第六章 「血と技」(111)
「……ほれほれ、そこ、もっと足を広げて……」
「あの……先生……いい加減に……」
「……佐久間は、甘い!
こいつら、校内で刀傷沙汰を起こすところたったんだぞ! ん!
昔なら、切腹市中引き回し磔獄門の刑だっての……」
「……そんな昔に、学校はありません……」
妙に周囲が騒がしくて、酒見純は目を覚ました。
そして、自分の周囲を見渡し、ギョッとする。
下着だけしか身につけていない姿で、どことも知れないベッドの上に、寝かされていた。
ずぶ濡れになった制服は、気を失っている間に脱がされたらしい。
すぐ隣、同じベッドに、純と同じようにあられもない格好をした粋が、寝かされていた。とはいえ、粋の方は、下着以外にも、上半身だけ、体操服の上を着ていて、しかもそれが、腹のかなり上まで捲り上がっている。
半端に半裸な姿は、ヘタをすると全裸よりも扇情的に見えた。
ここに至って……純は、何故、自分たちが、あられもない格好をして、こんなところで寝ているのか……唐突に、理解した。
自分たちを倒した、加納茅が……わざわざここまで、運んできたのだろう。
「……粋っ! 粋っ!」
慌てて、純は、未だに目を閉じている妹の肩を揺さぶりはじめる。
妹を起こそうとしながら、純は忙しく視線を巡らせて、周囲を観察する。
カーテンで囲まれた、一角……白衣姿の、自分たちよりも背が小さい女性が、目をゼリービーンズ形にしてニタニタと笑っている。その隣には、困った顔をしている、この学校の制服を着た女生徒……。
「……起きて! 粋! 起きてったら!」
状況からして……ここは、学校の保健室……なのだろう……と、純は、推測した。
「……うひひひひっ……」
と、白衣を着た小柄な女性が、耳障りな笑い声をあげる。おそらくは、この学校の養護教諭……なのだろうが、その割りには、容姿が随分と幼い。
「……ねーちゃん、よう……」
その白衣姿の、小さな女性は、出来る限り低い声を出してドスを利かしているつもりのようだったが……幼い顔付きと、地声自体が甲高いので、まるで板についていない。
「……ぐっすりとおねんねしている間に、あんたら二人のあーんな所やこーんな所を、ばっちりと撮影したから……」
ほれほれ、と、その白衣女性は、手にしたデジタルカメラを振った。
……あっ……。
と、酒見純は思った。
自分たちが、半端に露出度の高い格好をして寝ていたのは……そういう訳だったのか……。
慌てて、純は、ベッドの上の毛布で自分体を包み、きっとして、白衣の女性……三島百合香を睨む。
「……何が……目的ですか?」
低い声で、そう尋ねた。
「……写真のデータは、もう別の場所にコピーしているから……こいつをネット上にばら蒔かれ、世界中のチーズケーキ好きな変態どものズリネタにされたくなかったら……」
「……こらっ! 先生!」
もう一人、そばにいた女性が、三島百合香の頭をこぶしで、こん、と軽く叩く。
「それでは、まるっきり悪役ですってば……。
……大大丈夫よ。
今後、今日やったような真似をしなければ、今、先生がいったようなことは、絶対にさせないから……」
と、いうことは……今後、酒見姉妹が、何か悪さをしでかせば……姉妹の恥ずかしい写真が、ネット上に、無制限に解き放たれる……ということで……。
その女生徒も、一見して白衣女性の言動を抑制しているようで、実質上は、姉妹を脅迫しているのと同じだった。
「……本当、困るのよねー……。
今日みたいに、校内で刃物を振り回すような事件が、今後も続くとなると……」
穏やかな口調で、世間話でもするかのようにそう続ける女生徒を、酒見純は、冷静に観察する。
ネクタイの色から判断するに、自分たちと同じ、三年生。ということは、自分達と同学年、ということになる。
そして……その隣にいる、白衣の女性よりは、よほど信頼に値する人間に、見えた……。
「……んんっ……。
って、何! この格好!
お姉様! これ、一体、何がどうなって……」
その時になって、うめき声を上げながら、酒見粋が、起きあがった。粋は、自分のあられもない格好と、それに毛布を自分の体に巻き付け、蓑虫と化してベッドに座り込んでいる姉に気づき、狼狽した声をあげる。
「……負けたの。わたしたち……」
答える酒見純の声は、疲労を含んでいた。
「それも、完敗……。
今後、この町で……わたしたちは、かなり行動を制限されることになりそう……」
これが事実上、酒見姉妹の敗北宣言となった。
「……これ、公開できないのは、惜しいなあ……。
双子の制服レズ写真集、かなりきれいに撮れていたのに……」
三島百合香が場の空気を読まないすっとんきょうな発言に、佐久間沙織は後頭部をしたたかに叩くことで答えた。
仁木田直人、敷島丁児、駿河早瀬、刀根畝傍、丸居遠野、睦美左近……。
荒野たちの前に現れたのは、流入者リストの中でも生え抜きに癖が強く、危険で、扱いにくい連中ばかりだ。性格も、ひねくれていたり掴み所がなかったり、と多種多様に「取り扱い注意」なわけだが、真に恐ろしいのは、その能力……。
先天的な資質に加え、独自に修練を積み、余人の追随を許さない域に達しており……。
『……総合的なパラメータこそ低いものの、代わりに、一芸に秀でていたり、突出した技を持ったやつらばかり、だ……』
こいつら……が、ここに寄越されたのは、一族首脳の、荒野への嫌がらせではないのか……と、荒野は思っている。
大方……癖が強すぎて、他ではもてあまされ……こちらに、送られてきたのだろう。
「どうも……先輩方」
荒野は、内心の動揺を押し隠し、丁寧に一礼をする。
無用に刺激していい、相手ではない。
「おれでも、こいつらでも……ご所望の相手と、この場でお相手しますが……」
しかし、かといって丁重に扱いすぎて、増長させるのも考えものだ……。
荒野の経験からいっても、この手の、自分の術に自信を持っている手合いは……最初に力でねじ伏せれば、後はそれなりにおとなしくなる筈だった。
逆にいうと、いくら丁重にもてなしても、こちらの実力を認めなければ、徹頭徹尾、舐めてかかられる……。
『ま……今の、テンやガクがやりあうには……』
ちょうどいい相手かな、とも、荒野は思う。
二人には、そろそろ……本格的な敗北を、学んで貰いたかった。
[
つづき]
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