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彼女はくノ一! 第五話 (203)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(203)

 見ると、確かに野呂静流の周囲には、人が集まっていた。
 静流のお茶を飲むための、順番待ちになっているらしい。
 静流は、繊毛を敷いてその上に茶釜を乗せ、自分も正座している。対面して静流の点てるお茶を喫しているのが、学校の制服を着ていたり、あるいは、ジーンズやスーツ姿の、いかにもそこいらを歩いていそうな服装の面々であるあたりが、なんとなくミスマッチでおかしい。しかも、その背後は、事実上廃材置き場となっている徳川の工場内であるわけで、なおさらシュールな光景だった。野点を行うのに、これほど似つかわしくないロケーションもあるまい……と、は思うのだが……静流も、お茶を振舞われた側も、そうした瑣末なことにはまるで意に介していないようで、それどころか、静流の前で畏まって正座していた人々が、一口お茶を口にすると、ふっと顔から緊張が消え、安堵の表情になってしまうのが、まるで魔法のようでもあった。
「……宣伝……というより、麻薬に近いよね……あれは……」
「一度味わったら……定期的に買いに行くようになるわよ……」
 背後でそんな声がしたので、ふと視線を向けると……まったく同じ顔に見える少女二人が立っていたので、楓は、目を見開いた。
 一人は学校の制服を、もう一人は学校指定のジャージを着用している。
「……あっ。チーズケーキの人たち……」
 思わず、楓はそう呟くと、二人は、まるで同期でもしているかのように、まったく同じタイミングで顔をしかめる。
「……その言い方、やめてよね……」
「……ちゃんと名前、あるんだから……」
 三島百合香に教えてもらった呼称は、二人は、気に入っていないらしい……と、楓は思った。
「酒見純」
「酒見粋」
 同じ顔をしている二人に名乗られても、楓は、二人を見分ける自信がなかった。
「「……見分けがつかなかったら、酒見と呼んでくれればいいわ……」」
 戸惑う楓に向かって、二人は、同時にいった。
 自己紹介、ということらしい。
「……あっ。わたしは……」
 楓が、自分のことを伝えようとするのを、二人は手で制した。
「いいの。わかっている」
「あなた、一族の中では有名人だから……」
「あの才賀や加納の姫よりは、素直な性格らしいし……」
「わたしたちも、できれば、あなたとは仲良くしたいと思っているの……」
「「……最強の二番弟子さん……」」
 最後に、二人は声を揃えてそういって、なんとなく下心のありそうな笑みを浮かべた。
 楓は……二人の背後に忍び寄ってきていた荒野の存在について……二人に知らせるべきかどうか、迷っていた。
「……実に、いい心がけだ……」
 いきなり、背後から荒野がそう声をかけると、二人はビクン、と数十センチほど飛び上がり、ギクシャクとした仕草で、背後を振り向いた。
 そこに立っている荒野がジト目をしているのを認めて、二人の背中が面白いほど硬直している。
「……強いとわかっている楓にとりいって虎の威を借りる狐というかコバンザメ的な利益を得ようとする魂胆は見え見えだが、仲良くしようとという心がけ自体は、実に、素晴らしい……」
 荒野は、芝居ががった口調でそういいながら、肩をすくめる。
 周囲にいた一族の関係者たちが、こちらで何がおこっているのかを察し、くすくす笑っていることに、楓は気づいた。
「……そこで、だ……。
 お前ら……春に学校がはじまるまで、どうせ、やることがないだろう?」
 荒野はそうお前置きをして、酒見姉妹に、「加納の直系」として、「茅の護衛」を命じる。
「……お前らも、少しは人の役に立てよ……。
 お前ら、他人に自慢できるのは、荒事くらいなものなんだし……放課後、茅が学校を出てから家に帰るまでの時間だけでいいから……時間的な束縛も、それほどきつくない……」
 もちろん、報酬がでるわけではないし、断る自由は、酒見姉妹にもあったが……これだけの一族が集まる場で、確たる理由もなしに、「加納荒野」の頼みを断ったとしたら……一族の社会の中で、二人に対する評価はかなり下落するわけで……。
 実際問題としては、酒見姉妹としては、蒼白になりながらも、ぎこちなく首を縦に振るより他、選択肢はないのであった……。
「……楓にも、茅にも……そろそろ、自由に動ける時間を作ってやりたいんだ……」
 と、荒野はいった。
 その意図は、楓にも理解できたが……楓にとっても、荒野のその指示は、青天の霹靂であった。
「楓……しばらく、お前は……自分の思うように、動いて見ろ……」
 楓は、その、「自由にしてみろ」といわれた経験が……これまでの生涯で、まったく、ない……。
 言葉を失って呆然としている楓の態度をどう誤解したのか、荒野は、
「……そうか、この二人の実力が、不安か……。
 これでも、荒事に限定すれば、それなりにいけるんだけどな、この二人……」
 とかいいながら、一人で頷き、
「……どうだ?
 楓はこういっているけど、お前ら……自分の実力、この場で、証明してみたくはないか?」
 などと、呑気な声で、酒見姉妹をたきつける。
 酒見姉妹は、一瞬、顔を見合わせ、すぐに頷き、「「やります!」」と声を揃える。
 この二人は……少なくとも、自分たちの力量に対して、それなりの自負を持っているらしい……と、楓は、ぼんやりと考える。
 荒野に、「自分の思うように、動いて見ろ」といわれてから、楓の頭は、あまり潤滑に回転していないのだが……。
「と……いうことだ。
 楓、こいつらの相手をしてやれ。しばらく、お前の代わり勤めるのだから、お前自身が直に腕を確かめた方がいいだろ……」
 荒野は、なかなか反応しようとしない楓に向かって、さらに言葉を続ける。
「……いいか、楓……。
 これは、この場にいる全員に、お前の実力を見せるいい機会でも、ある。
 お前が何者であるのか……ここにいる人たちに、教えてやれ……」
 そういう荒野の口調は、むしろ優しいのだが……。
「……はい……」
 楓は、半ば思考が麻痺した状態で、反射的に返事をする。
「加納様が……そう、いうのであれば……」





[つづき]
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