第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(186)
酒見姉妹も、加納茅、それにテンやガク、などの「新種」については、漠然とした噂程度は、聞いていた。
六主家の遺伝子情報を元にして合成された、人間。
その能力は、六主家本家筋を凌駕するとも、未だ未知数ともいわれ、各説が入り乱れている状態で、はっきりとした定説はない。
荒野は、彼らを保護し社会に溶け込ませるために、かなりの無理をして、この地に「一般人として」定住する努力をしている……とも、聞いている。
そうした噂を聞き、なおかつ、いくつかの情報源に確認して、それが事実であるらしい……と、確認したから、来たのだ。
問題は……今、布団を抱えて部屋には行って来た二人から、手練れの術者特有のプレッシャーを、微塵も感じられない……ということだった。
もう少し、年期の入った術者なら、ことさらに己が力量を誇示したりせず、気配すらも一般人並……に、抑制して過ごそうとするものであるが……十代二十代の「若造」は、むしろ逆に、周囲に対して威圧感を振り撒こうとする傾向が、ある。ことに、同じ一族同士、ということになれば、その傾向は、なおさら強くなる……と、双子は、考える。
もっとも、以上の「考え」は、双子が、自分たちの内面に照らし合わせてそうと断定しているだけのことであって、かなりの偏向を抱えているのだが……。
「……ね。
あなたち……遺伝子操作で、合成された人間、って……本当?」
単刀直入にそう尋ねたのは、妹の粋だ。しかし、テンにもガクにも、双子を固体識別することはできなかったので、この時点では、彼女を「双子の片割れ」と認識している。
「当たり前の話だけど……ボクたち、自分たちが生まれる前の記憶を持っている訳ではないから、その意味では、なんの確証もないんだけど……」
テンは慎重に、そう答える。
「……長老とか、一族の偉い人たちは、そういっている。
ボクらのような子供に嘘をつく必要はないし、それに、ボクたちの現在の能力を説明する理由には、なっているから……かなり高い確率で、本当のことだと思う……」
このような微妙なやり取りをする時は、「ガクは黙っている」という取り決めが幼い頃よりできあがっているので、ガクは口を閉じて、しかし、興味深そうな顔をして、成り行きを見守っている。
「……そう……。
あなたたち、そんなに……凄い能力、持っているの……」
感慨深げに答えたのは、双子のうち姉である、酒見純である。もっとも、テンとガクは、「二人のうちのもう一方」としか認識していない。
「じゃあ……ひとつ、わたしたちと、やってみない?」
さりげなく観察していたガクは、この瞬間、姉妹の目つきが妙に鋭くなったのを、見逃さなかった。
『なる……こういう人たちか……』
ガクは、双子の表情の変化に気づかない振りをしながら、さりげなく観察を続ける。
「……おねーちゃんたち、二対一で? それとも、二対二で?」
テンは、後ろに廻した手でガクを制しながら、無邪気な表情を作った。
「……実は、ボク……三人の中では、一番弱いんだよね……。
そんなボクでよかったら……明日の朝一でやってもいいけど……ボクたち、毎朝、河原で走り込みとか軽いトレーニングとか、しているし……。
でも、ガクの怪我も、もうほとんど治りかけだから……明日、お医者さんに診てもらってOKでれば、本気で動けるそうだから……夕方まで待ってもらえれば、万全の体制で、タッグマッチできるけど……。
その……知り合いの工場の中使わせてもらえば、結構、中広いし、ボクたちのこと知っている人だし、それに、外から見えないし、存分に、やりあえるけど……」
気弱な笑顔を浮かべながら、テンはもじもじとしおらしい様子を故意に見せつけながら、双子を自分たちに都合のよい条件へと誘導していく。
「ボクは、三人の中で一番弱いし……ガクは、病み上がりだし……おねーちゃんたち相手に、一人づつだとちょっときついから……うん。できれば、だけど、ちょうど二対二で、人数もぴったりだし、明日の夕方、タッグマッチということにしてくれると、嬉しいかな……」
酒見姉妹は、テンの芝居に気づかないまま、満面の笑みを浮かべながら、テンの出した条件をすべて飲み込んだ。
二人の部屋から出て、少し離れると、ガクはジト目でテンを睨みながら、
「……この……悪党……」
と呟いた。
テンの方は、そ知らぬ顔で、玉木と徳川にメールや電話で、明日の放課後から、「シルバーガールズ」の臨時撮影が入った、という連絡を入れはじめる。
「……ガク、手を余しているのなら、孫子おねーちゃんところに、声をかけてきて……。
大事なスポンサーなんだから、こういう大事なことは、真っ先に伝えないと……」
「……はいはい……」
ガクは、方をすくめながら、孫子の部屋に向かった。
翌朝、ガクとテン、楓や孫子が早朝のランニングにでる時間になっても、酒見姉妹は起きだしてこなかった。早起きの習慣がないのか、それとも……。
「……昨夜のダメージが、まだ抜けていないのではありませんこと……」
というのが、孫子の意見だった。
ガクとテンは、河原に向かって軽く走りながら、荒野に、昨夜の双子とのやり取りを報告した。
「……ま、いいんじゃねーの……」
荒野の返事は、そっけなかった。
「あいつら……おれたちにどうこうするほどの実力は、ないけど、なんかの間違いで、一般人に襲い掛かるようにでもなったら、それなりに脅威ではあるし……お前らなり才賀なりが、あの二人を抑えられるのなら、こちらとしては、むしろ歓迎したいくらいなんだけどな……」
「……ねーねー。かのうこうや」
ガクが、重ねて尋ねる。
「あの二人、ってもしかして……権威とか力に弱いタイプ?
そんでもって、弱いものいじめが好き、とか……」
「……ああ。そんなもんだ……」
ガクの質問に、荒野はあっさり頷いた。
「あいつら……下手すると、ガクよりも、分かりやすいからな……。
やはり、普段の態度でわかったか……」
「じゃあ……しょっぱなに、出鼻をくじいておいた方が、いいね……」
テンも、頷く。
「そうして貰えると、正直助かるけど……あまり、やりすぎるなよ……」
荒野は、あまり熱心に、ではないものの、立場上、やんわりとたしなめておく。
「もちろん、加減はするよ……。
でないと、あんな細い人たち、あっという間に壊れちゃうもん……。
それに、シルバーガールズは、正義の味方にするんだから、弱いものいじめはできないし……」
「……念のため、わたくしも、見学に行ったほうがよろしいかしら?
歯止めにはなるだろうし……それに、撮影にも、無関係ではないですし……」
孫子は、荒野に向かって、そういう。
「ああ……そうしてくれると、助かるかな……」
これにも、荒野は頷いた。
「おれが行くのが一番いいとは思うんだけど……今日は、部活があるし……」
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つづき]
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