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彼女はくノ一! 第五話 (213)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(213)

「……おー……」
 三島は、あの状態でも一応、孫子のことを思いやることができた香也に、感嘆の声をあげている。
「あそこで、遠慮するとは……とことん鈍いのか、無欲なのか……。
 どちらにせよ、思ったよりも面白い男だな、あの糸目……」
「……あ……。
 ははっ。ははは、はぁ……」
 以前、香也に同じようなことを言われたことがある羽生は、力なく笑ってごまかす。
「……こーちゃんは、その……優しい子だから……」
「優しさとか決断力のなさがかえって他人を傷つけることもあるんだがな……。
 お。
 才賀、泣いた。
 あれも、計算高いようでいて、自分の感情をコントロールしきれていないところがあるから……」
「……先生……本当、楽しそうですね……」
「当然だろ。目の前でこんなエロコメ実演されてみろ、面白くってしょうがないじゃないか……」
 三島は羽生に向かって、にしし、と笑って見せた。

 外野二人がそんなやり取りをする間にも香也の抜き差しならない状態は依然、改善されていない。というか、見事に悪化している。
 (裸の)孫子が泣きながら(裸の)香也の腰に抱きついたのと前後して、それまでいった後の余韻に浸っていた(裸の)楓も起きだして(裸の)香也に抱きつく。
 (裸の)孫子と(裸の)楓に抱きつかれた(裸の)香也は体勢を崩して尻餅をつき、その上に(裸の)孫子と(裸の)楓が乗りかかり、接吻の雨を降らせる。
 (裸の)孫子は素早く先ほど三島が放ってよこした避妊具の封を切り、素早く(裸の)香也の男根にかぶさる。
 (裸の)香也の上に馬乗りになった(裸の)孫子は、避妊具をあてた香也の肉棒を自分の入り口にあてがい、「いいですわね」と一言確認しただけで、香也の返答も待たずに、ゆっくりと腰を沈めはじめた。孫子とて、本心ではこんな強引な関係の持ち方はしたくないのだが、楓が復活したとあっては、否も応もない。香也の下半身の反応は相変わらずであり、孫子が愚図愚図していたとしたら、二回目以降も楓がはじめてしまう。孫子としては、それだけは避けたかった。
 正直、手で持った香也のそこの部分は香也の一部ではないみたいに硬く、異物、という感じがして、その感触が孫子には、あまり好きにはなれなかった。それに、大きさも、大きすぎるように感じる。前の時は無我夢中になって、さんざん、恥ずかしいことをいいながら、コレに中を引っ掻き回されていたわけだ……そもそも、前回は、孫子自身も、シルヴィから貰った薬を少なからず服用しており、強制的に欲情のスイッチが入った状態にあったのだ。現在も興奮してはいるのだが、以前の時とは違い、純粋に自然な高揚であり、従って、羞恥心や恐怖心を無条件に排斥するほどに欲情しているわけではない。
 多少、自分で周辺知識を仕入れたとはいっても、孫子は、まだまだ性体験が乏しく、このような際の心構えを自然に行えるような人格でもなかった。また、自分から香也の上にまたがっている、という羞恥心や慣れていない性行為に対する不安などよりも、楓に香也を取られることへの不安の方が、孫子にとっては大きい。
 いきりたった香也の先端を自分の要り口にあてた孫子は、不安半分期待半分で、ゆっくりと腰を沈めていく。
「……んっ……」
 孫子は、軽く呻きながら、自分の体を割って中に進入してくる異物の上に体重をかける。孫子のその部分は十分に濡れているのだが、経験が乏しい孫子のそこの肉はまだ硬く、力を抜くと進入を拒むような抵抗が発生している。
「……はっ……」
 それでも、孫子は、腰を沈め続ける。
 孫子自身が分泌した愛液にまみれた香也の肉が、孫子の硬い肉を割って進入してくる。異物感はあるが、快楽は、ない。自分の体に異物が進入してくる感触に戸惑いながら、孫子はさらに「香也」を感じるために、腰を沈める。
 孫子を割って、香也が孫子の中心に入ってくる……感触。
「……はぁ……あっ……」
 香也を完全に飲み込むと、孫子は、長く息を吐いた。
 異物感は相変わらずあるが……自分の奥底まで届いた、という満足感の方が、多い。快楽は、あまり感じない。が……一番奥の部分が、ぼうっ、と熱を持ってくるような感触が、あった。
 全部を挿入しただけで、満足感と安心感があって、力を抜くと、そのまま香也の体の上に倒れこみそうになる。香也の肩の上に手を置いてそれを防ぐと、ちょうど下に寝そべっている香也と、目が合った。
「……あ……あの……」
 急に気恥ずかしさを感じてきた孫子は、口ごもりながら香也にいう。
「その……キスしても……いいですか?」
 今ままであーんなことやこーんなことをしておいて、なおかつ、現在進行形で交合しているというのに、もじもじしながら今更そんなことを聞くというのもなんだが、香也もひじょーに照れくさそうな顔をして、かすかに頷く。
「……では……失礼して……」
 孫子が体を倒して、香也に顔を近づける。
 孫子も香也も顔を赤くして、自分の動悸音がやかましく聞こえるくらい、興奮している。
 お互いの顔がどアップになり、今にも口唇が接触する……というその時。
「……駄目です……」
 楓が、掌を二人の顔の間に差し込み、邪魔をした。
「仲間はずれは……いやです……」
 そういう楓の表情は、意外なほど真剣だった。
 楓は香也に添い寝するような恰好で孫子の額に手を当て、ぐりぐりと力任せに孫子の顔と香也の顔を開いていく。
「香也様は……才賀さんには……」
「だ、だからといって……」
 孫子も、行きがかり上、楓の腕の力に対抗して、体を倒そうと腹筋に力を込める。
「はい、そうですかと……承知できるもんですか……」
 力比べ、のような按配になった。
 二人の力が拮抗し、楓の腕と孫子の上体が、ぶるぶると震えはじめ、二人の肌の表面に、汗が滲みはじめた。

『……なんで、こうなる……』
 その時、恒例のごとくはじまった二人の諍いに取り直した形の香也は、一人でぽつねんとそんなことを考えていた。
『……この二人……こうして張り合っている時の方が……』
 自分といるときよりも、楽しそうだな……と。




[つづき]
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