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彼女はくノ一! 第五話 (189)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(189)

 ところで、香也自身は、以前と、さして変わってはいない。
 多少の変化はあるのかもしれないが、それを重要なことと認識できるほどには、変容していない。
 以前と同じようにぼーっと授業を受け(以前よりは内容が理解できるようになってきている)、黙々と給食を食べ、話しかけられれば適当に答え、放課後になれば、美術室に向かう。
 行動パターンのみを取り出せば、香也自身は確かに、あまり変化をしているようには見えない。それに、「変化」というのなら、樋口明日樹に誘われて、真面目に学校に通うようになったのが、香也が学校生活で経験した最大の変化であり、それに比較すれば、徐々に香也の内部で進行している変化の兆しは、外から確認できない分、人目も引くこともなかった。
 掃除当番や昨日のように他に予定がある場合を除き、の行動パターンは固定されており、至って地味な生活を淡々と繰り返していた。その日は掃除当番に当たってもいなかったし、用事もなかったので、最後の授業が終わり放課後になると、香也は荷物をまとめ、美術室に向かう。
 教室を出る前に、楓が「また後で、帰りに迎えにいきます」と声をかけ、香也が「……んー……」と答えるのも、すっかり日常の風景として定着してしまっている。
 そして、香也は、美術室にたどり着く。
 美術室そのものには鍵はかかっていないので、自由に出入りできる。しかし、物置代わりになっている「美術準備室」への入り口の鍵は、基本的に教員が保管し、生徒が必要になる時は、その都度、職員室に行ってお伺いをたて、借りてこなくてはならない建前になっている。しかし、美術部顧問の先生が、かなりずぼらな性分で、「なるべく部活動に手を煩わせたくない」という考えを持っている人だから、こっそり合鍵を作って香也と樋口明日樹にそれぞれ一つずつ、こっそりと持たせている。
 この二人なら悪用しないだろう、という信用があるから、なのだが、ともかくおかげで、香也は私物の画材各種を美術準備室にキープしており、普段持ち歩いているのはスケッチブックと、時折補充する必要に迫られる、絵の具や筆などの消耗品以外、持ち歩く必要がなくなっている。一応、学校から雀の涙ほどの部費も年に一度給付されているのだが、あまりにも小額なため、香也は、自分が必要とする分は、自前で揃えるようにしている。まともに活動をしている美術部員は、現在の所、香也と明日樹の二名しかいないので、今の所は、そういう体制でまるで問題が発生していない。
 画材を準備し終えると、香也は、昨日描いたスケッチを一枚一枚机の上に並べ、まずは一通り眺めて見た。自分で描いたスケッチと、昨日の記憶を照応し、細部を思い出し、構図や配色などの構想を練る。いくつかのアイデアを新しいスケッチとして、何枚かざっと描きだし、それも見比べて見る。
 二十分ほどそうして検討した上で、香也は他に誰もいない美術室で一人頷き、たった今構図を描いたスケッチから一枚を取り出し、それをキャンバスの上に映し出す。下絵は小さいものだったが、キャンバスはかなり大きく、今回に限らず、香也は、構図を当たるための下絵は小さめに描き、実際に描くときはそれを拡大して描き始める、という技法を採用している。野外でスケッチする時など、縮尺の比率を数字で絵の横にメモしておき、一枚の紙に何種類かの下絵を小さく描きとめておく、ということも、頻繁にしている。
 下絵を簡単に描いている最中に、明日樹が入ってきた。香也の手元を覗き込み、「また、新しいの?」とか声をかけながら、荷物を置きに一旦準備室に入る。
 掃除当番やホームルームが長いびいたり、といった理由で明日樹が数十分ほど遅れて美術室来ることは、別に珍しくもなかった。香也だって、不意に用事ができて来るのが遅れることがあるし、それに部活への参加は強制ではないので、どちらかが遅れたからといって、もう一方に非難されたり咎められたりすることはない。
 樋口明日樹が、荷物を置き、自分の準備を整えて戻ってきた時には、香也はすでに鉛筆を筆に持ち替え、すっかり自分の絵に没頭していた。一度こうなったら、強く声をかけて肩でも揺さぶらない限り、香也の意識が外に向かないのは、今までの経験から明日樹も理解している。
 明日樹はそっとため息をついて、自分が絵を描くための準備をはじめた。

「……うひひ……」
 その少し前……。
「……ふっかーつ!」
 某医院の前で、ガクが、両腕を頭上に高く掲げ、ぶんぶんと振り回していた。
「……あんまり騒ぐなよ、ガク……」
 すぐそばにいたテンは、半眼で微妙にしらけた顔をしている。
「全治一ヶ月を相当と診断されたところを、こんな短期間で治して……」
『……とんでもない生命力だよな……』と、テンでさえ、思う。
 医者もかなり驚いていたが、テンもかなり吃驚している。
 医者の話によると破損した部分を埋める勢いが、通常では考えられない速度だ……と、いうことだった。
『……傷を負うと……その部分だけ、選択的に、代謝速度が速まる……ということ、なのかな……』
 素人考えだが、テンはそう推測する。
 だからといって、「直りが早い」ということを前提として、ガクにばかり危ない仕事を廻すつもりはなかったが……。
「さ……。
 さっさと、徳川さんの工場に行こう。いろいろ、準備もあるし……」
 口に出しては、そういった。
「うん。行こう行こう」
 ガクは、テンの言葉に、素直に頷く。
「もうすぐ、ノリも帰ってくるし……。
 でも、まずは、今日は、シルバーガールズ一号と二号の揃い踏みだー!」
 二人は自転車に乗って、徳川の工場を目指す。
 午前中に家事や家での用事を一通り済ませ、昼を食べてから徳川の工場へ……というのが、ここ二、三日の二人の生活パターンになっている。徳川の工場への出入りはもはや顔パス状態だったし、浅黄を保育園まで迎えに行くこともあった。テンにしろガクにしろ、好奇心が強いので、さまざまな道具や工作機械、材料になりえる廃材、などがある徳川の工場は、いい遊び場にもなったし、学校が引ける時間になれば、玉木たちもやってくる。
 徳川から、さまざまなものを開発するために必要なメッソッドを習うのも、玉木たちと一緒に、自分たちが主演するコンテンツを作るも、二人にとっては、等しく、「楽しい遊び」だった。
「……そういや、あの双子のおねーちゃんたち、ちゃんと来るのかな?」
 自転車をこぎながら、ガクがテンに話しかける。
「……さあ?
 多分、来るとは思うけど……」
 テンは、首を傾げた。
「仮に来なくても、新手はどんどん来るそうだし、他にも撮影が必要なシーンもあるし……暇をもてあます、ということはないよ……」
「新手、かぁ……」
 テンの言葉に、ガクも、頷く。
「今度は……どんな人が来るのかなぁ……。
 次の人も、面白い人だといいけど……」
 テンとガクは、一部では恐れられている酒見姉妹のことを、「面白い人たち」としか、認識していない。




[つづき]
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