第六章 「血と技」(105)
飯島舞花は、荒野と静流の対戦の一部始終を目撃していた……筈、だったが……実際に、「何が起きたのか」は、ほとんど把握できなかった。
二人の動きが早すぎた、というのが、最大の原因である。
「……ね。楓ちゃん……」
結局、舞花は周囲を見渡して、一番「わかっていそうな」表情をしている楓に、助けを求めた。
「……今の……何が起こったのか……見えた?」
「……ええ……一応」
楓は、頷く。
「二人とも……凄いです……」
凄い、ということは、舞花にも、わかる。
二人が向き合った途端、静流の白い杖が真っ二つに折れてはじけ飛び、その後すぐに、静流が分裂した……ように、舞花には、見えた。
「二人とも?」
舞花が、首を捻る。
「……あのおねーさんのが……圧倒していたんじゃあ……」
舞花の目には、そう映った。
「圧倒されてたよ、見事に……」
舞花の声が聞こえたのか、荒野はそういって諸手を上げる。
「杖を抜いてたら……抵抗するまもなく、切り刻まれている……」
「そ、それは……話しが、逆なのです……」
地面にへたり込んだまま、静流が、切れ切れにいった。
まだ、呼吸が荒い。
「か……加納様で、あれば……射程外から、飛び道具を使えば……わ、わたしの剣くらい……簡単に、へし折れたのです……」
「まあ……手加減するって暗黙の了解があるうちは……どんなに激しくとも、じゃれあいだよなぁ……確かに……」
荒野はそういって、肩をすくめた。
真剣勝負でない以上……勝敗にこだわっても、しょうがない……ということらしい。
「そっか……」
舞花は、なんとなく、荒野の考えを理解して、頷いた。
「おにーさんは……そういう人なんだ……」
さばさばしている、というよりも……荒野は、「生き残っていれば、それで勝ち」という世界の住人なんだ……と、舞花は、思った。
だから、勝敗には、こだわらない。
静流との対戦を断らなかったのも……静流の手の内を、ある程度知りたかった、とか……あるいは、そこまで合目的に考えていなかったとしても、もっと単純な、好奇心、に、寄るところが、大きかったのかも、知れない……。
事実、この時点で、荒野は、先ほどの静流の戦い方を、無意識の裡に分析し始めている。
お世辞にも……洗練された身のこなし、ではなかった。
おそらく、先天的な障害のせいで……満足に、一族の技を仕込まれていなかったのではないのか?
しかし、静流は、障害や教育の不徹底、という不利を補って有り余る資質を備えていた。とにかく……誰よりも、早かったのだ。
誰よりも早く剣を振るえば、攻防の駆け引きを学ぶ必要はない。
同じように、相手が構える前に、攻撃を加えられ、反撃を受ける前に、射程外に逃げられるのなら……体系的な体術も、必要がない。
いわば、「先手必勝」を、地で行っていたわけで……。
『……生まれ持った体質だけで、ここまでいける人も……珍しいよな……』
と、荒野は、思う。
先ほどの静流のフォームを思い返しても……あれは、武術や体術というよりは、ムキになった子供が喧嘩相手をぽかぽか殴っている様子に、近い。
妙に、打撃に力が入っていない感触だとは思ったが……めちゃくちゃに、手足を振り回していただけ……だったのではないのか……。
『……でも……それで、パーフェクト・キーパーって……』
そんな静流でも……周囲が、いくつかの条件を整えば……決まりきった仕事は、十分にこなせたのだろう。何しろ、静流は、視覚以外の感覚は桁外れに敏感だし、何かあった時、誰よりも早く反応することができる。
銃器が容易に使用できない環境……例えば、日本の都市部に住まわせて、そこで、一定期間、大事な物を託す、とか……。
『……適所適材、か……』
そうしたセッティングの妙があったにせよ……ほとんど生まれ持った体質だけでここまでのことができる静流は……やはり、例外的に恵まれた「天然素材」である、と、いっていいだろう。
事実、四人組を目を丸くしてあっけにとられているし、テンとガクは、今の荒野とのやり取りについて、ああでもないこうでもないと議論しはじめている。
四人組は、おそらく、舞花とどっこいどっこいで、目が動きについていかなかった。テンとガクは、楓程度にはみえていて、しかし、自分たちの解釈を確認するために、話し合いをはじめている。
楓は、荒野と同じ結論を出した上で、「二人とも、すごい」と結論したようだし、孫子は……一人、難しい表情を、していた。
「才賀……」
荒野には……孫子が、今考えていることが、わかるような気がした。
「……何かいいたいこと、あるか?」
「……今、ここで……しゃべっても、よろしいんですの?」
孫子が、眉を顰める。
どうやら……孫子も、荒野と同じ結論に達したようだった。
静流は……有り余る才能を、まるで生かしきっていない……。
「じゃあ……才賀が、静流さんをこれ以上強くしようとしたら……何を、学ばせる?」
「合気道か、それに近い武術がいいの」
それまで口を閉じていた茅が、孫子が口を開く前に、答えた。
「今の静流は……縛られた、巨人。
膨大な力を秘めながら、それを開放する術を教えられていない……」
「わたくしも……同じ、結論ですわ」
孫子も、茅の言葉に、頷いた。
「わ、わたし……」
静流が、よろよろと立ち上がりながら、話し出す。
「た、確かに……ろくに、教えられてないですけど……そ、それは、ち、父が、知らなくとも十分に通用すると、いったからで……」
……意外に、箱入り娘だったんだな……というのが、荒野の感想だった。
でも、静流に一族の技を仕込もうとしなかった親御さんの気持ちも、荒野には理解できた。なにしろ、荒野も、茅が一族の技を憶えることに、反対している。凶器から遠ざかれば、それだけ身の安全が確保できるのだ……。
「ここには……父上は、いない……」
荒野は、静かに答えた。
「だから……後は、静流さんの選択しだいだなぁ……。
静流さんの父上も、嘘はいってないよ。
実際、今のままでも、静流さん、十分強いし……それこそ、一族の術者が束になってかかっても、かなわないくらいには……強いし……」
遠巻きにしていた四人組が、荒野の言葉にコクコクと頷いている。
「……でも、今以上に強くなることも、できるよ……。
静流さんさえ、そのつもりなら……」
「ちょうど……知り合いに、合気道をやっている人がいるの……」
茅が、荒野の言葉を引き取った。
「年の頃も、静流と同じくらいだし……同じ女性同士、いい友だちになれると思うの……」
袈茶がそういったことで、確か……年末に会ったきりの、柏あんなの姉が……そういえば、合気道をやっている、とか、いってたな……と、荒野は、ようやく思い出した。
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つづき]
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