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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(130)

第六章 「血と技」(130)

「……加納様……。
 今日は、ケーキの方は……」
「……さもしいこと、言わない!」
 内容のある話し合いは一段落した、と判断したのか、ジャージ姿の酒見がいいかけて、制服姿の酒見がその後頭部をはたく。
「悪いが……今日は、ケーキの用意はない。
 今度来る時は……いや、それよりも、お前らをマスターに紹介して、売り子でもやってもらった方がいいか……」
 苦笑いをしながら荒野がいいかけ、そして不意に思案顔になった。
「……マスターって……マンドゴドラのですか?」
 ジャージ姿の方がテーブルの上に身を乗り出し、勢い込んで荒野に尋ねる。
「ああ……その、マンドゴドラの、なんだが……」
 こいつらも……顔が知られたほうが、この周囲で悪さがしやすいだろうし……売り上げに貢献することを、マスターが喜ばない筈はない……。
 いや……場合によっては、才賀が立ちあげるとかいう会社を介して派遣、という形にした方が、いいかも……。とか、そんなことをつらつら考えながら、荒野は、
「ちょっと確かめてみないことにはわからないけど……」
 と前置きした上で、
「マンドゴドラで働けるように、口を利いてやってもいい」
 と双子に告げた。
「お前ら、ここに来たということは、それなりに蓄えもあるだろうし……。
 現金ではなく、ケーキの現物支給でよければ……マスターも、否とは言わないと思う……」
 荒野の言葉を聞くと、酒見姉妹は手を取り合って、「キャッー!」っと歓声をあげた。

 肝心の茅がシルヴィの薬で眠らされたこともあり、その後、特に内容のある会話は成立せずに解散、ということになった。全員しばらくこの土地に逗留することは確かであり、明日以降も簡単な打ち合わせをして日時を指定すればいつでも集合できる。
 三人を玄関先で送り出した後、荒野は、ベッドに寝ている茅を制服からパジャマに着替えさせ、シャワーを浴び、茅の隣に潜り込む。
 今日は……今日も、いろいろなことがあったな、と思いながら、目を閉じた。

「……むぅ……」
 翌朝、荒野は窒息しかけて目を醒ました。
 何事かと思えば、不満顔の茅が荒野の鼻を指で摘んで鼻腔を塞いでいる。それで、息苦しくなって目を醒ましたのだった。
 跳ね起きて時計を見ると、いつも起きる時刻よりも、一時間以上も早い。
「……どうしたんだ、茅……こんな時間に……」
 荒野は、明らかに不機嫌な顔をしている茅に、尋ねる。
「昨日……シルヴィに、細工されたの……」
 どうやら茅は、薬をかがされて無理に眠らされたことが気に食わないようだった。
「……しょうがないだろ、それぐらい……。
 茅、珍しく取り乱していたし……」
 荒野としては、そう答えるより他、ない。
「で……そのヴィが、今度、茅と二人っきりで、じっくりといろいろなことを話したい、とかいってたぞ……」
 子供時代の荒野を知るシルヴィと、現在、生活を共にしている茅との関係が深まるのは、荒野にとっていいことばかりとは思えないのだが……だからといって、シルヴィからの伝言を故意に伏せて置くのも、意味がない。
「シルヴィもお前のことを心配しているし……おれも、心配している。
 どうして、その……不安のことを、おれに言わなかったんだ?
 茅……」
 真剣な口調になって、荒野は聞いた。
「……怖かったの」
 茅は、荒野から目をそらして俯き、数十秒沈黙した後、ようやくそう答える。
「自分が……どんどん、変わっていくのが……」
「馬鹿……。
 茅は、馬鹿だ……」
 荒野は、静かにいった。
「茅がこの先どうなろうと……おれが、茅のことを簡単に嫌いになるわけ、ないじゃないか……」
「それは……わかっているけど……。
 でも! それでも……怖いの……」
 茅の声は、震えている。
「あのな……茅は、もう一人ではない……」
 荒野は、そういって茅の頭に掌を乗せる。
「おれや楓たちもいるし……それに、茅がそんなに怖がったら……後に続くテンやガク、ノリは、どうする……」
 荒野がそう指摘すると、茅ははっと顔をあげる。
 茅の生誕時期と三人のそれとでは、推定で、一年前後……あるいは、それ以上の差がある。茅が経験することは、三人も経験する可能性が高い、ということで……。
「茅は……もう、お姉さんなんだ。
 三人に笑われないように、しっかりしないとな……」
 荒野は、そのようないい方をした。茅の理解力や推論能力を考えると、その程度のことを伝えれば、十分に通じる……と、荒野は判断した。
「茅……お姉さん……」
 茅は、珍しいことに、不意をつかれた顔をする。
「そうだ。
 あの三人のことだけではないぞ。
 その……茅や、あの三人が子供を生んだとして……。その子供たちにも、茅たちの体質は、それなりに受け継がれる訳だから……」
「……怖がってばかりは、いられない……」
 茅が、荒野の言葉を引き告ぐ。
「……そうだ。
 茅たちは、望んでそうなったわけではないだろうが……先駆者、なんだ。
 後に続く者たちのためにも、しっかりとしないといけない……」
 荒野が頷く。
「……茅の……子供たち……」
 茅が、遠くを見る顔になった。
「……わかったの。
 茅……自分に起こった……これから、起こる変化を……克明に記録していくの……」
 茅、記憶力はいい方だから……と、茅は、笑った。




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Comments

毎日ケーキ・・・

太る・・・いや、太らないか。
山刀振り回すだけの筋力あるなら、ケーキのカロリーぐらい基礎代謝でカバーできそうだ。

・・・いいなぁ。

  • 2006/11/17(Fri) 00:14 
  • URL 
  • にゃん #P0vgGwAM
  • [edit]

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