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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(117)

第六章 「血と技」(117)

 合理的、か……と、荒野は沙織の言葉を反芻する。
 一族とて……人間の一種であり、生物である。対抗するための方法は、必ずしも武術である必要はない。
 自分の皮膚よりも硬い物で切りつけられれば、皮膚が避ける。鈍器で殴られれば、よくて内出血、打ち所が悪ければ、昏倒したり死傷したりもする。薬物も効けば、感電もする……。
 今回、茅が採用した方法は……相手が来る場所とタイミングがあらかじめ分かってさえいれば、実は、効果的な……それこそ、非力な一般人でさえ、一族の者を取り押さえることが可能な方法であることが、証明された形で……。
 荒野は、視線を逸らして、座り込んでなにやら話し合っている、テンとガク、それに仁木田の方を見る。切れ切れに聞こえて来る単語から判断するに、仁木田は、テンやガクに気配絶ちや幻術の類いがまるで通用しなかったことを、訝しがっているようだった。
 テンやガクは、現在の工場内が、死角がないほどセンサー類で走査されていること、そこで得た情報を選別し、リアルタイムで表示するシステムを自分たちで作り上げたこと、などを仁木田に説明する。
「……機械、か……」
 一通りの説明を聞いた仁木田は、軽く呻いた。
「やはり、お前らは……新種で、新世代なんだな……」
「おじさん、難しく考え過ぎ……」
 テンが、仁木田に、指摘する。
「こんなもん……たまたまあったから使っただけで、単なる道具だよ……」
「……そうそう」
 テンの言葉に、ガクも頷く。
「カメラとかマイクが設置されていない、この工場以外の場所だったら……ボクたちも、もっと苦労したと思うけど……」
「いや……それでも……」
 仁木田は、何かを、慎重に考え込む表情になっている。
「……機械で得た情報をフィードバックする、というのは、現実問題としても……使える手段なんじゃないか?」
 出自が古いからといって、一族が、因習ばかりに縛られた存在である訳でもない。むしろ、便利なものがあるなら、積極的に自分たちの活動に取り込んで行くだけの柔軟さも持っていた。その程度のことさえできないようでは、何百年も「一族」としてのアイデンティティを保持できない、とも言える。
 それが何故今までの、索敵に機械類を活用してこなかったというと……従来の機械では反応が遅すぎて、一族の望むレスポンスが得られず、使い物にならなかっただけの話しだ……。
 しかし、今回、テンとガクが使用したシステムは……仁木田たちの動きを、リアルタイムで捕らえていたのだ。
 そうでなければ、敷島や刀根老人は、テンとガクに破れていない。
「ここ意外の場所で、同じことをしようとすると……」
 仁木田が何を言いたいのか察したテンは、やはり考えながら、慎重に答える。
「理論的には、可能だけど……実現するのは、難しいと思うな……。
 一つは……最初に、大掛かりな設備投資が必要になる、ということ……」
「ようするに……金……の、問題か?」
 打てば響くように、仁木田が答える。
「端的にいうと……それが第一、だね。
 これだけの精度のいいセンサーを高密度で展開する、となると……それだけ、先立つものも必要になる……。
 それ以外に……」
「大規模になればなるほど……システムの負荷も増え、レスポンスが悪くなる……必要な処理能力をどのように確保していくか、という問題……。
 後、情報の移送に無線を使用する場合は、帯域の確保のことなんかも、考えなければならない……」
 ガクが、テンの言葉を引き取る。
「……さっきのは……ボクら専用に、マーキングした標的……今回のパターーだと、赤いひらひらのおねー……さんだか、おにーさんだかはっきりしない人と、そこのおじいさんに絞って、数値や記号として表示させたから、この速度で処理できたけど……こういう表示方法、テンとかボクとか、慣れている人でないと意味が分からないから、他の人も利用するとなるの、インターフェースからしてデザインしなおさなければならないし……」
「インプットもアウトプットも……より詳細な情報を伝えようとすれば、それだけ処理系の負荷が増えるわけで……音声や画像などのデータは、リアルタイムでそのまま扱うとなると、やはり、重いから、太い無線回線を保持する問題とかもでてきて……」
 テンがさらに、続けるていると……。
「……面白そうなお話を、していますわね……」
 その後ろに、いつの間にか、孫子が立っていた。
「わたくしも、最近、つくづく思うのですが……戦闘時の一族の方々の優位、というのは……筋力や反射神経よりも、その姿を秘匿するためのメソッドを伝えている所に、あるのではないかしら……。
 それ以外の表面的な優位性は、実は、火器の使用などによって、十分に対処できる……」
 最初、いきなり話しに割り込んできた孫子を、怪訝な表情で見ていた仁木田は、不意に「……ああ。昨夜、双子をとっちめた、才賀衆の小娘か……」と、詰まらなそうな顔をして呟く。
 孫子が、単身で酒見姉妹二人を相手にして、圧倒した話しは、一族の中でもそれなりに広まっているらしい。
「……で、その才賀の小娘が……おれたちの話しにどういう興味を持っているんだ?」
 仁木田は、小馬鹿にしたような表情で、孫子に話しの先を即した。
「……武器や装備など、十分な用意をしていれば、能力的に劣った者でも、自分より遥かに強い相手に勝てる……という話しを、しています……」
 孫子は、仁木田の表情を意に介さない風で、先を続ける。
「……あなたがたでは、そのままでは……いくら人数を揃えても、ガス弾を使用した連中には対抗できませんわ。向こうは攻撃する時と場所を自由に設定でき、単体での戦闘能力は、ここにいる誰よりも高い、と想定するだけの根拠があるからです。
 が……。
 しかるべき準備を十分に整えて待ち伏せれば……あるいは、なんとかできるかも、知れませんわ。
 先天的な能力の不備を、ツールと組織力によって補うのです……」
「……小娘が、知ったようなことをいう……」
 仁木田は、にやにやと口の端を笑いの形に歪めている。
「で、そのために必要な金は……どなたが、恵んでくださるんで?」
「他人の恵みを当てにする必要なぞ、ないのだ……」
 徳川が、孫子の隣に割り込んできた。
「……必要な資金なら、この先、いくらでも稼げる……。
 それに、工場内に設置したものとは精度においてかなり劣るとはいえ、早期警戒に必要なシステムは、すでに量産体制に入っているのだ。
 後は……出来上がった防犯カメラを、市内の主要箇所に設置するだけなのだ……」
「……新型の防犯カメラ、あるいは、違法駐車の監視カメラの使用試験、という名目で数万個の監視装置を、無料で市内に設置します。
 同時に、同じシステムを、才賀資本の多くの警備会社に売り込みます……」
 孫子が、自信に満ちた表情で、頷く。
 売り込む、とはいっても、売り込み先の企業の多くは、孫子自身が大口の証券を握っている大株主で……ましてや、これから売り込もうとしている監視システムは、従来のものに比べ、性能がいい。
「……このシステムの肝は……データベース内に設定した人物の特徴を記憶し、認識できるということです。
 あらかじめデータベース上に入力した特徴を持つ人物が入ってきたらカメラの視界に入ってきたら、管理者に警報を発し、同時に、別の場所にあるカメラと連動して、その人物の動向を監視します……。
 空港や駅、それに主要なホテルなどに設置できれば、指名手配犯やテロリストの検挙率は、かなり上がることになるでしょう……」




[つづき]
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