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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(147)

第六章 「血と技」(147)

 酒見姉妹は山刀を振りかぶり、ほぼ同時に甲府太介を前後から挟撃した。太介は、今度は姉妹の山刀を蹴り上げてそれを避ける。
 より正確にいうのなら、前からきた酒見の山刀を蹴り上げ、その勢いを利用して、その場で逆立ちになり、頭上に掲げた両腕を大地につけて自分の体重を支えつつ、背後から来た酒見の山刀を下方に蹴り下げる。
 それだけの動作を、姉妹に前後を挟まれ、ほとんど身動きできない状態で、甲府太助は瞬時に行った。
「……なぁ、おにーさん……」
 飯島舞花が、肩を並べている荒野に尋ねる。
「あの子……あんなに小さいのに、凄いんじゃないのか?」
 太介のアクロバティックな動作は、舞花に強い印象を与えたようだった。
「……あの程度のことなら、基本を覚えた一族なら誰にでも出来るし……」
 荒野は、詰まらなそうな口調で答える。
 本当の手練れなら、より無駄のない動作で、瞬時にカタをつける。あえてそれをやらないで、派手なパフォーマンスに興じようとするあたりは……太介の、慢心だろう、と、荒野は判断する。
 あるいは太介は……荒野にいいところを見せたかったのかも知れないが。
 そして、荒野が考える程度のことは……酒見姉妹にも、予想がついた筈だ。
「……ほら、みてみろ……」
 案の定……バク転の要領でぐるりと一回転した太介の手足には、鎖が絡まっていた。
「今のは、あの双子の陽動だよ……」
 ついさっき、山刀を取り上げられたばかりなのに、同じような攻撃をするのは……「別に何か思惑があって、あえてそうした」としか、思えないのだ。
 酒見姉妹は、「……せーのっ!」とかいいながら、手にした鎖を引っ張っていた。姉妹の手にする鎖に引かれ、太介の体は徐々に横倒しになっていく。
「……あの双子、野呂の血も入っているから……そこそこ器用で、動きも早いんだけど……」
 荒野は、憮然とした調子で舞花に解説してみせる。
「……どちらかというと、あの太介っていうのの油断のが大きいな、今のは……」
 あいつ……「現場で通用するレベルの術者」と対峙した経験が、あんまりないのだろう……と、荒野は太介の評価を下す。
 自分よりも実力のある相手とは出会ったことがない、いわゆる、「井の中の蛙」タイプ。
 養成所では持てあまされていたのか知れないが……そんな狭い場所しかしらず、すべての術者を「そこのレベル」で判断しようとするのが、そもそも間違っている。
「……あ……れ、れ?」
 案の定、当の太介は、いつの間にか自分の手足に絡みついた鎖を見ながら、「どうしてこんなことになっているのかわからない」という表情をしている。
 おそらく、酒見姉妹に、自分の手足を拘束されたことさえ、実際に身動きを封じられるまで気づかなかったに違いない。
 向き合って、鎖をそれぞれ反対方向に引っ張る姉妹の動きに合わせて、甲府太助の体が横倒しになっていく。太介の一方の鎖は両手首にがっしりと絡んでいるし、もう一方の鎖は、左の足首に絡まっている。
「……おい、甲府太助!」
 荒野は、声をかける。
「お前……実戦なら、とっくにやられているぞ……」
 あんなになるまで、自分に向かってきた鎖の存在に気づいていなかった……というのなら、あの鎖が、刃物や手裏剣だったら……運よく致命傷を免れたとしても、手足の腱を傷つけられて、身動きもままならない状態にされている、ということである。
 太介が納得のいかない顔をしているのにも構わず、荒野は酒見姉妹に手を止めるように命じた。
「……あの、双子……」
 飯島舞花がぽつりといった台詞が、荒野にはおかしかった。
「完全にやられ役、っていうわけではなかったんだな……」

 酒見姉妹を下がらせて、太介の手足に絡んだ鎖を解いても、太介はまだ納得のいかない顔をしていた。
「……まだ、やれそうか?」
 荒野がそう水を向けると、太介はぱっと表情を輝かせて、
「やる、やるっ!
 是非、やらせてくださいっ!」
 と、叫んだ。
「そうか……」
 頷いて、荒野は、テンとガクを手招きした。
「ご苦労だが、お前らのうちどちらかが、相手をしてやってくれ……」
 荒野は、わざと太介を刺激するような言い方で、テンとガクに頼み込む。
「……寝込んだりするような重傷を負わせなければ、多少どついても構わない……」
 荒野は太介に背を向けていたが、荒野のその台詞を聞くと、太介の頬がぴくりと引きつった。
「……ボク……。
 自分より弱いと分かっている相手とは……あんま、やりたくないんだよね……」
 テンは、太介に自分の身の程を弁えさせようとしている荒野の意図を察知して、荒野に習って声を張り上げる。
「あの子が相手だと……やる前に、結果は分かっているじゃないか……。
 やるだけ、無駄だよ……」
 これは、ガク。テンとは違い、荒野の意図を察知してそれに同調した訳ではなく……ガクの場合は、その時思っていたことを素直に表明しただけだった。
 太介の顔が、ますます引きつる中、テンとガクはじゃんけんをして、結局、負けた方のガクが太介の相手をつとめることになった。

「……じゃあ……どこからでもかかってきて……なんなら、武器使ってもいいよ……」
 やるきなさそーに前にでたガクは、太介に向かって、ぼつりとそういう。
「……こん、のぉッ!」
 さほど距離が開いているわけでもなかったのに、太介はガクに向かって猛然と突っかかっていった……と、思ったら、真上に放り投げられていた。
「……おっ?」
 気づいたら、地上十メートル以上の空中にいた太介は、自分が今、どういう状態にあるのかを自覚した途端、素早く手足を丸め、顔や首などの急所をカバーした。腕の隙間から地上をみると、ガクが肩を竦めているだけで、投擲武器による攻撃は一切なかった。
 着地寸前にガードを説き、足が下になるように重心を調整。着地し、再度の攻撃に身構えようとした瞬間……太介の体は、また、空高く放り投げられている。
 いつ、ガクが太介に近寄ったのか、どうやって太介を再度真上に放り投げたのか……それさえも、太介には知覚できなかった。

 結局、ガクは立て続けに太介の体を五回ほど放り投げ、その間、太介は、文字通り「手も足も出ない」状態にあった所を、「もう、いいだろう」と荒野にストップをかけられた。
「……ガク、ご苦労だったな。今度、ケーキ食わしてやる……」
 そういって、荒野はガクを開放した。
 ガク以外の連中は、新参者の太介の実力を見極めると興味をなくしたのか、すでに散り散りにいつもの練習に励んでいる。
「太介とやら……お前、今のだけで、何回死んだ?」
 荒野はその場に座り込んだ太介に、諭すような口調で話しかける。
「お前がいた場所では、お前が一番だったのかも知れないが……そんなもん、一歩外に出れば、なんの価値もないから……」
 荒野は急にしおらしくなった太介から、抜け出してきた養成所の番号を聞き出し、その場で電話をかける。




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