第六章 「血と技」(118)
仁木田は、孫子と徳川が交互に披露する構想に、若干、気後れを感じはじめたようだ……、と、荒野は観測した。
話しが進むにつれ、つまり、スケールが大きくなるにつれ、挙動に落ち着きがなくなってくる。仁木田はもとより、他の一族にしても、「表」のビジネス……とれも、これだけの規模のプロジェクトに関わる機会は、そうそうあるわけではない。
そこで、仁木田は、話題を逸らすつもりか、
「……だが……この工場内をくまなく撮影している……っていうのは……一体、どうしてなんだ?」
などと話題を変えはじめる
「……はいはいはい!」
片手を上げながら玉木玉美が勢いよく登場した。
ここから先の展開が容易に想像できた荒野は、
『……あ。
仁木田さん、これでますます落ち着かなくなるな……』
と思った。
これから玉木の口から出ることは、従来の一族の価値観と、真っ向から対立する。
荒野でさえ、内心で折り合いをつけるのに苦労したのだ……。
玉木は、
「……それについては、わたしの担当です!
説明させていただきます。是非、説明させてください!」
と前置きして、「シルバーガールズ構想」について、事務所から持ち出した液晶ディスプレイに実物の映像を写しながら説明しはじめた。
その背後では、佐藤君が迎えにいった羽生譲が野呂静流を伴って工場に入ってきた。呼嵐丸を連れて白い杖をついた野呂静流の姿に気づいた一族の者が、小さくどよめきはじめる。陶然のことながら、野呂本家の直系である静流は、一族の中でもかなり名と顔が知れ渡っていた。
静流本人は、そんな騒ぎも意に介した様子も無く、羽生とともに三島に合流して、調理の下準備を開始する。
佐藤君やそばにいた数名が、車に積んできた炭などをおろして工場の奥に運び込んでいた。
「……いや……ちょっと待て……今、気分を落ち着けている……」
数分後、玉木の説明を一通り理解すると、仁木田は盛大に煙草をふかしながら、玉木の説明を遮った。
「……お前らは、ご近所の平和を守る、正義の味方だ……。
少なくとも、そうであろうとしている……そこまでは、理解した……」
顔を俯かせたまま、仁木田は、ゆっくりと話はじめた。
「おれはお前らの保護者でもなんでもないから、そのことの是非は、ここでは問わない。
また……お前らなら、確かに、大概の悪者なら、実力行使で排除できるだろう……。
……だけど……よぉ……。
なんだって……正義の味方、なんだ?」
仁木田の絞り出すような口調に、荒野は、
『……ああ。やっぱり、混乱しているな……』
と、思った。
「その理由は……いろいろあって、話せば長くなるけど……」
玉木が、「……まず、第一に、今後、悪者退治が本格化すると予測され……」などと、「シルバーガールズ構想」のメリットをとくとくと数え上げ始める。
一つ、二つと滔々と説明を終え、玉木が三つ目のメリットを説明しようとすると、
「もう、いい!
……分かった。
見かけほど酔狂なわけではなく……すべて、計算づくだとうことが、よく分かった……」
何かに耐え切れられなくなったように、仁木田が、再び玉木を制する。
「……よう、加納よぉ……。
お前、ここでとんでもないガキどもとつるんでいるな……」
仁木田は話しの矛先を、今度は、そばに来て成り行きを見守っていた荒野に向けた。
「実に……面白そうだ。
しばらくここにいれば、少なくとも退屈だけは、しないな……」
「……ええ」
やはり……荒野が玉木やテンたちに、やめるように説得するための材料を思いつかなかったように、仁木田も、「シルバーガールズ」計画を廃止に追い込むほどの根拠を思いつかなかったらしい……。
結果、仁木田は……荒野と同じく、開き直った。
「保証します。
退屈だけは、絶対に、しません……」
荒野は、心の底から、そう断言することができた。
そして、
『……その代わり、気苦労も耐えないけど……』
と、心中でそっと付け加え、しかもその想いはおくびも表情には出さない。
仁木田のように経験豊富で陣頭指揮を取ることもできる人材は、急速に人数が膨れ上がっている現状では、実に貴重な存在なのだ。だから荒野は、仁木田と一緒にテンやガクと戦った他の五人も含めて、仁木田も完全に「こちら側」の人間とし味方につけるつもりだった。
そろそろ優秀な中間管理職も確保しておかないと、現実問題として荒野の身が持たない。
そんなことを話している間に、
「……おーい!
お前ら、話しに熱中するのもいいが、餌の準備もぼちぼち出来てきたぞー……。
まだ炭火を起こしたばっかだから、まずは、刺身と乾き物からな……」
そんなことを言いながら、事務所の方に引っ込んでいた三島が、そこいらにたむろしていた術者を何人か手招きし、紙皿に乗せた刺し身や乾き物を適当に配りはじめる。また、その頃にはショッピング・センターまで買い出しに行っていた一族の者も帰ってきており、箱買いしてきた缶のビールやソフトドリンクを配りはじめていた。
三島がそう声をかけて来たのを機に、徳川が手際よくガスバーナーを用意し、工場の隅に転がっていたドラム缶を上下半分に焼き切り、空気穴をあげ、内側、上十数センチの余裕を空けて、水平方向に金網を溶接した。
その金網の上に羽生が持ってきた炭を並べて火を起こし、即席のコンロをつくる。
三島や羽生を中止として、料理の心得がある人間が数名、集まって、三島が買い出して来た材料を使って、本格的料理を初めていた。
茅は茅で、メイド服姿で周囲の連中に片っ端から紅茶を振るまい初めていた。茅の素性を知らぬまま、物珍しさに集まった一族の中から、時折、「えっ! この子が……」とか、「……例の……加納の……」というひそひそ声が聞こえてくる。
『……なんだか……なし崩し的に、茅のお披露目にも、なっているなぁ……』
と、荒野は思った。
考えて見れば……テンやガク、それに茅の姿を大勢の一族の者の目に晒したのは、これが初めてのことである。それまでは、上層部とか、たまたま機会があった個々人など、ごく限られた範囲でしか、接触していなかった。
『……ま……らしいといえば、らしいお披露目になったか……』
とも、思う。
この場にいる者経由で、テンやガクの実力が知れ渡るのなら……たいていの者は二の足を踏んで、勝負を挑んでこない筈であり……その意味で、大勢の術者が見守る中、実力に関してそれなりに定評のある六人を、たった二人で破った、という事実は、テンやガクにとっても、今後有利に働く筈だった。
無用な争いで、時間と体力を消耗することもない。
今後、テンやガク、それにノリに挑んでくる者があるとすれば……それは、己の力量をわきまえられない粗忽者か、それとも、三人が束になっても適わないレベルの熟練者になるだろう……。
荒野がそんなことを考えているうちに、買い出しに行ったついでに適当に注文して来た、とかいう物品を、酒屋が軽トラックを乗り付けて届けにくる。
料金の清算は、ピザ屋の対応をしたものが、その時徴収した金で行い、すぐに、他の一族の者も集まり、受け取った物品をケースごと担いで運び込みはじめた。
その後は……宴会、になった。
[
つづき]
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