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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(104)

第六章 「血と技」(104)

『……やばいなぁ……。
 おれ、ドキドキしているよ……』
 荒野は、「自分の中にも、まだこんな部分が残っていたのか……」と、半ば呆れている。
 思えば……「正面からやりあっても、勝てないかも知れない相手」とまともに対峙するのは……もう、何年かぶりになる。ここ数年、荒野が従事してきた荒事は、凄惨なだけで面白みのない、消化仕事だった。
 しかし、今、荒野は、自分の頬が緩んでいることを、明確に自覚している。
 荒野は、一族でも屈指の……近接戦闘では、一、二を争う、と、噂される野呂静流を目の間にして、いつになく高揚している自分に気づいた。
「……か、加納様……」
 白い杖をついた静流が、すぐそこに、立っている。
「ず、随分……期待して、おいでのようで……。
 そ、その期待には、お応えせねば、ならないのです……」
 静流は、硬質な表情で、宣言する。
 そういえば……静流は、視覚に障害はあるが、他の五感は鋭敏だ……という話しを、昨夜もしていた。
 詳しく聞いた訳ではないが……ガクの例もあるから、体臭で、知覚にいる者の体調や心理も、かなりの精度で読める……という可能性も、考慮に入れなくては、ならない……。
「あ、あと一歩、踏み込むと……わ、わたしの射程に、入ります……。
 じ、準備が出来たら、踏み込んで、ください……」
 荒野は、軽く息を吐いて、一歩、踏み込んだ。
 と。
 目の前に、静流の顔が迫っている。
『早い……なんてものじゃあ……ない……』
 そう思うより先に、荒野の手が、反応している。
 反射的に、静流の杖の柄頭を、掌底で叩く。
 不意に、あらぬ方向に力がかかり、静流が少し、姿勢を崩す。
『……ほとんど……瞬間移動だ……』
 静流がよろけた隙に、荒野は、半歩距離をとった。
 本能が……距離を空け過ぎると、かえって危ない……と、告げている。
 距離を空ける、ということは……静流に、自由に動く余地を与える、ということだ。
 そんなことをしたら……荒野は、散々翻弄された末、たやすく打ちのめされるだろう。
『体を……密着気味に、して……』
 静流の動く余地を、なるべく与えない……消極的な方法ではあるが、当面、これ以上の対処法は、思いつかない……。
 荒野がしかけても……軽々と躱され、かえって隙を作る。
 静流は、絶対的な速度差がある者を相手にするとは……つまり、そういうことだった。
「……さ、最初の一撃で、決まらなかったのは……な、何年かぶり、なのです……」
 だから、静流が、うっすらと笑ってそういった時、静流の顔は、荒野の顔から半メートルも離れていなかった。
「そ、それに……二宮の方々は、皆、お、同じような戦い方をします……」
 言い終わると同時に、静流の四肢が、踊った。
 手、足……それに、杖が、予想もつかない軌跡を描いて、荒野に迫る。
 荒野との距離はそのままに、静流は、軟体動物もかくやという柔軟な動きで、同時に、荒野の急所や感覚器を狙う。
 武術……などの、体系的に考案され、整理された動きではなく……単純に、早く、的確に、使えるものを総動員して……効果的な場所を、打突してくる。
 生まれた時から暗闇の世界にいた静流は……「人間として正常な所作」という観念が、薄い。だから、なりふりかまわず、予想外の動きをする。
『……静流さんが、杖を抜いていないから、いいもの……』
 荒野は、腕と足で、その打撃を受け止めるだけで、精一杯だった。
『これが、もし、実戦だったら……』
 腱や手足をいいように傷つけられ、とっくに葬られている所だ……。
 そう思いながらも、荒野の頬は、緩みっぱなしである。
『流石は、野呂の直系……。
 ……おれより、早いのか……』
 荒野が……攻撃を受け止めるのが精一杯、という相手と対面したのも……随分、ひさかたぶりのことだ……。
 そんなことを考えていると……不意に、静流の動きが、止まる。
「……こ、攻撃を、確実に防御していることは、ひ、評価しますが……」
 静流が、静かに告げる。
「そ、そろそろ……本気を、出してください……。
 か、加納様が……この程度の、筈は……な、ないのです……。
 て、手加減をされるというのは、し、心外、かつ……」
 ……恥辱なのです……と、静流はいう。
『……かなわねーなー……』
 そういわれて、荒野は、心中で静かに嘆息し……そして、腹を、くくった。
「……行きます……」
 静かに告げて……荒野が、動く。
 次の瞬間、荒野は静流の頭上に在った。
 慌てて、静流が、杖で空中の荒野を、払う。
 迫ってきた杖を、片手で掴み、もう一方の手で、力任せにぶん殴る。
 静流の杖が、中に収めていた細剣とともに音を立てて、折れる。
 その動作と同時に、まだ空中にいる荒野の臑が、静流の後頭部を刈る。
 静流は、折れた杖を放棄して、側頭部に二の腕を密着させて、ガード。
 しかし、荒野の蹴りの衝撃を、腕だけで吸収出来るはずもなかった。
 荒野が着地する前に、静流の体が、軽々と吹き飛ばされる。
 荒野と静流は、背丈はほぼ同じ。体重は、荒野の方が、十キロ前後、重い。しかし、荒野の瞬発力は、同じ体重の一般人を遥かに凌駕している。
『……バックステップで、勢いを相殺したな』
 荒野は、着地しながら、瞬時に判断を下す。
 反射神経については、定評のある相手だ。その程度も芸当は、平然と行える……と、見るべきだった。
『……と、なると……』
 距離が、開いた。
 着地すると同時に、荒野は、吹き飛んだ静流へ向かって、殺到する。
 少しでも、静流の、行動の自由を制限しないと……。
『……やべぇ……』
 動きが早すぎて、荒野でさえ、ともすれば、姿を見失いがちになる静流である。一瞬の躊躇が命取りになる。
 荒野は、迷わず距離を詰める、という選択をする。
 しかし、静流の方も、その動きを読んでいた。
 荒野が近づくのにタイミングを合わせ、地面に手をついて、腕の力だけで、体全体を振り回す。カポエイラにも似たモーションだったが、あれよりもダイナミック……というより、「雑」な動きだった。
 目で標的を捉えることができない静流は、正確な居場所を把握出来ない敵を牽制する時の動きは、どうしても大雑把になる。
 それでも、荒野は、静流の奔放な動きに巻き込まれないよう、少し身を引かなくてはならなかった。
 荒野の挙動を感じ取ったのか、静流は、腕の力だけで一挙動に体を起こし、立ち上がる。
 荒野との間に、僅か数歩分の距離が出来ていた。
『……来る!』
 荒野が断定したのとほぼ同時に、静流が、またしても、目の前に来ていた。
 それだけでは、なく……。

「……分裂した!
 いや……影分身ってやつか!」
 どこからか、呆れたような飯島舞花の声が、聞こえた。

 荒野は、高速で動き続けるため、同時に何体も出現したように見える「静流たち」の攻撃を捌くのに、数十秒、忙殺されることになる。
『……なんとか……捌けない……というほどでも……ないか……』
 目で追うと、確実に遅れるが……肌や勘を頼りにすると、以外と、静流の猛攻は、ガードできた。
 それに、速度は、ともかく……。
『……一撃一撃が……軽い……』
 貫通力や破壊力に、欠ける……と、荒野は、静流の攻撃を評価する。
 素手で武器を使用しない、という条件であれば……荒野にとっては、静流は、極端な脅威では、なさそうだった。
 武器を使用する、という条件であれば……そもそも、最初の段階で、荒野は、成す術もなく、敗北している。
 荒野が、今、こうして立っていられるのも……最初に、静流が、杖に仕込んだ細剣を、抜かなかったおおかげだ……。
『……それに……』
 一分も持たずに、静流の分身たちが、たった一体に収束する。収束した静流は、地面に蹲って、肩で息をしていた。
 あんな無茶な動きは……短時間に、体力を使い果たすに、決まっている。派手だけど、使えない技……の、筆頭だろう。
 戦いに勝てても……その後、一歩も動けないようでは……実戦の場では、意味がないのだった。





[つづき]
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