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彼女はくノ一! 第五話 (216)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(216)

「……んっ……ふっふっふぅ……」
 孫子と一緒にすっかり香也の分身を舌で清め終えた楓は、いつもとは違う淫蕩な笑みを浮かべて香也を見上げた。
「元気……ですねえ……。
 これならすぐにでも、続けられますねぇ……」
 そういって、唾液でぬるぬるになった香也の肉棒を軽く掴んでしごきあげる。
「……ほい、楓……」
 タイミングをみはからった三島が、新しい避妊具の包みを投げる。
 それを受け取った楓は、手早く封を切り、香也にかぶせた。
「……さっき……才賀さんとしてた時……んんっ!」
 楓は、香也の物を掴んで自分の中に導きながら、その上にまたがる。香也の先が自分の中に沈んでいくと、軽く呻き声をあげた。
「すっごく……ふっ。
 悔しかったんですから……んっ……」
 腰をしっかりと沈めて香也を完全に呑み込んだ楓は、そのまま上体を倒して香也に抱きついた。
「……才賀さんに負けないくらい……いっぱい、愛してください……」
 楓はそういってから長々と香也と口唇を重ね合わせ、香也の首に両腕をまわす。香也の胴体とぴったりと密着しながら、楓は、小刻みに体を揺すりはじめる。腰だけを激しく動かして無理に快楽を引き出す、というよりも、もっと自然な動きで、体全体を香也に擦り付けているような動きだった。楓に抱きつかれている方の香也も、自然に自分で体を揺すりはじめている。
 静かな交合が何分も続いた後、二人の動きは徐々に激しくなり、体を全体をぴったりと貼り付けたまま横に転がって体の位置を入れ替え、香也が上になった。
 香也は、畳の上に手をついて、楓の上に覆いかぶさり、ゆっくりと自分で動き出す。香也の下になった楓は、香也の胴体に腕と足をまわしてしっかりと体を密着させる。
 ふっ。ふっ。ふっ。
 と息を吐きながら、自分の呼吸に合わせるように体を前後上下に揺さぶる香也。その香也の動きに、徐々に満たされていくのか、次第に呼吸が荒くなっていく楓。
 派手な動きや嬌声こそないものの、時間をかけてゆっくりと二人が快楽を編み上げていくのが、傍目にも感じ取れた。

「……おっ……」
「傍目」の一人、三島が軽く感嘆の声を漏らす。
「ここに来て……オーソドックスなファックになるか……」
「……オーソドックス、って……」
 羽生が、苦笑いをしながら、三島に答える。
「でも、あれは……なんか……」
 気持ちよさそうだな……という言葉は、羽生は口には出さなかった。
 羽生の目には、そうして行為にいそしんでいる香也も楓も、なんか自然で……リラックスしているように、見える。
 安心して、お互いの体をまかせあっているような……。

 もともと、普段、運動らしい運動をしたことがない香也のことだから、自分から動き出しても、それほど大仰な、激しい動きにはならない。ゆるゆると体を動かす程度が関の山、なのだが、そうした静かな動きでも楓は確かに感じるところがあるらしく、香也の体にまわした腕を所在なげに動かしたり、首を左右に振って唇を硬く結んだりしはじめる。香也の背中は、徐々に汗が浮かびはじめる。
 ふっ。ふっ。ふっ。
 という香也の呼吸音だけが響く中、突然、楓が香也の下で首を仰け反らせて、
「……あっ!」
 という小さな叫びを発した。
 香也は、すかさず覆いかぶさって、楓の口唇を自分の口で塞ぐ。
 そうして楓の口を塞ぎながら、香也の動きの振幅が、少し、激しくなった。
 香也の背中にまわした腕に力を込めながら、楓は、眉間に皺を寄せ、何かに耐えるような表情をして、香也の口付けを受け止めている。
 またしばらく、そうした密着体勢のまま香也がもぞもぞと蠢き続けているうちに、またもや、楓が香也から口を離して、
「……ふぁ……」
 と、不明瞭な吐息を漏らした。
 香也の背中が、そのまま大きく波打ちはじめると、楓の不明瞭な吐息は、そのまま、
「……ふぁ……ああっ!
 あ。ああぁ……あぁぁぁっ……」
 という断続的な鳴き声に移行し、その声を聞いた香也が、全身汗だくになりながら楓の上で不器用に体をくねらせる。

 それまで受身だった香也がいきなり積極的になったのは、別にやけになったからではない。
 どうあがいても……もはや、それまでのように最小限の人間関係の中に孤立して過ごすことは、出来ない……と言うことを、骨身に染みて感じていたからだ。香也がそう望んだとしても、楓や孫子が、もうそれを許してくれない。
 それに……。
『……楓、ちゃんも……』
 香也は、徳川の工場で楓が撹乱した時のことを思い返す。
 香也自身とは現れ方が違うのだが……表層的には一見、人当たりが良い楓にしてみても、ほんの少し深層をみてみれば、様々な傷を負っている。
 今日の楓の様子を見て、香也は、そう実感した。
 孫子も、また……顔見知りの自分たちにこそ優しいが、それ以外の見知らぬ人間に対しては、実に冷淡で厳しい態度を取ることがある……という事実を、香也は知っている。
 歪んでいるのは、自分だけではない……と、香也は思うようになっている。
 対人関係、という点でいえば、自分たち三人は、それぞれに、いびつな部分を持ち合わせている……と。
 で、なければ……。
『……ぼくなんかに……』
 自嘲混じりに、ではなく、真剣に、香也はそう思う。
 そうした欠陥がなければ……自分のような者に、楓や孫子のような「良く出来た子」が、ここまで執着し、好意を抱くわけがないのだ……と。
 この時点で、香也は……楓と孫子の自分への好意を、いわば「同病相憐れむ」的な憐憫である……と、結論している。それが正しいかどうかはわからないが、香也自身は、そう信じている。
 で、あれば……。
 ……そんな三人がひっそりと寄り添いあって、何が悪い……。
 というのが、香也の心境だった。
 そして、香也が、自分と同じような孫子や楓に出来ることといえば……こうして、望まれれば体を交えることくらい……のように、思えた。
 少なくとも香也には、それ以外に二人に対してできることを、思いつかなかった。

 香也のそんな心境を知れば、楓や孫子は、まず確実に、憤るか哀しむかする筈だったが……この時点で、三人は、お互いの感情を確認していない。
 だから楓は、香也の愛情を疑わずに身を任せ、徐々に満ちてくる快楽を受け入れている。






[つづき]
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