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彼女はくノ一! 第五話 (223)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(223)

 茅と楓が来ると……室内の時間が加速する……ような感覚を、堺雅史は覚えている。二人とも、タイピングが早く、この二人が作業を開始すると、打鍵音につられて、その場にいた生徒たちの作業効率も倍増する、という事実に、堺雅史は気づいていた。
 特に茅は、両手で一つづつキーボードを操作し、二つの作業を同時に行う、などという器用な真似を平気でやる。やはり同じことができる佐久間沙織がふと立ち寄ってネットで調べ物をしたり勉強会に使用する資料を自分で作成したりする時もあって、このような時は四本の腕と二十本の指が縦横に踊り、カスタネットか機関銃を連想させる打鍵音が響き渡ると、その音が聞こえてくる範囲内の生徒たちは何か急かされているような気分になり、通常よりも早く手を動かしはじめるのだった。
 しっかりとしたプログラムの知識があり、自分でかなり複雑なシステムを作成する能力がある、ということでは、楓も茅と同等だったが、楓は茅とは違い、二つの末端を同時に操作しながら、その上、時折不意に訪れては質問をしにきたり、意見を聞きに来たりする。それは、学校の勉強のことだったり、システムやプログラム周りのことだったりするのだが、茅を頼りにする人数はこの数日で俄に膨れあがっていて、五分と間をかけずに次々と来訪する。また、茅の方も顔を上げもせず、手を動かしたまま、淡々とした口調で即答する。そのおかげで、質問を持ってきた側にしてみても、「茅に負担をかけている」という意識はきわめて希薄で、軽い気持ちで聞きにくるようになっていた。そうした風潮が生徒の間で広まってきているのは、他の仕事で茅の意見が必要となり、数分、意見交換などをしていると、そうした質問者たちが何人か順番待ちの列を作ってしまうことからも明らかで……知識面では完璧に近い……少なくとも、生徒たちが持ちようるような質問であるならば、かなり高い確率で、その場で即答してしまう茅は、「便利な存在」として認知されつつある……という感触を、堺は感じている。そして、そうした風潮に対して、
『これは……いいこと、なのだろうか?』
 と思ってしまうのも、事実だった。
 茅自身に問題があるのではない。
 自分で物事を解決しようとする努力をせず、安易に茅に頼ろうとする生徒たちと、そうした依存を容易に認めてしまえる包容力を持つ、茅……という関係は……ある意味で病的だし、こうした関係が長期化、固定化した場合……関係する者すべてにとって、いい結果を残さないのではないか……と、堺は思いはじめている。
 もちろん、その危惧は、自分自身に向けられたものでもある。
 なるべく、早く……茅の手を借りなくてもやっていけるところまで、自分たちを育てること……が、最近、堺がパソコン部に求めている「目標」だった。
 現在立ち上げているシステムも、簡単な保守作業程度なら、パソコン部員だけでもなんとかできるようになっている。まだまだシステムの詳細まで踏み込んで把握しているわけではないが、大まかな挙動は、堺たちパソコン部員たちもかなり飲み込んでいた。
 これまでの経過で判断する限り、あと数ヶ月程度の時間があれば、マニュアルの整備や下級生への申し送り事項のとりまとめなども、なんとか自分たちだけで行えるだろう……と、堺は見積もっている。

 そんな感じで茅は、知っていることであれば、その場で即答するし、知らないことを聞かれた、簡単に「知らない」と答える。もっとも、後者のパターンは、ほとんど皆無に近かったが。
 そうした茅とは対照的に、楓の方は、他の生徒に何か聞かれると、とたんにあたふたと慌ててしてしまう。楓は、プログラム関係と理数系に明るく、少なくともこの学校で習うレベルの数学とか物理の知識なら確実に自分のものにしているし、それ以外にも、茅と並んで「他の生徒が安心して質問できる」レベルのプログラマだったが……そうした、「明らかに楓が答えを知っている質問」を向けても、楓は、まずもって「……えっと、あの、その……」とか口ごもりながらせわしなくあたりを見渡し、それから観念したかのような上目遣いで質問者をみて、
「ええっと……あの、これは、ですねぇ……」
 と前置きしてから、懇切丁寧に教えてくれる。
 謙遜とかいうことでもなく、どうやら、とことん、自信というものが持てない性質らしい。
 パソコン部員たちも、楓のそうした気質や態度、それに相反するが、その実、しっかりとした知識を持っている……ということをすでに知っているので、楓が落ち着くのを待つのは、あまり気にならないようになっていた。
 この時点で、楓の、見方によっては異常、ともいえる自信のなさ……については、一緒に作業し、かなり長い時間、ともに過ごすようになっているパソコン部員たちには、周知の事実となっている。そして、そうした事情に通じているパソコン部員たちは、何か分からないことがあったら、万事ソツがない茅よりも、人間味のある反応を示す楓に質問を寄せるようになっていった。
 前述のように、茅に質問が集中しはじめている……という傾向があって、それ以上茅の負担を増やすわけにもいかず、楓の方にお鉢を廻す……ということもあったが、受け答えが平坦すひぎる茅を相手にするよりは、同じパソコン部員でありながら、他の部員たちよりは格段に多くの知識と経験を持ち、あたふたしながらも懇切丁寧に対応する楓の方を、パソコン部員たちは好んだ。

 そしてその日の放課後、ここ数日の慣例がいくつか、破られることになった。
 まず、いつもは時間ぎりぎりまで校内にいて、パソコン実習室に居座るか、あちこちの教室を巡回して自習の手助けをしている茅が、小一時間ほど座っていただけで、帰り支度をしはじめた。
 茅は、普段なら下校時まで茅に付き従っている「今日は用事があるから、早めに帰る」と告げている。わざわざそう告げている……ということは、楓と茅は、今日に限って別行動をとる、ということだった。
 楓は、心持ち白い顔をしながらも、こくりと頷く。
 すると……ある程度事情を知っているパソコン部員たちが、ざわめきはじめた。
 ……楓が茅の側から離れようとしないのは……護衛、という意味もあったのではないのか?
 茅は、少しざわついた室内を見渡し、
「……大丈夫。今、別の迎えを呼んだから……。
 それに、楓と喧嘩をしたわけでもないの……」
 と、小さな、しかり、よく通る声で、誰にともなく、話し出す。
「ただ……楓には、もっと自由に……自分の意志で、動いてほしいの……」
 そう聞かされた堺は、あくまで、なんとなく……では、あるが……茅が意図していることがわかるような気がした。
「……今の……どういうこと?」
 茅がパソコン実習室を出て行くと、柏あんなが堺の耳元で、小声で囁く。
「……たぶん、だけど……」
 堺雅史は、ゆっくりとした小声で、柏あんなの耳元にささやき返す。
「楓ちゃんが、昨日のようにならないように……ということ、なんじゃないかな?」
 堺雅史のいうことが納得できなかった柏あんなは、首をかしげて「……いっている意味が、よく分からない……」という意図を伝えた。
 実は、そういう堺雅史にも、茅の意図がはっきりと推測できているわけではなく、なんとなく……そう思う、というレベルで話しているのに過ぎないのだが……。
 それでも、頭の中で、もやもやっとしている「感じ」をあんなに伝えようと口を開くと……。

「……あの、すいません……」
 大きな体を遠慮がちにかがめて小さくした有働勇作が、パソコン実習室に入ってきた。
「……ちょっと、放送部の取材に、協力してほしいんですけど……。
 加納兄弟について、お話してもらえるパソコン部の方、誰か、いませんか?」




[つづき]
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