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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(148)

第六章 「血と技」(148)

 朝のトレーニングを終え、甲府太介を連れ帰った荒野は、
「……メシと着替えは用意しておくから、しっかり体を洗え」
 といって、真っ先に甲府太介をバスルームに放り込んだ。
 かなり遠方にある養成所から、着の身着のまま、一昼夜以上の時間をかけて徒歩でここまできた甲府太介は、汗と埃にまみれていた。
 甲府太介をバスルームに放り込んだら、今度は……。
『……さて、あいつを……』
 どうするかな……と、荒野は考えつつ、自分のノートパソコンを広げる。
 太介が世話になっていた養成所の人間から、電話越しに口頭で確認はしていたが……それだけで、完全に信用できるわけではない。
 まず、荒野は着歴に残っていた番号を頼りに、その養成所が「実在」することを確認し、その養成所に、今度はメールで太介についての詳細を問い合わせた。荒野にしてみれば、このワケがわからない時期に、ワケがわからない人間が勝手に飛び込んできた、ということで、扱いに困っている、というのが本音だ。少なくとも、電話で確認した時点では、太介の言葉に嘘はみられなかった。
 簡単にメールの文面をしたため、送信した後、荒野は自分の下着と服を出して、「出たら、これに着替えろ」と申し渡して、バスルームの脱衣所に置く。
 太介の服を洗濯機に放り込んで洗った。
「茅……あいつ……どうしたら、いい?」
 そして、キッチンに戻り、三人分の朝食を準備している茅の背中に語りかける。
「荒野は、どうしたいの?」
 茅は、こちらを振り向かずに答える。
「あいつが……トラップとかでないことが確認できたら、放置しておきたい」
 基本的に荒野は、他人の行動に干渉しようという意志が薄い。
 ただ、この「太介の存在自体が、トラップではないか」という可能性を完全に排除することは……実際にやろうとすると、ひどく難しかった。
「……それなら、簡単……」
 茅は、サラダボウルを抱えて振り返り、荒野の目を見据えた。
「読む」
 ……その手があったか……と、荒野は半ば呆れ、半ば関心した。
 茅が……その気になれば、ある程度、対面している人間の「考えていること」を「読む」ことができる……ということは、佐久間現象の一件で証明されている。
「……そんな、簡単にいうけど……」
 荒野は、言葉を濁す。
「……簡単では、ないの」
 茅は、ゆっくりと首を横に振った。
「読むと……ひどく、疲れるの……。
 でも、必要なら、やるの……場合によっては、書き換える……」
「その……後半のほうは……やるな。今回だけではなく、絶対に、やるな」
 荒野は、真剣な声でいった。
「やばそうなら……放逐すればいいだけだ……」
「わかったの」
 茅は、素直に、頷く。
「甲府太介を読んで……やばそうだったら、荒野にいう。
 茅は、必要な時に結果だけを伝えて、あとは、荒野が判断するの」
「それでいい」
 荒野も、頷く。
 時間的にはともかく、一緒に寝起きしていることもあり、茅との連携もかなり円滑に行えるようになってきているな……と、荒野は思った。
 そこまで打ち合わせがすんだ時、
「……どうも……お先にご馳走になりました……」
 ぶかぶかの荒野の服を着て、頭の上にバスタオルをのせた太介が、バスルームからでてきた。

 三人は、朝食を囲みはじめる。
 いつもはざっとシャワーを浴びてから朝食にするのだが、今日は太介を先に入らせたので、荒野も茅もスポーツウェア姿のままだった。茅はテレビをつけて子供向け番組のチャンネルに合わせているが、今日は戦隊物の日ではないのでさほど真剣には見ていない。
「とりあえず、食え」
 荒野は「こいつは……遠慮とかするようなタマでもなさそうなだ……」と思いつつ、太介にいった。
「何十時間か、飲まず食わずだったんだろう?
 これで足りなかったら、あり合わせのものでなんか作る」
 いつもの通り、サラダとトースト、卵焼き程度の朝食だったが、サラダはいつもより多めに作ったし、トーストも、今、テーブル上に人数分あるのだが、まだ焼いている。
「……ありがたく、いただきます」
 シャワーを使って若干、こざっぱりとした太介は、行儀よく手を合わせて「いただきます」と大声を出して一礼し、荒野の想像以上の速度でテーブルの上のものを食べ出す。
 茅は、太介の食べっぷりを目の当たりにして、数秒目を丸くしていたが、すぐに立ち上がり、冷蔵庫に向かう。とりあえず、果物とか菓子類とか、すぐに食べられるものをテーブルの上に並べはじめ、太介は、それを片っ端から食べはじめた。
 そして、いちど外してたたんだエプロンを広げて、身につけはじめる。
「……荒野、手伝って!」
「……おう!」
 荒野も、自分のエプロンを身につけて、茅を手伝って料理をはじめた。
 荒野自身もそうだし、確認したわけではないが、酒見姉妹もその仲間なのではないか、と荒野は疑っているのだが……一族の者の中で、瞬発力が優れたものの中には、疲れた時などに、とてつもない食欲を発揮するものが、たまにいる。養分を備蓄する方法が、常人とは違うのではないかと思うほどの食欲を見せるものが……。
『一族のはしくれ……ってのは、確実らしいけどな……』
 荒野は、茅と一緒に手早く作れる料理をしながら、太介についてそんなことを思った。

「……ご馳走さまでした!」
 小一時間ほど備蓄分の食糧をさんざんむさぼってから、太介はようやくそういって両手を合わす。
「……お粗末様です……」
 荒野は、ぐったりとした声で答えた。
 茅も荒野も、まだ自分の分の食事を口にしていないのだが……食欲は、大いに減退していた。
「お風呂とお食事を世話していただいて、こういう口を効くのもなんなんですが……」
 太介は、意外に丁寧な口を効く。
「その……こちらの女性は……兄貴の、なんなんでしょうか?」
「……兄貴は、よせ……」
 どこから突っ込んでいいのか分からなかったので、とりあえず荒野はそういった。
「……お前……茅を知らないのか?」
「存じ上げませんので、こうしてお尋ねしている次第で」
 荒野は、深々とため息をついた。
「……じゃあ……その分でいくと、テンやガクのことも、知らないんだろうな……」
「……テン? ガク?」
「今日、会ったばかりだろ……。
 あの、お前と同じくらいの二人のことだ……。
 新種とかの噂、聞いたこと、ないのか? お前……」
「新種?
 そういう話しは……一向に……」
 太介は、真剣な顔をして首を振る。
「おれが聞いた噂は、兄貴と楓さんの……最強の弟子、二人のことばかりで……」
 荒野は、茅に意味ありげな視線を送った。
「……嘘じゃ、ないの……」
 茅は、ぽつりとそういう。
「……するってぇと……この方は……兄貴の妹さんですか?」
 太介がそういうと、茅は、瞬時に不機嫌な顔になった。
「どうして……恋人とか、そういう推測にならないの?」
「……え?
 だ、だって……兄貴、昨夜、別の女の人の所にとまっ……あうっ!」
 太介は、いいかけて、慌てて自分の口をふさぐ。
「……って、ことは……あれ? あれ?」
 太介は、そろっーっと、茅の方をみて、その後、視線を横にずらして荒野の方をみた。
「……兄貴ぃ……おれ、いっちゃあいけないことを、くっちゃべっちゃったかなぁ……」
 ……荒野は一瞬、「茅に直接聞いてみろ」といいたい衝動に駆られた。
「いや、別に、茅に内緒で外泊したわけじゃないから、べつに構わないんだけど……」
 実際に荒野が口にしたのは、そんなことだった。
「なんというか……おれたちの関係は、いろいろと複雑なんだ……」
 ……本当は、複雑なのは「関係」だけではないんだがな……と、荒野は内心で付け加える。




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