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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(109)

第六章 「血と技」(109)

 樋口明日樹はテキパキと作業を続ける茅を見続けた。「気にしないで」といわれた所で、やはり気になる。
 明日樹が見守る中、茅は、バケツに水を汲んできて床や机の上に置いたり、持参のポーチの中から取り出した道具をいそいそと仕掛けたり、途中でコードが切れたコンセントを差し込んだり、と……なかなかに忙しい。
「……それが……保険……なの?」
「そう。
 保険なの」
 呆然と問いかける明日樹に、茅は答えた。
 そして目をつむり、何かを探すような顔つきになる。
「もう、すぐそこ……に、来ている……扉の、すぐ向こう……」
 小さな声で言いながら、茅は、机の上に置いた、水の入ったバケツに、手を伸ばした。
「……三、二、一……」
 やはり小声で、カウントダウンを開始する茅。
 何事がはじまるのか、と明日樹が見守っていると、茅が「……ゼロ」といったのと同時に、入り口の扉ががらりと開く。
 小柄な、女生徒がたっていた。明日樹の知らない顔だ。中の様子をみて、入り口に立った女生徒の目が、大きく見開かれる。
 茅は、手にしたバケツの水をその女生徒に向かってぶっかけ、同時に、床に置いたバケツも、足で蹴飛ばして転がす。
 その女生徒は、腕を体の前に交差してが、体の正面から、もろに水をかぶった。おまけに、床下も、濡れている。
 茅は、コンセントを差し込んだまま、途中で被覆がはがれ、むき出しになった銅線を、つま先でけって床にたまった水につける。
「……あっ!」
 この時になって、初めて、明日樹は声を上げた。
 明日樹が予想した通り、その女生徒の体が、ビクン、と、大きく跳ね、その後、細かく体を揺さぶっていた。痙攣に近い動きだ。
 明らかに……感電していた。
 扉が開いてから、ほんの数秒、というところだろう。茅の動きは滑らかで、あらかじめなにが起こるのか、すべて知った上で、何回も予行練習を重ねていたかのように、滞りがなかった。
「……あっ……かっ……かっ……」
 あまりにのことに、思考と体が固まっていた明日樹が、ようやくそう叫ぶ。
「……茅ちゃん! なんてことを!」
 明日樹の目には……茅が、用意周到に準備をして、茅がその女生徒を虐待している……ようにしか、見えない。
 その時になって、ようやく香也が顔を上げて、外界の様子を眺めた。
「……んー……」
 香也は、しばらく目の前の様子をしげしげと観察した後、水をかけられ、感電している女生徒をしばらくみて、ポツリと呟いた。
「……あれ? この子……。
 今朝、うちでご飯を食べていた、お客さんじゃあ……」
「そうなの」
 茅が、答える。
「絵描きの家に一泊し、中の様子を観察した二人は……この絵描きが、一番の弱点だと気づき……他のみんなが外に出るように仕向け、その隙に人質にとろうとしたの……」
 そういいつつ、茅は、ゴム手袋をはめた手で、ポーチからスタンガンを取り出し、駄目押しに水溜りに押し付ける。
 びしょ濡れの女の子が、びくん、と、もう一度体を大きくはねあげ、その場にがくりとひざをつけた。
「……え? あっ……あっ……」
 明日樹は、当然のことながら、目前で繰り広げられている状況が、理解できていない。目を白黒させるばかりである。
「先手必勝で、身動きを封じなければ……こちらが、危なかったの」
 茅は、明日樹に向かって、噛んで含めるように、諭す。
 茅は、そろそろと慎重に蹲った女の子に近づき、すばやく、スタンガンを直接、女の子の腕に押し付ける。
 ビクン、ビクン、と何度か痙攣し、その女の子は、水浸しの床の上に、どさりとうつぶせになり、動かなくなった。
「……流石に頑丈なの。普通の人なら、最初ので倒れてもおかしくないのに……」
 そんなことをいいながら、茅は、うつぶせに倒れた女の子の体をずるずると引きずって、完全に、美術室内に入れる。
 そして、その子のスカートを大きく捲り上げ、
「……ほら……普通の子は、こんなものを、持っていない……」
 と、スカートの中身を、明日樹に示す。
 明日樹は、椅子に座ったまま立とうともしない香也の目線上にさりげなく移動してその子の体を隠し、茅が指差した箇所をみる。
 かなり大きな刃物……らしきものが、ホルスターに納まって、その子の太ももに固定されている。その子は、身長百四十センチ以下の小さい子で、しかもかなり痩せて見えたが……その細い太ももとは不釣合いに、そのホルスターごつくて大きかった。
 ホルスターの大きさから推測するのなら、刃渡りは軽く四十センチオーバー、それに、分厚い……。
「それに……ほら……こんなに……」
 茅は、その子の制服のそこここをごそごそとまさぐって、ダース単位で数えたほうがいい位の、小型の刃物を次々と取り出し、床に並べてみせる。
「……わ、わかった……。
 また、加納君関係の、人ってわけで……」
 樋口明日樹は、自分の胸を押さえながら、掠れた声で、ようやくそういう。
 先ほどから、悲鳴を上げたい衝動を、必死に押さえ込んでいる。
「……そうなの……」
 茅は、開いたままの入り口を睨みながら、一旦は床に並べた手裏剣類を、手探りで持ち直す。
「それに……二人目が……来た!」
 いうや否や、茅は、廊下に姿を現した、ジャージ姿の女生徒に、次々と手裏剣を投げつけはじめる。
 明日樹は、「わっ」とか、「ひゃっ」とか、小さな悲鳴を上げながら、その場に尻餅をつく。
 刃渡り半メートルに届こうかというごつい刃物を振り回して、茅が次々に投げつける手裏剣を弾いていたジャージ姿の女子は、美術室の中の様子をみて、
「……お姉様!」
 と叫び、目を丸くした。
 その時、
「……チェストォッ!」
 不意に横合いから、ジャージ女子の手元を狙って、見事な正拳突きを繰り出した、制服姿の女子がいた。柏あんなだ。柏あんなは、幼少時から、近所の空手道場に通っていた。
 当然、ジャージ女子の手元から、ごつい刃物が飛んで行く。
 茅が、ぴたりと手裏剣を投じる手を、休める。
 ジャージ姿の女子は、呆然と何も無くなった自分の手元を見つめた。
 そして……ふと、あたりが暗くなった気がして、ふと顔を上げる。
 そこに、信じられないものをみた。
 身長百八十センチを越える巨体が、自分の頭上から、降ってくる……。
 あまりの非現実的な光景に、ジャージの女子……酒見粋は、逃げるのも忘れて硬直し……結果、そのまま、飯島舞花のフライング・ボディ・プレスをまともに受け止め、下敷きとなった。





[つづき]
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