第六章 「血と技」(107)
荒野が、試食会をしている運動部の連中を前にして、調理器具の後片付けをしている時に、携帯電話の呼び出し音が鳴った。
液晶を確認して、荒野は首を捻る。
「……徳川、から?」
一応、番号は教え合ってはいるが、実際にかかってくることはほとんど無い相手だ。
「はい……おれだけど……。
うん。うん。
そうか……え?
うん。こっちは大丈夫だと思うけど……楓や才賀には……ああ。そうか。
ちょっと待ってて……」
荒野は、顔を上げて料理研の部員たちに声をかける。
「……先輩!
おれ、急用できたんですけど、すいません!
今日は、ここで引けていいですか!」
その場にいた生徒たちが、全員、いっせいに荒野の方をみて、「おお!」とどよめいた。
また何かあったのか……と、生徒たちの顔が期待に輝いて来る。
「……もちろん!」
「もう、終わりだし!」
「頑張って、いってきなさい!」
料理研の部員たちも、ノリノリだった。
「……荒野!」
その時、どたどたと足音も荒く、髪を振り乱した茅が、調理実習室に入って来た。
「これ……靴!
荷物は、運んでおくから!」
そういって、荒野に向かって、荒野のスニーカーを、投げる。
「……サンキュー!」
茅が投げたスニーカーを受け止めた荒野は、一足跳びに窓の前まで移動し、窓を片手で明けながら、素早く靴を履き替え、とん、と軽い身のこなしで、窓枠の上に飛び乗った。
「……じゃ、後は頼みます!」
誰にともなくそういって……校庭に向けて、大きく跳躍する。
おお! と、見守っていた生徒たちが、再びどよめく。
「……すっげぇ……」
「話しには聞いていたけど……初めて、生でみた……」
「……本当だったんだな……」
そんなざわめきが背後から追いかけて来たが、荒野は、気にかけている余裕がない。
『……今度は……』
校庭の真ん中に着地した荒野は、そのまま、全力疾走で、外に向かう。徳川の工場に向かいながら、そんなことを考えていた。
『数で、せめてきたか……』
学校をでると、荒野は跳躍、塀の上などを足場に、電信柱の上に出て、そこから、太い電線を選んで、その上を走る。
歩行者や車両がいない分、そのルートの方が、時間を短縮で来た。
「……加納様!」
途中で、追いかけて来た楓が、声をかけてきた。
「……楓!
お前は、才賀の所に!
おれは、工場に行く!」
荒野は短く伝えると、返事を待たずに速度を上げる。
『……戦力を分断して、抑える……。
いつかと同じパターンだ……』
佐久間現象の時と違う所、といえば……。
『……学校の奴らを巻き込もうとしていない所と、とりあえず、人目には、それなりに気を払っている所、か……』
いずれにせよ……。
『……どいつもこいつも、一ダースや二ダース程度、頭数を揃えたからって……』
どうにかできるタマではないんだがなぁ……と、荒野は嘆息する。
孫子の所に楓を向かわせたのは、あの二人が組めば、たいていの相手は退けられる、と踏んだからだし、荒野自身が工場に向かっているのは……。
『……テン、ガク……』
一族内部の、奴らへの見方が厳しくなるような事態は、避けなければならない……。よって、荒野は、危機感は持っていないが、急いではいた。
『……調子に乗って、やり過ぎるんじゃないぞ……』
テンとガクが調子に乗る前に、制止するために。
「……工場の方は、パソコン実習室で、映像を回しているの……」
荒野が出て行った後、調理実習室に残っていた生徒たちは、茅に先導されてパソコン実習室に向かう。
パソコン実習室では、その場に居た生徒たちがディスプレイの前に齧り付いていた。
何人かに脇にどいてもらい、後から来た生徒たちのために、ディスプレイの前を空けてもらう。
『……繰り返します。これは、実況中継です。今、ここで、現実に起こっていることです。
学校の皆さん、見てますかぁ!』
どこからか、玉木の声が聞こえる。
『……ほら、佐藤さん、田中さん、高橋君、カメラ、もっとちゃんと構えて! 画面がぶれてる!
はい。ここは、徳川君の工場、その内部です。
あそこの銀色のヘルメット二人が、我らがシルバーバールズのお二人です。金と黒のラインが入っているのが一号、赤と緑のラインが入っているのが二号です……』
その一号と二号は、玉木のアナウンスを信用すれば、徳川の工場内で大勢の男女に取り囲まれていた。
『……はい。
ただ今、ニンジャの皆さんが一斉にシルバーガールズに向けて、手裏剣や鈍器などを投げつけました。どこにしまっていたのでしょうか、すごい数です! 夥しい銀の線がシルバーガールズに集中する!
しかし! ……しかし!』
「……なるほどぉ……」
プロテクターの縁に赤と緑のラインが入ったシルバーガール二号が、感心したような口調で、呟く。
二の腕のプロテクタを顔の前にかざしている。
「……刺さるけど、貫通してないや……」
「だけど、これだけ刺さっちゃうと、もうボロボロだね。これ以上受けるといつ壊れてもおかしくないから、適当なところでパージしちゃって……」
シルバーガール二号と背中合わせに立っていた一号が、そう教える。
「……パージする時の暗証番号は、覚えているよね?」
一号が言い終わらないうちに、二号は、素早く手首内側のキーを叩いている。
「……そうだね、役に立たないのに、これ以上、重たいものを身につけていても……」
ぼん、と軽い音がして、一号の肩と肘にあたりから、細い煙が立ちのぼる。
「……しょうが、ない!
勇気と力の、シルバーガール二号!
いっきまーすっ!」
いいざま、ぶん、と上体ごと、腕を振り回した。
ぶん、と、風切り音をあげて、パージされたプロテクタが、包囲網に向かって飛んでいく。
「……いやぁー!」
二号は、自分が放り投げたプロテクタを追いかけるように、包囲網を構成している人員に向かって突進した。
「……ガク! 先走りしすぎ!」
一号が、予想外の二号の挙動に動転して、思わず名前を出してしまう。
「……彼ら、動きを封じようと……」
してくる……という言葉も、終わらないうちに、二号=ガクの手足に、四方から両端に重りをつけた鎖が投げ付けられる。
案の定、二号=ガクの手足は、あっという間に、鎖で戒められた……が。
「……こんなもの、で……」
二号=ガクの勢いは、止まらなかった。
大きく勢いをつけて上体を折り曲げ、ヘルメットを地面につける。
「……ボクを……」
首だけで体重を支え、倒立しけたところで、手首のボタンを素早くタイプする。
二号=ガクの臑を覆っていたプロテクタが、ぼん、と軽い音を立てて、パージされた。
「……縛れると、思うなぁ!」
ヘルメットを地面につけ、器用にも、一瞬、上下逆さまに「立った」二号=ガクは、今度は、大きく下半身を折り曲げる。
絡んでいた鎖ごと、臑に当てていたプロテクタが、風を切ってとんでいった。
「……ぃやぁぁああぁっ!」
下半身だけは戒めを解かれた二号=ガクが、手近にいる者に向かって突進する。
上半身は相変わらず鎖を巻き付けたままだが、二号=ガクは、意に介した様子がない。
そのまま、姿勢を低くして突進していって、体当たり。
相手がよろめいたところで、首と背の力だけで、空高く放り投げる……。
「……目茶苦茶だ……」
目を点にしていた一号が、ぽつり、とつぶやいた。
「ガクのやつ……よっぽど、フラストレーションが、溜まっていたんだな……」
『……凄い、これが……シルバーガール二号、力の二号です!』
一号=テンと同じく、それまで呆気に取られていた玉木が、ようやく、実況中継を再開する。
そうしている間にも、二号=ガクは、近くにいる者から順々に、その体躯を力任せに空中に放り上げていった。
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つづき]
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