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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(127)

第六章 「血と技」(127)

「茅は……みんなとは、違うの……」
 周囲はそれなりにざわめいていたのだが……茅のその声は、荒野には、はっきりと聞こえた。
「……カヤ……」
 シルヴィは、ゆっくりと首を振る。
「あなたぐらいの年齢の時は……誰でも……多かれ少なかれ、みんな、そう思うものだよ……」
 つい先ほどまでの片言ジャパニーズではなく、しっかりとした発音だった。
 そのせいか、男性的な雰囲気を発散させている。
「そういうのとは、違うの……」
 茅は、射すくめるような強い目線で、シルヴィの目をまともに見返す。
「茅は……一般人とも、一族とも……違うの」
 茅のほうも、凛とした口調だった。
 シルヴィが示唆したように、過剰な自己憐憫に浸っているわけではなく……事実を事実として告げている、淡々とした口調だ。
「……OK……」
 シルヴィは、肩をすくめた。
「そういうことに、しておこう。
 では、どこがどういう風に違うのか……具体的に、説明してもらえるかな?
 そのつもりで……そんなことをいいだしたんだろう?」
 茅は、無言で頷く。

 一方、荒野は、ある種のショックを受けながら、このやり取りをみていた。
 シルヴィの態度がいきなり男性的になったことに、ではない。むしろ、このシルヴィの方が、以前、荒野が知っていたシルヴィに近い。荒野と兄弟をやっていた子供の頃のシルヴィは、頭の回転が速く決断力もあり、「非ガキ大将タイプ」の、近所の子供のまとめ役だった。
 再開してからのシルヴィは、過剰なまでに「ガイジンらしさ」と「女らしさ」を演出し、外部に印象付けていたようだが……姉崎の一員としてここに来た以上、それなりの擬態はしているだろう思い、荒野はその変化について問いただすこともしていない。
 荒野がショックだったの、シルヴィの変化にではなく……茅が、荒野にではなく、シルヴィにそうしたことを話しだした……という事実について、だ。

「……まず、各種の検査ですでに判明していることからいうと……」
 荒野の動揺に構わず、茅は話しを進めている。
「茅も、他の三人も……五感については、概ね鋭敏だったの……。
 視覚も聴覚も……常人の平均的に知覚できる帯域よりも、かなり大きくはみ出した波まで、拾える。
 嗅覚や味覚については……化学的な感覚については、定量的客観的に検査する方法がないのではっきりとは断言できないけど……そうした味や匂いについても、普通よりもずっときめ細かい部分まで、判別できることができる……」
「……あの三人の中に、ひどく鼻が効くのがいるでしょ?」
 そういって、シルヴィは、茅の言葉に頷く。
「……それは、ガク。
 感覚器の鋭敏さにも、各人の個体差が大きいけど……それでも、わたしたちが感じている世界は……みんなが感じている世界とは、違うの」
 茅は、丁寧に説明する。
「そこまでは、了解した」
 シルヴィが片手をあげる。
「だけど……その程度の個人差なら、一族にも、ざらにある。
 野呂に、時折、目や耳、鼻が、極端に効く者が生まれるのは周知の事実だし……」
「……それだけでは、ないの」
 茅は、シルヴィの言葉をさえぎるようにして、先を続ける。
「茅は……わたしたちは、佐久間の頭脳も、受け継いでいる。
 これも、受容の仕方にかなり個人差があるようだけど……鋭敏な感覚器から刻々ともたらされる膨大な情報と、それを四六時中処理する……できる、頭脳の組み合わせは……」
 結果として、通常の人間が知覚するものとは、まったく違った世界を見せるの……と、茅は告げた。
「……茅が、いくら荒野と一緒にいても……。
 茅と荒野が見ている世界、感じている世界は……まるで、違うの」

 その後、茅が説明したことをまとめると、次のようになる。
 最初に違和感を感じたのは、写真やテレビ、それにCDなどのメディアに一度記録させたものが、茅が見たり聞いたりしたものを、忠実に再現していないことだった。
 はじめのうちは、茅も、そうした用途に使う機械が、技術的に未発達なせいで正確に再現できないのだ、と思い込んでいたのだが……。
 この土地に来て、多くの人間と会いたくさんのその手の機械に触れた後では……茅も、自分以外の大半の人間は、その程度の「大雑把な記録」でも、十分に「リアル」に感じられるらしい、と、気づかないわけにはいかなかった。
 茅のその推測を裏付けたのは、何度か行われた、涼治が用意した「検査」だった。自分が何者であるのか……ということに興味を持っていた茅は、自分の検査データを……三人が合流して来てからは、その分も合わせてコピーしてもらい、自分自身で分析してみた。
 結果は……やはり、自分たちは、他の人間より、かなり緻密に外界を捉えている……という推測を、裏付けるものだった。
 茅の感覚器は、他の人間よりも高精度に、外界の情報を感知している……という事実には、荒野も気づいていたが……。
「……それで……何が問題に、なるんだ……」
 この話題になってから、荒野がはじめて口を挟んだ。
「だって、その……仮にそうだとしても……茅は、茅だろう?」
 荒野は……なんだか、今までに築いてきた茅との関係が、揺らぎはじめたような錯覚に囚われはじめている。
「茅は、茅なの」
 茅はそういって、荒野に向かって頷いてみせた。
「茅は、荒野ではない。
 一般人でもない。一族でもない……」
 茅は……誰とも違うの……と、茅は呟く。
 その表情が……いつもにもまして、読めなかった。
「同じ場所にいて、一緒に住んでいても……茅と荒野とでは、別の世界に住んでいるの」
 荒野は、茅がいうことを……懸命に想像し、理解しようとする。
「……茅……」
 荒野は、うめくようにいった。
「ヴィとのことを承知したのは……おれを、自分から離すためか?」
「それも、あるの」
 茅は、あっさりと頷いた。
「今の時点でも……茅は、みんなと……荒野とも、違うの。
 それに……この先も、まだまだずっと異質なものに変化していく可能性があるの。
 何とか、互いに理解できる範囲内の異質さに留まっているうちは、いいけど……茅の変化がどこまで進むのか、今の時点では、あまり正確な予測は不可能。 だから……茅が、今の茅でなくなった時のために……荒野には、あまり、茅ばかりを見て欲しくないの……」
「……あー……カヤ……」
 シルヴィが微笑みながら、茅に話しかける。
 一見、和やかなシルヴィの微笑をみて……荒野の背筋が、凍った。
 あの微笑みは……ヴィが、本気で怒っている時の……。
「……ふざけるな!」
 荒野の懸念通り、シルヴィは素早く茅の胸倉を掴んで、自分の目の高さにまで吊り上げた。
「……コウが……。
 その程度のことを気にする男だと、本気で思っているのか!」




[つづき]
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