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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(146)

第六章 「血と技」(146)

「……と、いうことで、とりあえず連れてきた」
 河川敷でいつもの連中と合流した後、荒野はざっと先程のいきさつを説明し、荒野を不意打ちにしようとした少年を紹介する。
「自称、甲府太介。
 こいつのいうことに裏がないかどうかは、これから確認する。
 確認が取れるまでは、適当に遊んでやってくれ……」
「じゃあさ、じゃあさ……」
 さっそく、ガクが片手を上げた。
「少しは本気を出しちゃって、いいかな?」
「本人に確認しろ」
 荒野は、先ほどの襲撃で、太介の実力はある程度見極めているのだが、あえて詳細に説明しない。
「……本人の自己申告では、二宮系だそうだから、多少のことでは壊れないとは思うけど……」
「いいよ、おれは」
 甲府太介本人が、即座に答える。
「同年配のやつらや教官は、相手にならなかったし……ここに少しは歯ごたえがある奴がいるんなら、いくらでも相手になるよ……」
 ……その言葉に、嘘はないだろうな……と、荒野は思う。
 甲府太介は、二宮の資質が凝縮されて生まれた例だ。大の大人でも、六角を回転抜きで投じてアスファルトに完全にのめり込ませる、などという芸当ができるものは、少ない。それに、本人も、それなりに練習熱心なようだし……。
「……酒見たち!」
 少し考えて、荒野は酒見姉妹に声をかける。
「ちょっと、このチビをからかってやれ!」
「……御下知とあれば」
「……喜んで」
 相変わらず見分けがつかない酒見純と酒見粋が、前に進み出る。
 酒見姉妹を目の当たりにした甲府太介が、よろよろと何歩か後退した。
「……噂くらいきいたことがないか? 酒見の双子の?
 まあ、いいや。
 お前みたいな生まれついての素質に頼りがちなタイプは、トリッキーな攻撃にはからきし弱いからな。
 この双子の相手をして、少しは自分の限界をわきまえておけ……」
「……あ、あの……兄貴……」
「その兄貴というの、やめろ。
 で、なんだ? 怖じけづいたか?」
「……ちょっくらびっくりしたけど……あの、武器使っていい?」
「……どうする?」
 荒野は、酒見姉妹にその質問をそのまま流す。
「お前らの好きにしていいぞ。
 あ。長く入院するような怪我、しない程度に収めるのならな……」
「……では……」
「……わたしたちも……」
 酒見姉妹は、背中のホルスターから山刀を取り出しながら、甲府太介に殺到する。
「……ちょ、ちょっと……。
 まだ、準備できてないのに!」
 甲府太介は、慌ててみせた。完全に腰が引けている。
 そんな太介に、左右から同時に、酒見姉妹が背を向けた山刀を、たたき込む。
 完全な挟撃……に、見えた。
「……いきなりだから……」
 しかし、次の瞬間……慌てたようにみえた甲府太介は、酒見姉妹の山刀を、完全に止めていた。
 両手の親指と人差し指で山刀の刀身を挟み込んでいる。
「……こんな芸のない止め方しか、できないじゃないか……」
 酒見姉妹は、額に汗を浮かべている。
 決して手加減してはいないようだが……山刀は、ピクリとも動かない。
「……双子ども!
 お前ら、気を抜きすぎだ!」
 荒野は、酒見姉妹を叱責する。
「……小さいなりしてても、こいつ、一族だぞ。
 真っ正面からなんの工夫もなくかかっていったら、止められて当然だ!」
「……ねえ、兄貴……」
 涼しい顔をして酒見姉妹の山刀を止めている甲府太介が、荒野に顔を向けて尋ねる。
「兄貴はよせ。
 で……なんだ?」
「この人たち、やっちゃっていいのかな?」
「……入院しない程度にしておけ……」
「……了解……」
 言い終わるや否や……甲府太介が、動いた。
 手で山刀を固定したまま、ほとんど体を横倒しにして、左右の酒見姉妹を足蹴にする。
「……戦力を分散させての、個別撃破……。
 自軍より量的に勝る相手に対する、常套手段ですわね……」
 孫子が、呟く。
 太介は酒見姉妹の「どちらか」片一方に迷うことなく殺到し、同時に、山刀を遠くに放り投げている。相手に使わせるつもりも、自分で使うつもりもないらしい。
 太介に迫られた方の酒見が体制を立て直し、太介に手裏剣を何発か投じる。が、太介は速度を緩めることもせず、手ですべてをたたき落とす。
 太介と酒見が、一瞬、組み合って……すぐに、離れた。
 体格的にほぼ同じくらいだったこともあって、どちらかがはじき飛ばされる、ということもなく、二人とも同時に後退して数メートルほどの距離をとる。
「……姉様!」
 太介の背後で、もう一人の酒見の声がした。わざわざ声を上げた、ということは、自分の存在を気づかせる必要があったからだ。
 その酒見は……「姉様」と呼びかけた、ということは、妹の粋だろう……呼びかけるのと同時に、拾ってきたばかりの山刀を二振り、少し時間差を置いて、太介の背中に向けて投じる。
「……よっ、と……」
 太介は、特に慌てた様子もなく、しかし機敏な動作で振り向きざまに投じられた山刀を両手に掴み、二人の酒見に向け、一振りづつ投げ返す。
「……余裕ね……」
「……でも、それが……」
 山刀を受け取った酒見粋と酒見純は、再度、太介の前後からの挟撃を試みた。
 以前と違うのは、今度は、酒見姉妹も太介の実力を低く見積もっていない、ということだった。
 酒見姉妹は、太介の周囲を旋回しながら、徐々に距離を詰めていく。
「「……命取り!」」
 双子の声が、重なった。




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