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第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(195)
まず、最初に孫子のライフルが火を吹く。
「……わたくし……」
孫子から五メートルほど離れた場所に、突如男が出現し、水月にまともにスタン弾を食らい、体をくの字型にして、その場に蹲る。
「簡単な見切りとやらは、できましてよ……」
孫子があえてそういったのは、「実例」をこうして見せてしまえば、いわずとも知れる情報だからである。
どうやら一族も、国内を根城にしている者と海外に基盤をおく者とに分かれているようで、シルヴィ・姉崎経由で孫子の情報が回っていない、ということは不思議ではなかったが、昨夜対戦した酒見姉妹から孫子に関する情報を得ていない、というのは、不自然といえば不自然だ……と、孫子は思う。
この方々……必要な情報も交換できないほど、関係が薄い……かりそめの同盟者なのだな……と、孫子は判断する。
いわゆる、烏合の衆なら……いくら人数を揃えたところで、勝機は十分にある。
何しろ、孫子と楓は……何度か対戦し、お互いの長所と短所を知り尽くした間柄だ。
お互いの特性を、知り尽くしている。
完全に気配を断った楓は、「敵」たちの動きが、あまりにもスローモーかつ、隙だらけに見えることに驚愕していた。
一瞬、何かの罠かと思いかけたが……すぐに、楓の目が、荒神の隙のない動きに慣れ切しまっているだけだと、気づく。
『……こんなんじゃあ……』
飛び道具を使うまでもないな……と、楓は判断する。
そう判断を下す頃には、楓の脳裏には、もっとも効率的な動線がくっきりとイメージできている。楓は、頭の中の動線をたどるように、一人一人着実に、「敵」を無力化していった。楓の手の内を知り尽くし、若干の見切りができる今の孫子なら、楓の動き方は確実に予想できる筈なので、背後から撃たれることは警戒していない。
むしろ、孫子の「近距離に敵に弱い」という短所をフォローすべく、楓は、距離の近い「敵」から、着実に急所をつき、当身を食らわせて、ノックアウトして行く。結果として、楓は、孫子を中心とした螺旋を描くような動線を選択することになった。
少し離れた敵は、火器を使用する孫子に任せておけばいい……。
「……あれ? これで、終わり……ですか?」
「……不甲斐ない!」
結果、一連の戦闘行為が終了するのに、五分と要しなかった。
立っている「敵」が皆無となり、戦闘が終わったことを知った楓は、拍子抜けしたような声を出し、孫子は、「敵」の惰弱さをなじるような声を上げる。
尾行者の半数が離脱した、といっても、それでも、十名以上の「敵」とたった二人で対峙していた筈だが……。
「お、お前ら……」
「……強すぎ……」
地面に転がっている連中のうち、声を出せるほどの元気が残っていた何人かが、そんなうめき声をあげる。
対する楓と孫子は、息も切らしていないし、それどころか、汗一つかいていない。
「あの……いっていいですか?
皆様……あっけなさすぎですぅ……」
「敵の力量を見積もることもできない方々……という結果でしたわね……。
行きましょう、楓。
わたくしたちにとっては、時間の無駄でしたわ……」
二人は、そんなことを言い捨てて、後も見ずに去って行く。
楓は、投擲武器を使用していなかったし、孫子は、念のために準備していたライアットガンを使用していない。
結果として、「近距離の敵は楓に任せ、離れた敵は孫子が仕留める」という分業体制が成立した戦いだった。
「……こっちにろくな人がいない、ということは……」
「本当の本命は、工場である可能性が……」
「今、徳川さんに連絡して、様子を……」
二人は、何事も無かったように会話を続けながら、徳川の工場に向かう。
いきなり、茅がやってきて、バケツに水を汲んできたり、その水を、問答無用で美術室に来た女生徒にかけたり、その女生徒を感電させたり、廊下で飯島舞花がプロレスごっこをはじめたり……などという椿事に対する感想を、香也はこの一言で表現した。
「……んー……」
「狩野君!」
すかさず、樋口明日樹に、しかられる。
香也の態度が、不真面目にみたたのだろう。
「で、でも……」
香也は、気弱に抗弁する。
「茅ちゃんたちは……理由もなく、こんなことしないだろうし……。
それに、あの子たち、こんなものを持って振り回していたわけだし……。
対応を間違えれば、ぼくらのうちの誰かが、怪我していたりする可能性もあったわけで……」
そういって、香也は、茅が二人から取り上げて机の上に並べた刃物や携帯電話を指差す。二人の身体検査をして、持ち物のほとんどを取り上げた茅は、今、飯島舞花や柏あんなとともに、モップを持って、水浸しにした床の後始末を行っていた。
手裏剣などは楓が持っているのを見たことがあるが、ホルスターに収まったごつい二振りの山刀は、その中でもひときわ異彩を放っていた。姉の純は、そのホルスターをスカートの中に、ジャージ姿だった妹の粋は、腰の後ろに固定して、上着をかぶせて隠していた。
香也にしても、今朝、一緒に朝ごはんを食べた、見覚えのある二人だったが……。
『……あの子たちも、転入してきたのかな?』
などと、思っている。
酒見姉妹について、香也は、その程度のことしか考えていない。
基本的に香也は、細かいことを気にしない性格だった。
あくまでも呑気な香也の態度を見て、樋口明日樹は、太いため息をついた。
「……いいわ。
詳しい事情は、あの子たちから、後でじっくり聞くことにして……とりあえず、部活に戻りましょう……」
茅から、香也たちは「いつもの通り、部活をしていてくれ」と再三、いわれている。
香也たちは、茅たち周辺の事情についてはあくまで部外者であり、茅も、そのことを重々理解した上で、今回のように、累が及びそうな場合は、体を張って、せきとめようとしてくれているわけで……。
なおかつ、当の香也が、こうして「気にしていない」のなら、今更樋口明日樹が、どうこういえる立場でも、ないのであった。
『……無力だな……』
と、樋口明日樹は、自分自身を、そう評価する。
[
つづき]
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