2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(125)

第六章 「血と技」(125)

 その後は、ようするにただの宴会が行われたわけで、荒野と茅、それに酒見姉妹の一行は一族の主だった者たちに挨拶してまわり、他の生徒たちは適当に散っていった。誰もが一度は静流のお茶を体験しにいったようだが、それ以外の行き先はバラバラで、顔見知りの放送部員の集まりに合流する者もいれば、愛想のいい一族と打ち解けて話しはじめる者もいる。放送部員たちもいつの間にか散っていて、一族の者とごっちゃになって談笑していたりする。
 この場に集まったのは十代から二十代の若年層が多かったので、年齢が近い気安さで、学生とは混じり易い……ということも、あったのだろう。それに、一族の者も、できるだけこの土地に関する生の情報を欲しがっていたし、学生の方も、好奇心が強かった。
 大方の利害が一致しているので、自然と友好的な空気が生まれ初めていた。
 主だった者に挨拶回りをしながら、荒野は、「くれぐれも、問題を起さないように」という一点だけは、しつこいくらいに注意を与えていた。
 荒野にとって重要なのはそのただ一点だけであり、逆に言うと、何も問題を起しさえしなければ、どんな問題児がやってこようが受け入れる覚悟をすでに決めている。
 例の「悪餓鬼」どもの対策として動員をかける、などという話題は、荒野の方からは一切出すつもりはなかった。正直な所、ある程度戦力になる人手は喉から手が出るほど欲しかったが……それにしたって、あまり「その気」のない者を無理に誘ったとしも、たいした戦力には、なりやしないのだった。
 仮に協力を仰ぐにしても、それは相手の実力と性格、やる気などを、慎重に推し量った上で、じっくりと口説いて行けばでいい……と、荒野は思っていたし、だから、今の時点で初対面からいきなり協力を要請する、ということも、一切しなかった。
 また、そうした荒野の態度は謙虚なものとして、その場に集まった一族の者に、おおむね好意的に受け止められた。

 楓とともに荒野の実力を目の当たりにした一族の者たちは、実際に荒野と言葉を交わしてみると、荒野が一族の実力者にありがちな、独善的でエキセントリックな性格の持ち主ではなく、ごく普通の気さくな少年であることを実感し、一様に安心した。
 なにかと「濃い」実力者に頭を押さえ付け、指示を受ける経験が多い彼らにとって、荒野の「普通さ」、「会話のし易さ」は大きな安心感の源泉となった。荒野と年齢が近い者が大勢を占めることもあり、六主家の跡継ぎという地位にありながら、この土地での「共生実験」を自分の意志で開始した荒野に敬意をもって扱う者も少なくはなく、挨拶回りをするうちに、彼らのうちの大多数が、荒野を、この場での、自分たちのリーダーと目していることも、肌で感じることができた。
『……そういうの、くすぐったいんだがな……』
 とか思いつつ、荒野は、反面、かなりありがたい風潮だ……とも、思っている。
 いざという時、救援に駆けつけてくれる人数は、やはり、多ければ多いほどいいのだった。

 荒野がみた範囲では、この工場内に集まった一族の者は、何種類かに分類ができた。
 まず、戦力外の予備軍的人材が、興味本位に訪れる場合……つまり、「半端組」。
 これは、孫子とテンに接触してきた、佐藤、田中、鈴木、高橋など、素質か本人の修養が足りない、または、年端もいかないため、未だ現場に出ることが許されていない層を指す。
 基本的に一族も、そんな半端者をいつまでも相手にしていられるほどリソースに余裕があるわけではない。だから、「術者としての見込みなし」と判断された段階で、そうした半端な一般人社会へ戻されるシステムになっているので、数的には、微々たるものだった。
 孫子とテンに接触してきた四人は、まだ年齢的も若いし、完全に見限られてはいない……そういう者たちだ、と、荒野はあたりをつけている。
 次に、負傷などをして、一時的に現場から離れているものが、休養と暇つぶしがてらに、こちらの様子を見にきた……という場合、つまり「負傷休養組」。
 今工場内に集結した五十余名のうち、十名強がこれにあたる。彼らは、松葉杖や三角巾を使用している場合が多いので、見分けがつきすかった。
 この層は、負傷をしているわけだから、戦力としてはまるで当てにできないし、傷が癒えれば現場に戻って行く。つまり、入れ替わりが激しい。
 しかし、意見を聞くためのオブバーザーとしては有用な存在になるのではないか……と、荒野は判断し、ゆえに、粗略に扱うことはしなかった。
 さらに、静流や仁木田など、特殊な事情を抱えた者が、ものは試しと移住を思い立つ場合……つまり、「わけあり組」。
 静流は、六主家本流の生まれであり、十分な素質も持ちながらも、その障害故に、存在自体がかなり「特殊」だし、仁木田たち六人は、特殊すぎる体質や技、あるいは、一族の非主流派出身のマイノリティである。
 それぞれ、理由は異るが、仕事を割り振られる機会がかなり限定されている……という事情は、共通している。
 長すぎる待機時間を、できるだけ安心できる環境で過ごしたい、と思うのは、実に自然な心理だと荒野も思った。
 この「理由あり組」は、数の上では少ないが、戦力としては当てにはできる……と、荒野は考えている。
 この土地でうまくやろう……という思惑が荒野と共通していて、士気も高い……という理由も今更だが、それに加えて、実力も十分に持ち合わせている例が多いのが、この「理由あり組」の特徴だった。
 ただ、それぞれに癖のある人達だから、いざ使うとなると、それなりに使い所が難しい……という面も、あったのだが……。
 そうした分類に当てはまらないのが、「とりあえず、様子見」組。
 仕事の合間とかに、気まぐれに立ちよって様子を見にくるやじ馬連中で、これが、人数の上では大多数を占める。
 こうした連中は数が多いだけで、邪魔にもならないかわりに戦力としても当てにできない。
 荒野にとっても、一番どうでもいい層だが、だからといって悪い印象を与えても、荒野にとっていいことがあわけでもない。
 だから、荒野は、一見してそうと分かる者に対しても、特に態度を変えなかった。
 当たり障りのなく、愛想よく人と付き合う、というのは、普段からそうした態度を心掛けている荒野にとっては、特に苦にならない擬態なのである。
 おそらく、荒野と対応した大多数の術者も、荒野のそれが「営業用」の態度であると弁えていたはずだが、だからといってそれが問題視されることもなかった。

 一通り、主だったグループに顔通しを終えると、荒野は、どこからか香ばしい匂いが漂っていることに気づいた。
「……鉄板焼き?」
「あつ。ども」
 荒野が初めて見る……ということは、一族の、若い男が顔を上げて荒野に頭を下げた。
「……ちょうどいい鉄板が転がっていたから、洗って使わせて貰ってます……」
 男は、両手で専用のコテを使い、焼きそばとキャベツを混ぜている所だった。
「それ……焼きそばっていうやつ?」
 荒野が尋ねる。
 食生活のメインが自炊である荒野は、名前と存在は知っているが、実際には食べたことがない、という料理が、実は、かなりある。
 その大半は、軽食とかジャンク・フードの類いなのだが……。
「……加納様。
 焼きそば、食べたことないんですか?」
 酒見姉妹のうち、ジャージ姿の方が、荒野に尋ねる。
「うん。
 おれ、海外が長かったから……」
 頷いて、荒野は、その酒見の片割れに問い返した。
「その……焼きそば、っていうの……うまいの?」
 酒見姉妹は、顔を見合わせる。
「……決して、うまいわけでは……。
 たいていは、油とかソース、ギタギタだし……」
「でも、縁日とか浜茶屋のは、雰囲気でおいしく感じる時もあります……。
 そう……味よりも、雰囲気でおいしく感じるものですね……」
「……なるほど……」
 荒野は真面目な顔をして、頷いた。
「そういう、ものなのか……」
 荒野があまりにも真面目くさってそういうので、酒見姉妹は再び顔を見合わせる。
 相手が荒野でなければ、吹き出していたかもしれない。

 結局、試しに全員で食べてみよう、ということになった。
「……まずい、っていうわけじゃないけど……とりたてて、おしいものでもないなぁ……」
 というのが、荒野の感想だった。




[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのじゅうさん]
WEB ADLUT SAERCH ラグさ~ちすてーしょん X-area18 官能小説検索サイト アダルトサイト お勧めサーチ 読み物交差点 エロブログタイプ アダルト専門 アダルトサーチジャパン アダルト検索NaviNavi ALL-NAVI

Comments

こんなのは?

できれば、体育祭や学園祭や祭りなどの脱線したお話も観てみたいな ソンでもって、荒神さんが屋台やってるところ見てみたいです。すみません、構成に口出ししてm(__)m

  • 2006/11/11(Sat) 23:23 
  • URL 
  • 倉敷 文人 #NkOZRVVI
  • [edit]

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ