2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女はくノ一! 第五話 (206)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(206)

 その場にへたり込んだ荒野には焼き魚を手にした三島が、膝を突いて泣きじゃくる楓とその楓の肩に手を置き何やら話しかけている香也には、孫子が、それぞれに駆け寄る。
 香也をここまで導いてきた茅は、香也たちの傍から離れて荒野の方に向かった。
 遠目に見物していた玉木や徳川たちは、なんとなく、もう大丈夫だろう……という気分になってくる。
 茅と三島が荒野に向かってなにやら話しかけると、荒野は焼き魚を咥えたまますぐに立ち上がり、とぼとぼと意気消沈した足どりで、事務所が入っているプレハブに向かった。
 同時に、三島が、楓と孫子、香也の三人を連れて、出口に向かう。
 玉木や徳川など、学生一同は、荒野のグループを顔を見合わせて短く囁きあったが、結局、荒野の方を追いかけることにした。
 楓たちのグループは仮にも大人である三島が付いている。それに、詳しい事情を訊くには、取り乱したり興奮したりしている楓や孫子よりは、荒野や茅の方が、まだしも整理された情報が入手できるように思えた。
 これまでの付き合いで、楓や荒野たちの性格や気質も、彼らの間ではそれなりに周知のものになっている。荒野はもとより、茅の冷静さと判断力は、時として異常なほどの冴えをみせる。

 一方、三島百合香に連れ出された楓たちは、三島の小型国産車に押し込められた。押し込められた、というのは、途中で、心配した羽生が合流してきたからだ。
 三島が運転席に、羽生が助手席に、そして後部座席には、香也を中心として楓と孫子が左右にはべる、という形で、乗り込むことになる。
「……どう、楓ちゃん……。
 もう、落ち着いた?」
 助手席でシートベルトを締めながら、心配そうな顔をして、羽生が後部座席をのぞき込んだ。
「……ええ……」
 顔を伏せながら、楓がつぶやく。
「……もう……大丈夫です……」
「荒野のやつには、ガツンといっといたからな……」
 前を向いたまま、三島が、いった。
「茅にも、荒野に説教するようにいっといたし……もう、お前が心配するようなことは、なにもないぞ……。
 なに、寝て起きれば、またいつもの通りだ……」
 そういって、三島は、車を発進させた。

 狩野家の前で乗客を降ろした三島は、車をマンションの駐車場に回してから、徒歩で狩野家に向かう。
 玄関で一声かけてずかずかと居間に入っていくと、羽生と香也が炬燵に入ってぼんやりとしていた。流石の香也も、あのような騒ぎが起こった直後では、いつものように平然と絵を描く気にはなれないらしい。
「楓は?」
「今、シャワーを……ソンシちゃんが付き添ってます……」
 三島が尋ねると、羽生が、ゆっくりとした口調で答えた。
「……すぐに出ると思いますけど……」
 奥から出てきた孫子が、羽生の後を続けた。
「……ったく、加納も……。
 不用意に、あんなことをいうなんて……」
 孫子は、心持ち険しい表情をしながら、炬燵に足をいれた。
「センセ……さっきのは……結局、なにがどうなったら、あんなになったんすか?」
 羽生が、三島に聞き返した。
 声が届かない位置にいた羽生は、当然のことながら、細かい事情までは、まるで理解できていない。
「どうやらな、荒野の馬鹿が、楓に、ものはずみで、お前はもういらない、みたいなことをくっちゃべったらしい……」
 三島は、やれやれといった感じで首を振った。
「加納は……不用意、すぎますわ……」
 下唇を軽く噛みながら、孫子はそう続けた。
「あの子……ただでさえ、卑屈なところがあるのに……」
「……卑屈、って……」
 孫子のいいように、羽生が苦笑いする。
「それはちょっと、大げさにすぎると思うけど……。
 でも、まあ……そうか……。
 最近では落ち着いてきたようだから、気にならなくなってたけど……。
 そうだな……。
 楓ちゃん、来たばかりの時は、妙におどおどしてたし……」
「……んー……。
 そう……」
 香也が、ぼそぼそと、呟く。
「ここにいてもいいかの……とか……すごく、気にしていて……」
「……あの子は……自分の出自がはっきりしないことを、気にしすぎなのです……」
 孫子が、ため息をつく。
「誰から生まれようが……あの子は、あの子自身でしかないでしょうに……」
「……周りに凄いのがごろごろいるから、あまり目立たないけど……」
 羽生は、煙草に火をつける。
「あの年齢で、あんだけしっかりして、頭もよくて……運動神経は、いうまでもない……。
 あんだけ出来すぎた子が、自分に自信を持てないなんて……嫌味といえば嫌味だよなあ……」
 ……ソンシちゃんのようにふんぞりかえっているのも、どうかと思うが……とは、心中で呟くだけにしておき、口には出さない。
「……だから、さ……」
 三島は、ゆっくりと言葉を吐き出す。
「あいつは……楓は……自信がないから、一生懸命いい子でいようとしているわけだろ?
 それこそ、涙ぐましいくらいに……」
「……んー……」
 香也も、一言一言選びながら、ゆっくりと、言葉を吐き出す。
「自信……とか、そういうことじゃなくて……。
 楓ちゃんの場合……自分の居場所を……ずっと、探しているような、気がする……」
「……居場所、かぁ……」
 羽生は、天井に顔を向け、紫煙を吐き出した。
「それいったら……この家にいる人たち、みんなそうじゃん……」
 しばらく、誰もなにもいわなかった。
「……ま……。
 楓に限らず、あの年ごろは、多かれ少なかれ、みんな自意識過剰だろう……」
 三島はそういって、もぞもぞと身動きをした。
「こういっちゃぁ、なんだが……楓の自己憐憫も、ありゃ、裏返しになった自意識過剰だ……」
「そう……なんすけどねぇ……」
 羽生は、がっくりとうなだれる。
「それがわかったからといって……楓ちゃんが抱える根源的な不安が、消えるわけでもなし……」
「……ガキの自己憐憫に、周囲の大人が振り回される、というのも……なんだかなぁ……」
 三島が、ため息をついた。
「問題は……」
 孫子が、冷静に指摘した。
「あの年頃にありがちな心理であろうが、なかろうが……あの子が取り乱して暴れれば……かなりの被害が出る、と予測されることです……。
 今日のも、あの場所で、わたくしや加納がいたから、なんとか押さえることができましたが……」
 孫子が指摘するとおり……楓の能力を考慮すれば……確かに、町中とかで、楓が、何かの拍子に暴れ出したとしたら……。
「……相当の……」
「……被害が、出そうだな……」
 羽生と三島は、想像力を働かせ、揃って息を呑んだ。
「ようは……楓ちゃんに、自信……というか……ここにいてもいいんだ、と、完全に信じ込ませることができれば……」
 羽生が、誰にともなく、ぶつぶつと呟く。
「でも……どうやって?
 いままで、こんだけ、いい人たちに囲まれて暮らしてて……それでも、まだ……なんだぞ……」
 三島が、すかさず突っ込んだ。
「……それについては……提案が、あります」
 そういって、孫子は、炬燵の上に小瓶を取り出した。
 その小瓶をみた瞬間、香也の顔色が、さぁーっと青ざめる。
「自信、というか……あの子に、ここでの絆を、作れば、いいんです……。
 わたくしも……このようなものに頼りたくはありませんでしたが……」
 孫子は、先ほどシルヴィ・姉崎から手渡された小瓶の中身について、手短に説明しはじめた。




[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking  HONなび





↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのはち]
Adult Link*Link 【アダルトXアダルト】相互リンクNAVI ADULT-STEP.JP ERO=MIX @SEARCH 無料アダルト総合情報サイト~アダルト・ザ・ワールド アダルト専門 リンクアダルトサーチ アダルトサーチ PB SuperNAVI ADULT asa.tv




Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ