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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(145)

第六章 「血と技」(145)

 神経を張り詰めて、周囲の気配を探りながら、荒野はランダムに前後左右に跳びつつ、手探りで肩にかけたバッグのジッパーを少し開け、中に手を入れる。
 荒野の動きにほんの少し遅れて、六角が、つい数拍前まで荒野が立っていた場所のアスファルトに、潜り込む。
『……力が強くて……割りと近く、だ……』
 荒野の動きに反応する時差と、それに、六角が回転していないことから、荒野はそう判断する。
 秘匿性を重視する時……と、いうのは、香也のように、わずかな音でも飛来する六角の位置を正確に把握できる術者が標的である時、ということだが……六角を、あえてスピンさせずに投げることがある。
 これだと、命中時に与えるダメージは何割か相殺されることになるが……。
『……それでも、アスファルトに潜り込む、っていうのは……』
 二宮系の術者だな、と、荒野は予測する。
 もとっも……。
『……単独だと、判断する要素はない……』
 だから荒野は油断しない。
 油断せず、バッグから手探りでタオルを取り出す。
 毎朝、ランニングの時に汗拭き用に使用している、スポーツ・タオルで、普通のタオルよりも生地が厚い。
『……仲間がいるにしても……』
 荒野は後方に跳びながら、六角の弾道を予測し、その場所にタオルをはためかせる。
 タオルの生地が、飛来する六角に巻き付いた感触。
 香也は、六角の軌道をわずかにずらす格好で、自分を軸とし、タオルをぐるりと半回転、振り回す。
 回転していない六角なら、直進する力さえずらせば……タオル一枚で捕らえ、投げ返すのは、可能だった。
 おそろしくシビアなタイミングを図り、場慣れしている者でないと不可能な真似だが……逆にいうと、荒野になら、造作もなく、できる。

 荒野は、六角が投げられた時の勢いをほとんど殺さず、それどころか、半回転させた遠心力も付加して、できるだけ正確に、六角が飛来した方向に投げ返す。
 タオルが六角を離す感触を確認して、肩にかけた、着替えの入ったバッグを構えて、自分で投げ返した六角の後を追った。
『……逃げるか、迎撃するか……』
 これで、少なくとも、六角を使用した襲撃者に関しては、その選択肢を、ある程度、荒野が絞ったことになる。
 他に何人か、周囲に仲間が潜伏しているのかも、知れないが……。
『……まずは、所在の見当がつくやつから、順に……』
 片付ける……と、荒野は決意する。
 無警告に六角を使用しての不意打ち……だから、荒野に対して殺意がある、と判断すべきだった。実際、荒野が飛来してくる六角を察知できずにいたら、まともに命中し、しゃれでは済まないダメージを被っている筈で……。
 何者が、どんな意図でそんな攻撃をしかけてくるのか、今の時点では予測できなかったが、荒野にしてみれば、手加減してやらねばならない理由はないし、また、こと、ここにいたって、躊躇いを生じるのは、襲撃者に隙をみせることになる。

 だから、荒野は、タオルで六角を投げ返すのと同時に、その方向に向け、跳躍している。
 六角を投げ返したのは、正確に、六角が投げ付けられた方向へ、で……だから、その付近に、襲撃者が隠れている公算が、高い。
 荒野は、一足に近くの塀の上に飛び乗り、そこを踏み台にして、電信柱の上に躍り出る。
 それだけの動作を瞬時に……一秒もかけずに終え、六角を投げ返した、その先に、視線を据え……駆け出した。
 荒野は、一拍も足を止めずに、電線の上を疾駆する。
 近くの……二十メートルほど離れた場所に立っていた、街路樹に向けて。
 六角の速度と角度を考慮すると、そこが一番、「怪しかった」。

「……わっ!」
 案の定、その街路樹の上部……枝と葉が茂り、中が見通せない部分から、慌てた声が聞こえる。
「……まっ、待った! タンマっ!
 すとっぷ、ぷりーずっ!」
 そんな情けない声を出しながら、茂みの中から、人影が、両手を上げて、出てくる。
「……地上に降りろ! そして、武器も捨てろ!」
 電線の上に出ようとし人影に向けて、荒野は鋭い声を発する。
 術者を相手にする場合、たかだか両腕を晒したくらいで武装を解除した思うのは、あまりにも早計な判断になる。
 だが、敵よりも高い位置を保持することは、地球の重力が消えない限り、自分の有利に働く。
「……それと、仲間はいるのか?」
 荒野は、その人影が両手を上げたままで、無造作に空中に身を躍らせ、地上に降り立つのを横目で確認しながら、慌ただしく周囲に目配せをしている。
 荒野は、まだまだ油断も安心もしていない。
「……いない。
 おれ、一人だ……」
 そういいながら、人影は、荒野をみあげてにんまりと笑って見せる。
「……あの……武器を捨てたいから、手を降ろしていいかな?」
「先程の言葉は撤回する」
 荒野はその人影を睥睨して、いった。
「もっと両手を高くあげたまま、他の部分も出来るだけ動かさないで、話せ。
 ……意味はわかるな?」
「……わかる。わかるよ、兄貴。
 本当、兄貴の腕を確かめたかっただけで、害意はないんだ……」
 人影は、万歳をするように両手を高く掲げて、おまけに掌をひらひらーっとひらめかせる。
「……おれ、甲府。甲府、太介。
 傍流で、二宮の名乗りは許されていないけど、そっちの家系。
 兄貴の腕前の噂を聞いてさ、いてもたってもいられなくなって、ここまですっ飛んで来た……。
 兄貴、最強の弟子なんでしょ? それでもって、若手の中ではナンバー・ワンなんでしょ? おれを弟子にしてくれよ! おれ、兄貴のいうことなら、何でも聞くからさぁ……」
 甲府太介、と名乗った少年は、幼い風貌に、ふてぶてしさと抜け目のなさが奇妙に入り混じった複雑な笑みを浮かべている。年齢は、外見ではテンやガクと同じくらいに見えた。ジーンズにジャケット、スニーカーなどの着衣は、それなりにまともに見えたが……全体に、薄汚れている。
「……今の攻撃……」
 荒野は、表情も声も緊張させたまま、太介の目を真っすぐに見下ろす。
「……おれでなければ、死んでいてもおかしくなかった……」
「……あ、兄貴、無事じゃん! 思いっきり、無事じゃん!」
 太介は、必死に抗弁する。
「即座に、あんな反撃返してくるし! おかげで、ほら、こっちの手……」
 太介は、高くあげたままの左手を、振ってみせる。手の甲が赤くなって、出血も、少し……。
 どうやら、荒野が投げ返した六角を、とっさに左手で弾いた、ということらしい。
『……右利き、か……』
 荒野は太介と名乗った少年のデータをもう一つ、脳裏に刻み込む。
 少し前に渡されたリストには、太介に該当する人物はいなかった。
「……お前の言い分は理解した」
 荒野はいった。
「背後関係は無い。おれに弟子入り志望。そのためにはなんでもする。さっきの襲撃は、おれの実力を試すため……。
 以上で、間違いはないな?」
「うん! そう! まさしく、その通り! さすが兄貴……」
「……聞かれたことだけに、簡潔に答えろ」
 放置しておけば、いくらでもしゃべり倒しそうな勢いを感じて、荒野は、ぴしゃりと太介の口を封じる。
 流石に、太介も荒野の気迫を感じて、即座に口を閉じた。
「……お前の保護者、ないしは、後見人の姓名を述べよ」
「……いないよ、そんなもん……」
 太介の笑みから、「ふてぶてしさ」の成分が増大した。
「両親とも、殉職ってやつでさ……。
 今は、養成所預かりになっている……」
「……理解した……」
 荒野は、地上に降り立った。
 わざと隙を作って、太介以外の敵は周囲にいない……ということを、確認したからだ。
「お前の処分の決定と、身元の確認は、後でじっくりと行う。
 ついてこい……」
 そういって、荒野は太介に背を向けて走りだす。




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  • 2006/12/02(Sat) 17:50 
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