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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(132)

第六章 「血と技」(132)

 結局、テンとガクが合流してきたのは、河川敷に出てからだった。昨日と同じ服を着ていたから、外泊していたことは確かなのだが、予定通り玉木の家に泊まっていたら、商店街の周辺で合流してくる筈であり……。
「……お前ら、ゆうべはどこに泊まったんだ?」
 不審に思った荒野が、尋ねる。
「それが、あのまま工場で盛りあがちゃってさぁ……」
「にゅうたんや先生がいった通り、ピンクレディーって受けがいね。ストリップは途中で止められたけど……」
 テンとガクが順番に答えた。
 ……どうやら、あのまま一晩宴会を続けていたらしい……。
「……学校の連中は、無理に引き留めなかったろうな……」
「……うん。
 それは大丈夫。お酒飲んでいない人が、サングラスのおねーさんと一緒に、早めに送っていった……」
 これは、ガク。
「徳川は、何もいわなかったのか?」
「少し呆れ気味だったけど、別にいやがってはいなかったな……。
 はやり早め時間に、事務所の方に引っ込んでったけど……今朝も顔を出した時、徹夜で仕事をするのはいつものことなのだ、とかいってたし……」
 テンが、そう答えた。
 一応、徳川の意向も気にしてはいたらしい。
 それならば、まあ……さして、迷惑はかけていないのだろう……と、荒野は無理に思うことにした。
 テンは、顔色が少し悪い程度で、外見上は普段とあまり変わりがないが、ガクの方は、実に眠そうな顔をしていた。
「……お前ら……徹夜は慣れているのか?」
 重ねて、荒野が尋ねる。
「ぜんぜん」
 テンが首を振る。
「一晩中起きてたのなんて、はじめてだよ……」
 その横では、ガクが目を閉じてゆらゆらと揺れている。
「その……ようだな……」
 荒野は少し考えて、二人に「今日は組み手はやらないように」と伝えた。
「お前らのパワーとスピードだと、ちょいとした不注意でこけても大怪我になるからな……」
 そう、理由を伝えると、テンは素直に、「……そうだね」と、頷いた。それから、立ったまま半ば寝入りはじめているガクを肘でつつき、「今日は危ないから見学しとけって」と耳打ちする。
「……んー……。
 わかった……」
 ガクは目を閉じたまま頷いて、その場にどっかり腰を降ろした。
「……この場で、休んでるぅ……」
「……ガクが本格的に寝入ったら、テンがかついで行けよ……」
 荒野はそういい捨てて、残りの連中に向き直る。
「……っと、そうだな……楓!」
 荒野は、孫子と組み手をしていた楓を手招きした。
 昨夜の別れ方もあるし、一度きちんと話しをしておく必要を感じた。
 近づいてきた楓に、まずは、昨日、うやむやのうちに中断していた話し、「茅の護衛を、しばらく酒見姉妹と分担してやってくれ」と切り出す。それからすぐに、「これは、楓の負担を少なくするための処置である」という事も、しっかりと伝える。
 茅やテンとガクに体術を仕込むこと、などの例をあげ、
「……なんだかんだと、お前の仕事、増えて来ているし……」
 という理由をあげ、そのためにも、楓の余裕がある時間を、多くしておきたい……と、荒野は説明した。
「……お前だって、放課後に遊ぶ友達の一人や二人、できている頃だろう……」
 とも、付け加えた。
 荒野が知るかぎり、放置しておくと孤立しがちな孫子とは違い、人当たりのいい楓は、もうかなりの友人ができている……ということだった。
「……ええ、まあ……」
 楓は、あいまいに頷く。
 その表情をみて、荒野は、
『……楓の好きにさせておいたら……友人と遊ぶ、どころではなく、時間が許す限り香也に付きまとうのではないか……』
 と、予感した。
 それで、荒野は、
「……これは、加納としてではなく、友人としていうんだが……」
 と前置きして、こうも付け加える。
「……まあ……香也君もいいけどな……。
 楓、お前……もう少し、自分のことを考えた方が、いいと思うぞ……」
 香也がこれから誰と付き合うのか、あるいは、誰とも付き合うつもりはないのか……という進展には、荒野はあまり興味がない。他人の色恋沙汰がどうこう、という部分に、荒野はあまり興味を持てないのだ。
 ただ……。
「……例えば、昨日の件でも、な……。
 楓。
 お前、体術だけをみてみれば、術者として一流……もう少し、経験を積めば、超一流に届く腕を持ちながら……それを、全然実感できてないだろ?」
 荒野が尋ねると、楓は即座に首を縦に振った。
 ただ……楓の、厭味なまでの自信のなさ……。
 これだけは、そろそろどうにか矯正しておかないと、行き先が不安でもある。
 何だかんだいって、こちらがあ使える戦力の中で、楓は、荒野に次ぐ存在なのだ。その第二位が、いつまでも病的な不安を抱えている、という状態は……荒野にしてみれば、非常に心もとない。
「……荒神の……最強に見込まれた弟子なんだぞ、お前は……」
 荒野は、ため息をつく。
「……それは、わかっていますけど……」
 実際に対峙してみれば、相手と自分の実力差は、身のこなしなどから自然と悟れる。
 だから、楓とて、理性では、自分が無力な存在だとは、思っていない。
 だが……その理性的な判断をぐらつかせるほどの大きな不安を、楓は抱えている……。
 いつか、誰にも必要とされなくなるのではないか……という妄想を、後生大事に抱え、脅えている……。
 荒野は、ひそかにため息をついた。
『これは……もはや、カウンセラーの領分だよな……』
 実際の話し……楓ほど、他人に好印象を残す人間も珍しいのだが……。
『……それでも……本人は……』
 あまり納得してはいないようだ……と、荒野は、これまでの楓の挙動と今の会話を思い返して、そう、判断する。
 昨夜、茅に説明されて、それまで漠然と不審に思っていた部分に、ぴったりと嵌まる形状を与えられた……という感じなのだが……。
『……茅は、白紙に近い状態でここに来たけど……』
 楓は……マイナスだ、と本人が思い込んでいる地点から出発して……そこから、人一倍努力して、現在の能力を獲得するにいたった。
 昨夜、荒野は、柏あんなに「数十年の逸材」と楓の評価を伝えたが……そう評価されるまでに、楓は……徹底的に自分を痛め付け、潜在的な能力をすべて引き出せるように、それこそ、血の滲むような努力をしてきたのだろう。
 それは、楓の、ほとんど強迫観念に近い情熱が発露した結果であって……。
『……難しいよな……』
 楓が現在の「楓」になるまでの過程を想像して、荒野は心中でそっとため息をつく。
 この時の荒野の想像は、昨夜、狩野家の居間で羽生相手に三島がいった、「涙ぐましいまでの努力をして、いい子でいようとする」という楓への評言と一致する。もちろん、その場にいなかった荒野は三島がそんなことをいった、などということは知る由もなかったわけだが……。
『……後で先生にでも、相談してみるか……』
 その場では、荒野はそう結論を下した。
 正直……この手の問題は、自分には、荷が勝ちすぎる……と、荒野は思った。
 昨夜、狩野家でなにがあり、楓をどう説得しなだめたのか、荒野は知らなかったが……そのお陰かどうか、今、目の前にいる楓は、以前と同じように落ち着いているように見える。
 楓が抱える不安、という根本的な問題は解決していないので、また何かの拍子に昨夜と同じような錯乱状態に陥るのかもしれないが……そっちは、様子をみながら長期的に対策を講じて行くよりほか、方法がなさそうだった。
「……後、だな……」
 そう結論した荒野は、話題を変えた。
「茅を鍛える、という件な……お前が直接見る前に、何日か、酒見姉妹に見てもらおうとと思うんだが……。
 茅は、基礎の基礎も知らない状態だし、最初の身体の作り方、お前が教えてもあの双子が教えても、たいして変わらないだろうし……」




[つづき]
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