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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(137)

第六章 「血と技」(137)

 マンションに戻ると、早速茅がメイド服に着替えてお茶の準備をはじめる。酒見姉妹、ことに妹の方がケーキを食べたがったが、「夕食前だから」という理由で荒野はそれを控えさせた。
 時刻的に、夕食にはまだ少し早く、しかし、おやつには遅すぎる微妙な時間帯である。
「……それでは!」
 と、酒見姉妹は無意味に力む。
「晩御飯の準備を、手伝いますから!」
 ……どうあっても、ケーキを口にしたいらしい。
「……いや……」
 荒野は力の篭っていない口調で、双子に告げる。
「茅はもう帰宅しているわけだから……お前ら、自分たちのケーキ持って、帰っていいよ……」
 この二人と話していると、妙に脱力することがあるのは……何故だろう?
「でも……せっかく、茅様が、お茶を入れてくれださっているのに……」
「それに……学校の話しも、もっと聞きたいです!」
 双子の口調は、それなりに熱を帯びている。
 ケーキだけが目当て、ということでもないらしい。物心ついた時から仕事一筋、という境遇は、この双子も荒野も、大して違いはないわけで……。
「……よし、分かった……」
 少し考えてから、荒野は頷いた。
「とりあえず、お茶だな……。
 お茶を飲みながら、今後のこと、学校のこと……少し、話しをしておこう……」
 そういってから、荒野はあることに気づき、二人に問いただす。
「……そういや……。
 晩飯の準備、っていっても……お前ら、料理できるのか?」
 酒見姉妹は、揃って首を横に振った。
「そんなんで……いつもは、メシ、どうしているんだ?」
 荒野は、重ねて尋ねる。
「……外食とか、コンビニとか」
「チンするだけのとか……」
「……お前ら、なあ……」
 荒野は軽くため息をついた。
「おれたち、体が資本だろう……」
 お茶をいれ終えた茅と相談し、二人に家事を手伝ってもらう代わりに、料理の初歩を教える、という取り決めを納得させる。
「……うまくいけば、これから学校を卒業するまでの三年間、お前らだけで生活するわけだから……」
 荒野はそういって双子に納得させた。
「……その程度のことは、早めに憶えて置け……」
 そういいながら荒野は、「……なんでおれがこいつらの生活能力のことまで心配しなければならないのだ……」という理不尽な想いにもかられている。
 酒見姉妹は、意外と素直に頷いた。

 その後は、単なるお茶会になった。
 というか、このメンバーだとどうしても「女の子同士の会話」になって、荒野の出番はあまりなくなってくる。
 茅が説明役で、酒見姉妹の質問に次々に答えていく、という形になった。
 酒見姉妹が学校生活……というより、自分たちと同じ年頃の一般人の生活全般に興味を抱いているのは本当のことのようで、二人は、茅の説明を真剣な表情で聞いていた。
 ……こうしている所だけをみると、こいつらも普通の女の子なんだがな……。
 と、荒野も思う。
 幸い、酒見姉妹と茅の折り合いも、昨日、茅に屈辱的な負け方をしたとはいえ、そんなに悪くはなさそうだったので、荒野は安心した。
 酒見姉妹は、少なくとも、逆恨みをしたり過去のことをいつまでも根に持つ性格ではないらしい。
 荒野は、会話に夢中になっている三人を置いて、洗濯や細々とした掃除をはじめる。いつまた、突発的に忙しくなるか分からない身なので、こうした隙間の時間を活用しないと、あっというまに室内の空気が埃っぽくなるのだった。
 荒野がパタパタと立ち働きはじめると、酒見姉妹は会話を止め、珍獣をみる目つきで荒野に注目しはじめた。
「……茅と話していていいよ。
 こっちに注目されると、やりにくい……」
 酒見姉妹の視線に気づいた荒野は、真面目な顔をしてそういった。
「あの……加納様……」
「さっきから……何を、なさっているのですか?」
「何って……洗濯とか掃除とか……。
 ようするに、家事、だけど……」
 最近はこうした家事は茅が一手に引き受けて荒野に手出しをさせないようにしているのだが……その前までは、荒野自身が行っていた。
 自分の住居を快適に保つための努力は、荒野は苦にならない性質だった。
「……ひょっとして、お前ら……。
 料理だけではなく、こういう家事も……やったこと、ないのか?」
 双子は答えなかった。
 しかし、押し黙ったその表情が、何よりも雄弁に語っている。
「……一度、お前らの今の住居を、点検しておいた方がいいかな?」
 ピクン、と片方の眉をあげて、荒野はそういった。
「……い、いえっ!」
「か、加納様に、そこまで心配していただくわけには……」
 覿面に、双子はうろたえはじめた。
 なるほど……。
 と、荒野は思った。荒野はやすやすと、ゴミ溜めになった二人の寝床を想像することが出来た。
「質問」
 荒野は、その想像を確認するために、双子に質問をする。
「……お前らが、今、住んでいる地区の……生ゴミの回収日は?
 何曜日と何曜日だ?」
「……それは……その……」
「マ、マンションの共同ゴミ置き場に出しておくから……そういうのは、あんまり関係ないです!」
「……そうか。
 それじゃあ……今使っている、掃除機と洗濯機の色は?
 まさか、どっちも使ってない……とか、言わないよな?」
 今度は……双子からの回答は、なかった。
「……よし。わかった……」
 荒野は、頷いた。
「一休みしたら……お前らに、家事の初歩を手ほどきしてやる。
 別に難しいことではないし……それに、自分の身の回りの整理くらい、できるようになっておけ……」

 酒見姉妹は、それから三時間ほどマンションに滞在し、多くのことを学び、自分たちも準備を手伝った夕食とケーキを食べてから帰っていった。




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