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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(126)

第六章 「血と技」(126)

「……はぁーい……」
 不意に耳元で囁かれても、荒野はさして驚かなかった。
 気配を消して後ろに立ち、いきなり声をかけて驚かせる、というのは、子供の頃からシルヴィの常套手段であり、荒野にとっては手垢にまみれたやり口でもある。
「……あ、姉崎!」
「……なんでここに!」
 しかし、荒野と同行していた酒見姉妹は、大仰に驚いていた。
「あら……随分ないわれよう……」
 シルヴィは双子を値踏みする目で見据える。
「コウ……なに、この貧相な小娘たち……。
 コウの新しい愛人?」
「……んなわけねーだろ……」
 荒野は、げんなりとした口調で答える。
「酒見純と酒見粋。見た通り、姉妹だ。
 しばらく、下校時限定で茅のボディーガードを頼むことにした……」
「……Oh!」
 シルヴィは、芝居がかった動作で拍手をうつ。
「It's……Sakami Twins!
 Bloody-sistersネ!
 あの、目的のためには悪い方の手段をあえて選ぶ、一族のハナツマミ!」
 明らかに、酒見姉妹を挑発していた。
 しかし、酒見姉妹の方は、俯いて体をぶるぶると小刻みに震わせはするものの、何もいわない。
 先ほどの楓とのやり取りで使い慣れた獲物を破砕された、ということもあるのだろうが、姉妹にとっては未知の人物であるシルヴィの実力を考慮して、あえて耐え忍んでいるのだろう……と、荒野は思った。
 酒見姉妹は、むやみやたらに誰にでも乱暴を働くわけではなく、特に相手が一族の者ならなおのこと、慎重にその実力を見極めようとする計算高い一面もある。
 荒野の知り合いらしい……ということを除いても、姉崎がこの土地に送り込んできたほどの人物なら……姉妹が簡単にあしらえるほどの小者である確率は、極めて低いのであった。
「……こっちは、シルヴィ・姉崎……。
 おれがガキの頃お世話になっていた家で、姉代わりをしていた人でもある……」
 荒野は、俄かに緊迫してきた空気を和らげるため、あえてのんびりとした声をだして姉妹にシルヴィを紹介した。
「例によってあっちこっち嗅ぎまわっているから、どこでばったりと出くわしてもおかしくないけど、お互いに仲良くしてやってくれ……」
 荒野は、「仲良く」という単語を、ことさらに力を込めて発音した。
「……コウ……」
 荒野の言葉が終わるか終わらないかのうちに、シルヴィは後ろから荒野の首に抱きつく。
「……今度の週末の、約束の確認なんだけどぉ……」
 荒野の首と頭に腕を廻して、耳元に囁く。
 茅は、少なくとも表面上は、平然としていたが、酒見姉妹の顔は目に見えてこわばっていた。
『……ヴィ……あんまり、刺激するなよ……』
 荒野が密着しているシルヴィにしか聞こえないような小声で、注意を与える。
『あら……この程度、いつものスキンシップじゃない……』
 シルヴィも、小声で荒野に返答し、その後、大きな声で、ゆっくりと、
「……今度の週末、ヴィの所に泊まりにくるって約束のことだけど……」
 などといいだした。
 じわり、と荒野の掌に汗が滲む。
 酒見姉妹ではなく……標的は、こっちか……と、荒野は思った。
 荒野は動揺を隠すために、心中でゆっくりと数を数えはじめた。
 ……一、二、三……と三つ数えてから、
「……たまにはいいよな、昔の話しをするのも……」
 と、返す。
「子供の頃といえば、おれ、ヴィには、かなり手ひどくやられた記憶しかないけど……そういうのも、今となっては、いい思い出だ……。
 そういうのを一晩語り明かすのも、いいよね……」
 自分でしゃべっていて、いかにも説明的だなぁ……と、荒野は思った。
 荒野とシルヴィがそんなやり取りをしているちに、酒見姉妹は二人でこそこそと内緒話をしていた。パツキン、外人、ナイスバディ、などの単語が漏れ聞こえてきたので、どういうことを話しているのか容易に想像がついた。
 姉妹の想像力について特に幻想を持っていなかった荒野は、それゆえに幻滅することもなかったが……。
「……で、予定の確認、だったよね……。
 金曜日の夜……が、いいかな……」
 荒野はじりじりと追い詰められている気分になりながら、茅に話題を振る。
 別に茅は荒野の秘書でもなんでもないのだが、茅の表情はきわめて読みにくい。だから、言葉をかけてしゃべらせてみないと、実際問題として、現在、どういった感情を抱いているのか推し量ることが難しかった。
「……金曜で、いいと思うの……」
 茅の声は、一応、平坦なものだった。
 少なくとも、感情の高ぶりやブレなどは観測できない。
「でも……なるべく、遅くに……。
 まだ当分……どんなお客さんが来るのか、油断できないから……」
 放課後の時間も、なるべく空けておく方がいい……という意味のことを、茅はいった。
「……All right……understand……」
 シルヴィも、茅の言葉に、頷く。
「カヤ……本当に、いいのネ?」
 続けて……シルヴィが、茅に尋ねた。
 結局……直接、茅の言質を取って置きたかったのだろう……と、荒野は推測する。
「構わないの」
 茅は即答した。
「姉と弟が、会って昔話をする……。
 ただそれだけの、ことなの」
「……Yes……。
 姉崎は、Famliyを大切にする……例えそれが、義理の、仮初のものであっても……。
 カヤも、もう、ヴィのFamliyね……」
「違うの」
 茅は、これも即座に否定した。
「シルヴィと荒野は兄弟でも、茅と荒野は、違うの……。
 だから、茅とシルヴィも、姉妹ではないの……。
 茅は……シルヴィや荒野よりも……この場にいる誰よりも……もっともっと、孤立した存在なの……」






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