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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(124)

第六章 「血と技」(124)

 それ以上、その場で話し合うべきこともなく、全員がぞろぞろと事務所を出て、工場内の宴会に合流した。
 テンとガクは、やはり一族の者の興味を引くらしく、なにくれと声をかけられ、引き留められた。荒野は、慇懃に挨拶や目礼をされることの方が、多い。
「……カッコいいこーや君……。
 いい所の、出……ということなんだよな?」
 そうした様子を見た玉木が、以前、荒野から教えてもらった知識を確認する。
「……いい所……かは、ともかく……六主家……は、おれらの間ではそこそこの権威だからな……」
 荒野は、おもしろく無さそうな顔をして、肩を竦めた。
「……自分で生まれが選べるんなら……今の家は、絶対に選らばないとは思うけど……」
「……なんで?
 こんなに……」
 そういって、玉木は、荒野に頭を下げた人たちの方を、ざっと見渡す。
 玉木や荒野と同年配の者も若干はいたが……大半は、明らかに年上の、社会人の風情だ。大の大人から、こうして頭を下げられる、敬意を表される……ということは、玉木や荒野の年齢では、まずないことで……。
 玉木には、それを面白くは思っていない……という荒野の心理が、まずもって理解できない。
 自分たちの年齢の者の言動が、いい大人たちに影響を与え……場合によっては、平伏さえ、する。
 それの、どこが気に食わないんあろうか?
 ……というのが、玉木の論法である。
「理由はいろいろあるけど……一言でいうと、重いんだ……そういうのは……」
 荒野は、平坦な口調でそう説明をし、
「とりあえず、今は……そんなことよりも、メシ食おう、メシ! みんな、お腹減ったろう?」
 と、すぐに、話題を変えた。
 そういって歩きだした荒野の後ろには、茅と酒見姉妹がつき従っている。
 玉木が、荒野の背負っているものの「重さ」に思い至るのは、もう少し、時間が経過してからのことになる。

 あちこちで声をかけられるテンとガクは、すぐに荒野たちと同道するすることをあきらめ、声をかけられ、勧められるままに食物や飲料を少しづつ頂いては、すぐに別の場所に移る、ということを繰り替えしはじめた。
 一族の者は、どうやら、同郷とか同じ血族で小グループを作って固まって飲食しているらしい。
 その島の一つ一つを、テンとガクは、飛び回りはじめる。
「……彼女たち……すっかり、人気者ね……」
 佐久間沙織が、そいいった。
「……ええ。
 まあ、ああやって、顔を繋いで行くことは、やつらにとってもいいことだと思います……」
 荒野は、答える。
「……テンは、全員の顔を覚えるだろうし……。
 それに、一族にとっては……自分の能力を何の疑問もなく誇示するやつらが……」
 うらやましくて、眩しいのだろう……と、荒野は思う。
 思えば、一族は……他者より秀でた能力を持つ、と内心で思いながらも、その事実をひた隠しにし続ける……という存在だ。
 その存在形態自体に、構造的に、内心の屈折を抱え込んでいる……とも、いえる。
 テンやガクには、そうした屈折がない。素直すぎるほどに、自分たちの異能を、楽しんで使っている。それは、まだ白眼視された経験もなく、自分の手を汚したこともない、無垢な者特有の素直さ、なわけだが……。
 同時に、それは……多くの、現場での経験を積んだ術者が、自らの内にはすでに見いだすことができない資質、でもある。
 テンやガク、ノリたち新種の存在は……彼女らが、存在すること自体が、これまでの一族の価値観を、揺るがせはじめている……と、荒野は、思った。
 テンやガクと肩を並べて談笑をしている、一族の者の晴れやかな顔は、なかなかに「いい」のではないか、とも……。
『……このまま、やつらが、正義の味方でいつづければ……』
 この勢いは、さらに広い範囲にまで、波及することだろう。
 彼女ら、新種と、この土地で実験的に行われている、一般人社会との共栄共存が、成功するとすれば……。
 最悪……か、最善、かは、物事を観測する者の価値観によって異なってくる評価ではあるが……そう遠くない将来、一族は、もはや旧態然とした「一族」としては、存在し得ず……大きな変質を迫られることになる。
 荒野自身には……それが、いいことなのか悪いことなのか、正直よく分からない。
 確かに、自分たち一族は、何百年か、あるいは、もっと長い期間にわたって、汚穢の海に頭の上まで浸かり、本来なら一般人自身が、自分の手で解決しなければならない問題の多くを、時として、荒っぽい方法で解決するための「手段」として、自分たちを位置付けてきた。
 その汚穢は、一般人社会が自然と生み出してきた矛盾が堆積してできたもので、自分たちは、その「一般人社会」というの枠の外にいる。故に、自分たちは、請負仕事として汚穢に浸かっても、その汚れは、自分たちは自身のものではない。自分たちは、金……か、別の対価を貰って、代わりに自分たちの技を売っただけだ……というのが、これまでの一族が掲げてきた、テーゼである。
 もっともこのテーゼも、とうの昔にもはや「建前論」的なものと化しており、丸呑みしてそのまま信じ込んでいる純真な者は、一族の中にはいないのだが……。
 しかし、ここで荒野たちが進行している「共栄共存」が成功すれば、自動的に、一族の存在も衆目の者となり、否応無く、一般人社会のパーツとして取り込まれる。それまで「一般人社会の部外者」として振る舞ってきた一族が、今度は、「一般人社会に取り込まれる」……。
 すると、それまでは、「自分たち以外のもの」、「外部のもの」として冷笑していればよかった汚濁も、「自分たち自身のもの」として、直視しなければならない。
 それまで、「一般人」と「一族」との間に歴然とした一線が存在したのには、やはり相応の理由があって……で、なければ、そんなシステムが、何百年も存続するわけはないのだ。
 それは……「一般人」と「一族」との間に境界を設け、お互いを蔑視する代わりに、営々、臭いに蓋をし続ける、という、それなりに理に適った「仕掛け」であり……しかし、その「一族」が、公然と、「一般人」に混ざって生活をしはじめたとしたら……。
『……保守派の反動も……近いうちに、眼に見える形になるだろうな……』
 荒野としては、そう予測せざるを得ない。
『……しかし……』
 荒野は、思う。
 ただ、茅を……たった一人の女の子が、笑って過ごせる環境を作るために……自分は、とんでもなく大きなものを相手にしはじめてしまったのではないか……と、今更ながらに、思う。
『まったく……そういうの、柄ではないんだがなぁ……』
 荒野は、思わず苦笑いをする。
 社会を変革する、なんて……世間知らずで、向こう見ずで、理想主義者の自称革命家が目指すべき目標だ。荒野自身が辛うじて当てはまる要素は、そのうちのった一つ、「世間知らず」という項目だけだろう。
 革命に成功した「革命家」は、この世には存在しない。大半は、志し半ばで頓死する。そうでない少数の成功者は、成功した途端、「革命家」から「権力者」へ転身する。それは、歴史が証明している。
 そして、荒野は、理想に殉じる革命家も、権力者に成り上がる革命家も、権力者そのものも、指向していない。
 荒野が目下の所、目指しているものは……平々凡々たる一学生だった。




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