第六章 「血と技」(114)
『残りは……』
幻術使いと、気配断ちの達人……それと、動きを見せていないのが、一人いる……。
最後の存在を不気味には思ったものの、テンは、忙しく手首のテンキーを操作している。
「……テン!」
立て続けに丸居遠野と睦美左近を破ったガクに、即された。
一緒にこのシステムを作り上げたガクは、テンがなにをやっているのか……理解している。
「……わかってる……。
今……工場内のセンサーで捕らえた情報を……できた!」
すべてのセッティングを終えたテンは、立ち上がった。
「……ガク!
外の光景を、信じないで!
ヘルメット経由の情報には……幻術や気配断ちは、通用しない!
……ガク、この順番で、炙り出して!」
テンは、手首のテンキーを操作し、ヘルメットのバイザーの色を濃くし、外界を直接視認しにくい状態を作る。ガクも、同じようにしている筈だ。
それから、ディスプレイされている残り三人の敵のマーカーに、倒すべき順番の情報を付加する。
「……よっしゃぁ!」
ガクの声が聞こえて、ディスプレイの中のガクの光点と、敷島丁児の光点が、交錯。
「……四人目!」
すぐに、ガクの叫び声が聞こえた。
幻術が通用しない以上……敷島丁児など、ガクの敵ではない。
「敵」を示す光点は、あと二つとなっている。
そのうちの一つに、テンは、六角を投げつけている。
「……な、何故!
何故に、居場所が……」
刀根畝傍の皺枯れた声は、狼狽を隠しきれていなかった。
それでもテンの六角を、しぶとくはじいているらしい。
「名人芸は、通じないよ! おじいちゃん!」
テンの代わりに、敷島丁児を倒したばかりのガクが、答える。
「だってボクら……最初から、おじいちゃんのことは、見ていないもん!」
そういうのと同時に、ガクもテンに習って、「刀根畝傍の位置情報」に向かって、六角を投げつけはじめている。
「……くっ! こ、この!」
それでも……刀根畝傍は、粘った。
両手に持ったくないで、同時に二方向から飛来する六角を、執拗に叩き落とし続ける。
それでも……すぐに、手が追いつかなくなった。
テンの六角による攻撃も、かなり「重い」ものだったが……ガクの六角を受け止めると、テン以上の衝撃がある。
それを叩き落とす刀根畝傍の手は、二、三発も受け止めると、その回転に抗し切れなくなり……くないが、あさっての方向に、飛んだ。
「……がはぁあっ!」
刀根畝傍は、手にしたくないを弾き飛ばされた拍子に、尻餅をつく。
と……。
「……まだやる?
おじいちゃん……」
目の前に……六節棍の切っ先を、突きつけられていた。
見上げると……真っ黒のバイザーに、草臥れた自分の顔が映っている。
「わしの……負けじゃ……」
刀根畝傍は、がっくりとうなだれた。
「……五人目!」
刀根畝傍に六節棍をつきつけたシルバーガールズ……テンが、うっそりと呟く。
「……あと一人!」
ガクが、「仁木田直人の位置情報」に向かって、突き進んでいた。
「やっ……気をつけて!」
テンとしては……これまで手の内を見せていない仁木田直人のことを、かなり警戒していたのだが……ガクを止めようとして、寸前で、思いとどまる。
残り一人……ということもあったし、何より、テン自身が……。
『……もう……体が……』
できるだけ運動量を減らしたつもりだが、丸居遠野の薬が、かなり回ってきているようだ。
手足が重く、思うように動かない。
『せめて……仁木田直人の手の内を、見極めるまでは……』
意識を失うまい、と、テンが、自分自身を叱咤した。
「……位置を正確に把握できるからといって……」
ガクが突進してきても、仁木田直人は、慌てる様子がない。
「……だから、どうだというのだ!」
まっしぐらに向かってくるガクに対して、仁木田直人は、立て続けに六角を投げつける。
ガクは、その大部分を六節棍で弾くことに成功したが、すべてを遮ることができず、足首に六角を受けて転倒する。
「いくら、力があっても……」
ガクは自分で起き上がる前にベルトを掴まれ、軽々と持ち上げられる。
「……攻撃が当たらなければ、意味はないのだ!」
そのまま、空中に、真上に、放り投げられた。
ガクが空中にいる間に、真下から、ガクを放り投げた仁木田直人が、再び六角を投げつける。
今度は、ガクも対応することができず、手首に、まともに六角を受けてしまう。
六節棍が、ガクの手から離れ……ガクは、硬い地面の上に、落下する。
慌てて身を起こすと……顎を、蹴り上げられる。
不意の衝撃に、ガクの意識が、飛びそうになる……。
『……無駄が、ない……』
仁木田直人の動きを観察していたテンは、仁木田直人を、そう評価する。
ガクと、適度な距離を取り、反撃の可能性を潰し、ちくちくとダメージを、与えている……。
仁木田直人は、特別、凄いことをやっているわけではないのだが……その攻撃は、正確で、効果的だった。
「……分析しようとしても、無駄だぞ……」
いつの間にかテンの近くに来ていた荒野が、テンに告げた。
「……仁木田直人は……スタンダードな、術者だ。
当たり前のことを、当たり前にやっているに過ぎない。
しかし……特別な能力もない代わりに、経験豊富で、用心深いから……もちろん、慢心することはないし、自分がダメージを受けずに相手にダメージを与える方法も、知り尽くしている……。
いわば、凡庸な、ベテランだ……」
あるいは……ああいうタイプが、お前らとは、一番相性が悪いのかも知れないな……と、荒野はいった。
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つづき]
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