第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(190)
「……ちょっとテン。
……つけてくる人たち、いるけど……」
「今まで同じパターンだな……。
いいや、このまま工場まで連れていっちゃお……。
その方が、話しが早いし……」
ガクとテンは、信号待ちで立ち止まった時に、そんなことを囁き合う。
「……そうだね……」
ガクは、頷いた。
「すぐに、孫子おねーちゃんや玉木おねーちゃんが合流する予定になっているし……」
「……ボクらとやりあいたいのなら、正面から名乗り出て、そういえばいいのに……」
テンが、ぶつぶついいはじめた所で、信号が青に変わった。
二人は、また自転車のペダルを漕ぎはじめる。
「そこは……あれ、ニンジャさんって、本性を隠すのものだって、この間読んだマンガに書いてあったし……」
ガクは、最近、羽生の本棚をまた漁るようになっている。再読すると、以前はピンとこなかった表現の意味が分かるようになっていて、面白い。最近は、図書館から借りた歴史物の影響で、時代劇の劇画をよく読む。主従の関係とか、歴史的な背景を知らなかった頃は、まるで面白く思えなかった物が、見違えるように面白く思えるようになっていた。
「別に、いいけど……相手にする方にしてみれば、向こうで話し合って、順番とかガード、勝手に決めてもらいたいよな……」
テンにとって、一族の者が挑戦して来る事は、シルバーガールズの新装備のテストとして都合がいい、という程度の認識しかない。
「……後、何人くらい撃破すれば……静かになるんだろう?」
正直な話し、必要以上に時間を取られたくはない……と、テンは、思っていた。
何人かの刺客を倒せば、一定レベルに達しない、例えば、最初の四人組みたいな術者は、はじめっから諦める……という予測を、テンたちは、立てている。
「……でも、昨日の双子も……結局は、孫子おねーちゃんがやっちゃったし……その前は、テンが一人で片付けたし……」
「ガク……怪我をしてたんだから、しかたがないじゃないか……。
それに、今日は、新しいお客さんを除いても、あの双子とはやれるし……」
テンは、苦笑いしながら、ガクにそう答える。
「あの二人、かのうこうやの話しだと、二宮と野呂のハーフだってね……。
頭も悪そうだし、静流おねーちゃんよりは全然、弱そう……」
「……うん。
静流おねーちゃんみたいに、何か一つ突出している方が……相手をするとなったら、怖いかも……」
ガクの言葉に、テンは頷いた。
武器を持った静流と対峙した仮定すると……勝算が、あまり立たないのだ。
最初に手足の腱を損傷すれば、ろくな抵抗も、できなくなる。そして、静流の速度に対応して、斬撃を躱すことは……。
「……ノリなら、なんとか追いつくかなぁ……」
テンと同じことを考えているのか、ガクが、不意にそう呟いた。
「ノリ……早く帰って来ると、いいね……」
テンは、そう答える。
「うん。
……もう、後、二、三日、って話しだけど……」
ガクも、頷く。
「……三人一緒じゃないと、どうも調子、でないや……」
寂しい、ということ以外に、三人は、お互いの長所短所を知り尽くし、短所をカバーすることに、慣れ過ぎている。
単独で、あるいは、三人のうち、二人だけ……での行動は、自分たちの性能を発揮できていないような印象を、どうしても持ってしまう。
「とりあえず……今日からは、また二人だよ……」
そういって、テンはガクに、柔らかく笑いかける。
「そうだね……今日からは、また二人だ……」
ガクも、笑った。
その日の放課後も、楓と茅は多忙だった。この頃には、二人は、コンピュータ自習室に集まる生徒たちから、「頼りになる存在」と目されるようになっている。それでも、楓は、まだいい。楓は、プログラムとか、システム回りのことにか、関わっていない。
しかし茅は、それ以外にも、自主勉強会の質問にまで、律義に答えていた。両手で別々のキーボードをタイプしながら、不意に、それも、上級生である、二年生とか三年生から、勉強の内容で分からない部分を尋ねられると、茅が顔を向けもせず、口頭ですらすらと答える……という風景も、現在ではすっかりなじみのあるものになっている。
茅が、全学年、全教科の教科書を、すっかり暗記している……ということは、本人が隠そうとも否定しようともしていないこともあって、すっかり周知のものになっていた。
そんな茅をみて、楓は、
『……人間マルチタスクだぁ……』
とか、感心してしまう。
放送部、パソコン部、の以前からの知り合いに加え、茅は、それまで面識のなかった生徒たちからも、顔と名前を知られるようになっていた。
おかげで、勉強会用の資料をまとめながら、下級生の勉強をみたり、先生方との交渉をできるだけ引き受けて、いい緩衝材になったりしている佐久間沙織、プログラム回りでは、実質上、システム開発の中心人物と目されている楓の注目度は、相対的に下がっている。
楓自身にとっては、ありがたいことでもあったが……。
『……こんなに目立つというのも……』
楓にとっては、違和感があるのだった。
最近では、一部の教師までもが、放課後にパソコン部に出入りして、みんなの前で、茅と「分かりやすい授業の方法」を相談していたりする。
自主勉強会のことを相談したりするうちに打ち解けてきた、ということもあるが、教師にしてみても、生徒によい成績を取ってもらいたいし、自分から勉強したいといってくる生徒たちに囲まれてあれこれ話して行く、というのは、いい経験になるらしい。
今、この場に集まっている人たちは、結果として……。
『……自分たちが、中心になって……』
集めたようなものだ……と、楓は思う。
自分たちが、ここに来なければ……この場にいる人たちが、ここに来ることもなかった筈で……。
自分たちがいることで、この学校を……この、今、住んでいる町を……それも……ここに居続けたい、という自分たちの都合によって、エゴによって……。
『本来あるべき姿から……変えてしまっている……』
そう考えると、楓は……なんだか大それたことをしでかしている気分になって……少し、怖くなってしまう。この場にいる人たちが、みな、満ち足りた顔をしていればいるほど、そう思ってしまう。
その日、孫子は、授業が終わった後、足早に徳川の工場に向かっていた。バスの時刻が合わなかった、というのもあるが、荒野と徳川から、出資の約束もとりつけた今となっては、少しでも出費を控えたい気分だった。
徳川の了解をとりつけたので、既に、パテント関係に詳しい事務所に話しをつけ、徳川の発案した工法などを無断使用している海外企業をリサーチして、もし存在していれば、使用料を支払うよう、交渉させるつもりだった。繁雑な作業を嫌う徳川は、正規の使用料を支払う企業とばかりつきあってきて、それまで、そうした海賊版の存在を知る機会があっても放置してきた……ということだから、場合によっては、何もしなくとも、徳川の会社の支出が増大する……という可能性も、あった。
それ以外に、自分の会社を設立するために必要な準備、登記に必要な書類の作成……など、やるべきことは、いくらでもある。
不動産については、玉木の顔つなぎで、商店街の外れにある閉店した店舗を借りる話しがついていた。しかし、その店は、現在、イベント時限定のメイド喫茶として使用されているため、事務所として使用できるのは、バレンタインが過ぎてから、ということになる。
パソコンや什器、車両などは、孫子が株主になっている企業に声をかけ、廃棄される予定のものや倉庫に眠っていたものを、せしめてきた。
もともと廃棄する予定のものだから、必要なコストは、ほとんど搬入するのに必要な費用だけで済みそうだった。その運送費も、手持ちの人材をうまくやり繰りして、なるべく安くあげるつもりでいる。
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つづき]
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