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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(123)

第六章 「血と技」(123)

「まあ……ヒーローとかヒロインに、トラウマや意外な弱点があるのはお約束だし……」
 玉木が、わかったようなわからないような納得の仕方をする。
「なに、意味不明なことをいっている……」
 荒野が、焼き魚の最後の一切れを嚥下して、骨と頭だけがついた串を無造作に投げ、五メートル以上離れたゴミ箱の中に放り込んだ。
「……ストライク、なのだ……」
 徳川が、判定した。
「これくらい……できて当然、か……」
「……それより!」
 ガクがいきなり大声をあげたので、全員が注目する。
「ヒロインは、楓おねーちゃんじゃなくて……ボクたち、シルバーガールズなの!」
 ガクに注目した全員が、どっと疲れた顔になった。
「……はいはい……」
 疲れた全員を代表して、荒野が、答える。
「そっちの段取りは、玉木に頼め……。
 おれたちは……」
 荒野が何かいいかけた時、着信音が響いた。
「……あっ。ボクのだ……」
 テンが、自分の携帯を取り出し、液晶を確認した。
「……にゅうたん? なんだろう?」
 首を捻りながらテンは、その場で通話をはじめる。楓たちと一緒についさっき帰ったばかりの羽生が、このタイミングでかけてくるのだ。急ぎの用件か、楓の件に関係した連絡だろう……と、テンは予測した。
「……はい、テンですけど……。
 はい。はい……。
 え? ええっと……。うん。ちょっと待ってて……」
 テンは、一度携帯から顔を放し、事務所内にいた全員に振り返った。
「あの……にゅうたんが……今夜は、このまま……ボクとガクが、どこかに泊まってくれると助かるっていっているけど……」
「……なんなんだ、それは……」
 全然話しが見えない一同を代表して、荒野が聞き返す。
「ボクにもなんだかよく分からないんだけど……。
 楓おねーちゃんを落ち着かせるためにも、ボクたちは、今晩、帰らない方がいいっていっているけど……」
「……なんなんだ、それは……」
 荒野は、もう一度コピペで同じことをいった。この程度のことで手抜きとはいわないように。
「普通に考えれば……一晩、ゆっくりと……みんなで、楓ちゃんと話し合うとか……」
 柏あんなが、自信のなさそうな声でいった。
「……うーん……。
 羽生さんと香也君だけならともかく……他の二名がなぁ……」
 荒野が、腕を組んで考え込む。
「……あっ。
 三島先生と……才賀さん、か……」
 飯島舞花が、そんなことをいいながら、ポリポリとこめかみを掻く。
「確かに……どちらも、ベクトルは違うけど……。
 ……だし、なぁ……」
 その場にいた全員が、舞花の言葉に「……うーん……」と腕を組んで考え込む。
 三島百合香と才賀孫子、この二人が「常識外れの規格外品」である、という認識は、この場にいる全員が共有しているらしい。
「……茅が、話してみるの……」
 茅がそういってテンに手を差し出す。
 テンは、素直に携帯を茅に手渡した。

「……やっぱり、テンとガクは、今晩はあの家に帰らない方がいいと思うの……」
 茅は数分間、話し込んでから通話を切り、テンに携帯を返す。
「……なにを、たくらんでいるんだ?」
 不審顔の荒野が、茅に尋ねる。
「悪いことは、何も。
 ただ……楓を説得するためには、人数が少ない方がいいから……」
「……本当に……それだけ、か?」
 荒野は、重ねて聞き返す。
 茅の表情は、基本的に読みづらいのだが……荒野には、微妙な表情の違いが、読み取れるようになっている。
 今の茅は、「嘘はいっていないが、カードをすべてオープンしているわけではない」という顔をしている。
「楓を慰めて……新しい……もっと強い絆をつくるの……」
 茅は、どう解釈していいのか、判断に悩むような返答をする。
「心配する必要は、ないの。
 絵描きなら、きっと出来るの……」
「彼……香也君も、関わっているのか……」
 荒野は、さらに考え込む。
 あの場には、孫子も羽生も、いる。
 三島だけならともかく、その二人がいる場で、香也をだしにして、おかしな真似はしないだろう……と、荒野は判断した。
 仮にも孫子がいる場で、香也におかしな真似をできるとも思えない……。
「……香也君が承知しているのなら、まあ……信用するべき、なんだろうな……」
「……才賀さんも、いるし……」
 樋口明日樹も、荒野の言葉に追従する。だけど、口調がいかにも自信なさそうで、なんだか、無理に自分を納得させているような響きでも、あった。
「……樋口先輩……心配なら、香也君のところに、電話して聞いてみたら?」
 柏あんなが、小さな声で提案した。
 あんなには、明日樹の気持ちはよく理解できた。
 普段は、香也のことを「狩野君」と呼んでいるのだが、この場に荒野がいるのと、ほかの人たちに習って、この場では香也のことを「香也君」と呼んでいる。
「そう……ね。
 そうしてみる」
 明日樹は立ち上がって、みんなから少し離れ、携帯を取り出す。
「で……お前ら、外泊するのなら、前みたいに、うちに来るか?」
 明日樹が電話をしている間に、荒野はテンとガクと打ち合わせをはじめた。
「……あっ。泊まるんなら、うちでもいいよ。
 弟と妹も喜ぶし、両親もそういうのは気にしない人たちだから……」
 玉木も、片手を上げてそんなことを言い出す。
 玉木の家にとって、テンとガクはよく買い物に来るお得意さんだし、玉木の弟と妹にとってガクは、「顔に落書きをしたおねーちゃん」だった。
「……ボクは、どっちでもいいけど……」
「でも……いつもかのうこうやのところばかりでも、なんだから……今夜は、玉木おねーちゃんの所にお世話になろうか……」
 テンとガクは、顔を見合わせてそんなことを言い合う。
「……うん。わかった。
 じゃあ、また明日の朝……」
 そんなことをいっているうちに、明日樹が、通話を終えた。
「狩野君……。
 別に、心配するようなことはなにもない、って……。
 声も……普段よりも張りがあって、元気そうに聞こえたくらいだし……」
 通話を終えた明日樹は、そう報告した。
「じゃあ……当面の、楓のケアは……あの人たちに任せてみる、っていうことで……いいのかな?」
 荒野は、いつもより数段自信がなさそうな声で、周囲の者に確認してみた。
 茅だけが、自信ありげに荒野の言葉に頷いている。




[つづき]
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