゃないか?
 その子たち……」
 横合いから、飯島舞花が口を挟む。
「……うーん。
 あれでも、使いようによっては役に立つし……それに、一族の中には、もっと毒気が強いのもごろごろいるし……」
 荒野は、考え考え、答える。
「……おれたちは、どう転んでも正義の味方なんて代物ではないし、毒を制するためにの毒を、あえて内部に抱え込んでいる、という部分もある。
 暴走して、コントロール不能になった毒を始末するための機構も、ちゃんとある……」
「最強」である荒神に声がかかるのは、そうした「コントロール不能になった毒物」が、ある程度以上の実力を持っている時だ。
 だから、荒神が仕事らしい仕事をする時は……「一族の上層部」が、依頼主であることが、多い。
「……一族、とかのことは、知らないけど……」
 舞花は、荒野が考えていることなどは当然、知らず、先を続ける。
「……おにーさんは……そういう、もっと危ない人たちが、もっと大勢、この町に入り込んできても……ちゃんと、コントロールして、おとなしくさせておけるの?」
 舞花の疑問は……端的に、問題の本質を衝いている……と、荒野には思えた。
「……まず、たいていの連中は、今、この場にいるやつらの敵ではない……」
 荒野は、ゆっくりと、自分に言い聞かせるように、答える。
「それに……おれもいるし……。
 それでも危ういようだったら、静流さんや、いやだけど、荒神に、頭を下げる……」
 野呂静流や二宮荒神でも、対抗できない存在なら……そもそも、荒野たちがいくら騒いだところで、もはやどうにもならないのだが……。
「……おにーさんが、そうやって思いつめた顔をして、ゆっくりしゃべる時は……難しいけど、善処する……って、ことなんだよな……」
 舞花は、しばらく荒野の顔をじっと見つめていたが、しばらくして、軽く息をついて、視線を外した。
「……まあ、なんとかなるでしょう……。
 今までだって、なんとかなってきたし……」
 舞花は、おどけた軽い口調でそういって、肩を竦めた。

 荒野たちがいつものように橋を渡り、河川敷に降りる前の、土手の上の、遊歩道に……犬を連れ、白い杖をついた、若い女性がぶらぶらと歩いていた。
『……偶然、ということは……ないな……』
 野呂静流、だった。
 荒野は、足を止めて、昨夜、静流と会う機会に恵まれなかった人々に、軽く紹介をする。
 静流という存在について、なんの予備知識もない舞花は、通り一遍の挨拶をし、静流が何者か知っている、一足早くこの町に来た四人組みは、「おい! 本当に最速だよ! パーフェクト・キーパーだよ!」とか、こそこそ囁きあいながら、しゃちほこばって自分の名を名乗る。
 静流は、名乗った人々の名前を律儀に一通り復唱してから、周囲を見渡して、やんわりと微笑んだ。
「……こ、ここへは、呼嵐のお散歩で、と、通りかかったんですけど……き、昨日の、夜の話しでは、みなさん、ここで、か、軽いトレーニングをするそうですが……。
 で、できれば、わ、わたしも……そ、その……最強のお弟子さんと、す、少し、う、腕を、試してみたいな……って……。
 あ、あくまで軽く、ですけど……ほ、本気は、出さない程度で……」
 何とまあ……「最速」の腕試しに、付き合えといわれてしまったよ……と、荒野は、他人事のように、ぼんやりと考えた。
「……荒野!」
 茅に、軽くわき腹を小突かれて、はっとわれに返る。
「……あっ、わっ……。
 はいっ。軽く、腕試し……は、いいんですけど……ここには、荒神の弟子が、約二名ほど、おりますが……どちらの弟子を、ご所望でありましょうか?」
 荒野も、軽く取り乱していた。
「……あっ。
 そ、そうでした……今は、二人目のお弟子さんも、い、いたのですよね……。
 そ、その、はじめの弟子の、加納荒野君を、ご、ご所望するのです……」
 こうして荒野は、「最速」直々に、ご所望されてしまった。




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Comments

応援

私は今高校生です。小説を読むのがすごく好きなんで、いろんなトコを回ってる内にたどり着きました。結構前から拝見させてもらってます。最近になって日記のようなブログも読むようになり、お話してみたいと思いコメントを書くことにしました。更新頑張ってください。応援してます。

ありがとうございます。

お話、いうても、必ずお返事を書けるとも限りませんが、スパム以外のコメントは歓迎いたしますので、気が向いたら、自由にお書き込みください。
わたしがレスしないでも、常連さん同士で会話とかはじまったら、(わたしが)ラクでいいなぁ……。

  • 2006/10/21(Sat) 06:54 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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