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彼女はくノ一! 第五話 (199)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(199)

 仁木田が、飛んでいた。
「……ああっ……」
 誰かが、明らかに失望を含んだうめき声を、あげる。
 あるいは……楓自身が、そう声に出していたのかも、しれない……。
 テンやガクのように、先天的な資質に頼る事なく、技を磨き上げることで、ここまで到達した仁木田は……ある意味で、楓の分身のようなものだ……。
 楓も、それに、工場内に居残って戦いの帰趨を身ももっていた一族の者たちも……もとから「特別製」であるテンやガクよりも、仁木田のほうに感情移入していた。
『そういえば……テンちゃんとガクちゃん!』
 楓は、はっとして、テンとガクの方に振り返る。
 二人とも、地面に突っ伏して、ピクリとも動かない……。
 楓は、あわてて二人に近寄る。
 まず、ガクを抱き起こすと、「……うーん……おなか減った……」という声が返ってきた。
 ……こっちは大丈夫そうだな、と、楓は、ガクのをそっと床に横たえる。
 テンの方は、孫子が様子をみていた。
「……薬物を注入された、とかで……それに、腕に、手裏剣も……」
 近寄った楓に、孫子がそう告げて、テンの二の腕に刺さったままの手裏剣を指さした。さほど深く刺さっている訳ではないが……不用意に引き抜くと、出血を促す。
 消毒液や止血処理の準備を整えてから処置した方が、賢明だろう……と、楓は判断する。
「……どれ、わしにも見せてみろ……」
 不意に、背後から、皺涸れた声が聞こえる。
 振り返ると、刀根畝傍が立っていた。
「……娘ども。そう、露骨に警戒するでない。
 勝負はついた。加納の小伜にいわせると、互角、だとよ……ほっ、ほっ。
 どれ。
 こやつは、丸居にしびれ薬を漏られた方の小娘だな。丸居の手の内くらいは、こちらにはお見通しじゃ。この丸薬を水で飲ませておけ。小一時間もすれば、毒も分解する筈じゃ。
 あとは……手裏剣の方じゃが……ふむ。意外と、浅いな。
 小娘。
 今から秘伝の軟膏を塗り付けるから、乾いた布を用意せい。この程度の手当くらいできんで、なんの術者か……」
 楓は、指示を仰ぐように、荒野の方を振り返った。
「……爺さんのいうとおりにしろ。
 もはや、やり合う気はないようだ……」
「小僧……そうし向けたのは、お主であろう……」
 刀根畝傍老人は、苦笑いをしている。
「まったく……口先三寸で、あの場を収めよって……」
 楓がテンとガクに駆けつけている短時間の間に、荒野と刀根老人との間に、なにやら交渉があったようだった。
「……念のため、先生も呼んでおくか……。
 他にも寝ているやつらもいるし……」
 荒野が携帯電話を取り出すと、
「……なに、あれしきのことでどうにかなるようなやわなやつらか。
 しばらく待てば、勝手に息をふき返すわい……」
 刀根老人が、そんなことをぶつくさいいはじめる。
「……この程度ことで医者など……近ごろの若いもんは……わしの若い頃なぞ……」
 うんぬん。
 この手の独り言が多いあたり、立派な老人だった。
「……加納様……」
 楓は、おずおずと言いにくそうに、荒野に進言した。
「ガクちゃんが、その……お腹が、空いたそうで……」
「……デリバリーで、なんかとろう……」
 荒野は、しごく真面目な表情でうなずいた。
「もう、いい時間だし……どうせならついでに、茅も呼ぶかな……。
 ……おおいっ! 徳川!
 この辺で、出前のきく店って……」
「……わたくし、一度学校に帰ります。
 向こうの様子も、気になりますし……」
 孫子がそういって、立ち上がった。
「……あっ!
 じゃあ、わたしも……」
 楓も孫子に続こうとするが、孫子はそれを遮った。
「……ここも、まだまだ騒然としているし……。
 それに、香也様も引っ張ってくるから、あなたはこちらに残りなさい……」
 いわれて、見渡せば……テンとガクの二人は、まだしばらく回復しない。残りの一族は、先程の戦いに気圧されて、完全に毒気が抜かれているように見えたが……だからといって、徳川や放送部員たちの護衛役が荒野一人だけ……というのは、確かに心細かった……。
「……わかり、ました……」
 楓は、釈然としない気持ちを抱えたまま、不祥不祥、といった感じで、頷いた。

 タクシーを呼んで出て行った孫子は、三十後、タクシーと三島の車に分乗して、香也、茅、だけではなく、樋口明日樹、飯島舞花、柏あんな、佐久間沙織……それに、酒見純、酒見粋の姉妹まで伴って、工場に帰ってきた。
 何故か、酒見姉妹は、楓の学校の制服とジャージを着用している。
「……うちの学校に、転校してきたんですか?」
 楓が、酒見姉妹に向かって、不審な表情を隠そうともせず、尋ねる。
「……まさか、この時期に……。
 わたしたち、年齢でいえば、三年生よ。
 三年生が、三学期も半ばを消化したこの時期に転入……なんて、それこそ、不自然でしょ……」
 双子のうち、制服姿の方が、肩をすくめながらそう答える。
「……じゃあ、何故、そんな格好、しているですか……」
 楓の声が、低い。
「……そ、それは……」
 問い詰められると、双子は覿面に狼狽した。
 荒野も、少し前にいっていたが……この姉妹は、非常に、わかりやすい。
「……まあ、そりゃ、アレがナニでな……」
 三島百合香が、意味をなさないことをいいながら、双子と楓の間に割って入る。
「……いろいろあって、こいつらも、この近辺では悪さできなくなったってこった……。
 こいつらが何か悪さをしでかしそうになったら、耳元で、チーズケーキ、チーズケーキと囁いてやるといいぞ。
 いわば、魔法の呪文だな……」
 チーズケーキ、とは、幼児性愛愛好者を指す隠語だったが、その手の知識に疎い楓には、当然のことながら、まるで意味が分からなかった。
 双子はというと、何やら顔色を、青白くしていてる……から、それなりに、霊験あらかたな呪文なのだろう、と、楓は納得した。
「……分かりました。この二人をおとなしくさせる呪文は、チーズケーキ……」
「そう……チーズケーキ……」
 チーズケーキ、チーズケーキ、と連呼しながら、楓と三島は、くすくすと低く声をあげて笑い合った。
「……で、だ。
 今日はまた、随分大勢だが……」
 三島が、工場の内部を見渡した。
 学校の制服を着ている者だけでも対した人数だが……それ以上に、術者が多い。
 楓と孫子が一度ノックアウトした連中も工場に合流してきているから、一族の関係者だけでも五十人以上になる。
「……餌、足りるのか?」
「一応、ピザのデリバリ、頼みましたけど……」
 向こうでなにやら徳川と話し込んでいた荒野が、こちらに向かって叫ぶ。
「この分じゃあ……全然、足りませんね……」
「……よっしゃあ!
 玉木、それに、手の空いているの何人か!
 商店街に買い出しに行くから、手伝え!
 玉木は家に連絡して、刺し身用の魚、適当に押さえろ! 捌くのはわたしがやってやる!」




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