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彼女はくノ一! 第五話 (232)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(232)

「……えーと……それでは、時間になりましたので、そろそろはじめたいと思います……」
 調理実習室で教壇に立った荒野は、「……なんで自分は、ここにいるのだろう……」という顔をしていた。
「みなさん……型は、用意してきましたか? 用意していない人は、ありきたりのハート型でよければこちらにいくつか用意していますので、取りに来てください。
 それでは……まずは、湯せんの準備ですね……。
 二人一組になって、お湯の温度を調整する人と、チョコを溶け易いように刻む人に別れて……」
 それでも、部活で何度か予行練習を行っていたので、手順は、頭に入っている。
 荒野の口は、滑らかに動いていた。

 楓は、同じクラスの柏あんなと組んでいた。柏あんなは湯せんに使うお湯に、学校の備品である調理用の温度計をさして、目盛りを睨んでいる。楓は、料理研が用意したチョコの固まりを、包丁で砕いて細かい破片にしていた。
 加工し易くフレーク状にした調理用チョコも市販されているのだが、必要経費削減と、それに「手作り感」を出すため、料理研の面々は、今回、キロ単位で売買される業務用のブロック状のものを用意している。
 あんまり簡単すぎるのも、つくっていて張り合いとか満足感がないのであった。
「……本職の職人さんは、チョコレートは微妙な差で味が変わるので、温度管理にかなり気を使うそうですが、ここでは、大体でいいと思います……」
 そんな荒野の声が、耳に入る。
「……楓ちゃん、そろそろ……」
「あっ。はい……」
 楓は細かくしたチョコを小さなボウルに入れ、柏あんなに手渡す。あんなは、楓から手渡されたボウルを、お湯をいれた大きなボウルの中に入れる。
「……これで……溶ける筈……」
 楓が見守る中、あんなは慎重な手つきで菓子篦をボウルの中に入れ、かきまぜる。
「……あっ……ちゃんと、溶けてきてる……」
 ボウルに接しているチョコから溶けはじめ、液状になってボウルの底に溜まっていった。
「……えー……チョコを砕いた人、手が空いたら、型の準備をしてください。温度が下がれば、チョコはすぐに固まります。溶けた後は、手早さが勝負です……」
 荒野が注意をし、楓を含む大勢の生徒が慌ただしく動きはじめる。

 才賀孫子は飯島舞花と組んでいた。
 ただし、こちらのペアは、楓とあんなよりはきびきびと小気味よい挙動をしている。どちらも料理の経験がそこそこあるからだろう。舞花は一般的な家庭料理専門だったが、孫子は菓子作りの経験も豊富だった。狩野家にくるまでは、普通の料理よりも菓子を手掛けることが多かったくらいだ。

 孫子と舞花とは対照的に、ひどく危なっかしい手つきだったのは、酒見姉妹。
 当人たちはあまり意識してないが、この姉妹は、「瓜二つの見慣れない顔が、この学校の制服を着て潜り込んでいる」ということで、ひそかに注目の的になっていた。
 この学校も、女子間の個々人のネットワークは陰に日向に張り巡らされていて、「見慣れない顔」はすぐにチェックされるようになっている。それでも正面きって問いただされないのは、姉妹が荒野たちに伴われていたからだった。荒野たち、の中には、荒野たが転入してくる前からこの学校にいる、飯島舞花や柏あんなも含まれる。
「……彼女たちが、何もいわないのなら……」
 自分たちが声をかける必要もない、というのが、そこに集まった大方の生徒の見解だった。
 幸いにして、飯島舞花と柏あんなは、男子にも女子にも好かれている生徒だったので、それなりの信望も集めていた。その二人が、特に不安を感じている様子もないので、酒見姉妹は、いわば、「良質な不審者」なのだろう……と、調理室に集まった生徒たちは判断する。
 その酒見姉妹は、おぼつかない手つきながらも、次第に作業そのものにのめり込んでいった。
 二人は、それまで自分たちで口にするものを自分たちで調理する、という機会に恵まれなかったが、昨夜、荒野と茅に、半ば無理やり基本的なところから仕込まれ、今、こうして、チョコ作り、などという、数日前なら自分たちが手掛けるとも想像もできなかった作業を遂行している。
 これが……やってみると、以外に楽しかった。
 材料がチョコだとさほど感じないが、野菜や果物に包丁をいれると、その瞬間に、切った断面から食材の香りが立ちのぼる。さらに、自分たちの過熱や味付けによって、食材が姿を変えて行く様子は、何かの実験をしているような気がした。
 このチョコ作りも、砕いたり、暖めたり、自分たちの操作によって、材料が姿を変えて行く様子が、面白い……と、酒見姉妹は、思った。
 だから、酒見姉妹は、周囲の、自分たちに向けられる視線が気にならないほど、チョコ作りに熱中した。

「……砕き終わった」
「……温度、OK」
 テンとガクも、以外に手際がいい。
 テンが、あらかじめチョコ作りの工程をネットで検索して、頭に入れていたのが効いている。それに、ガクにしてみれば、業務用の固まりチョコを溶け易い大きさに砕くことくらい、造作もない作業だった。

 その他の女生徒たちは、楓やガクが造作もなく行った、「チョコの固まりを砕く」という作業が、思うほどに進捗しなかった。
 意外に力仕事だった……ということに加え、チョコの固まりも、長い時間手で触れていると、体温で表面が溶けてくる。
「……あの……」
 部屋の隅でおとなしく見学していた甲府太介が、手近にいた生徒に声をかける。
「……それを、細かくすればいいの?
 おれ、手伝おうか?」
 香也のお下がりを着た太介は、小学生ぐらいの子供にみえた。顔立ちはどちらかというと幼く、あまり男性っぽさを感じさせないこともあって、声をかけられた生徒たちは、気軽な気持ちで太介にやらせてみた。
 太介はスピードを乗せて包丁を奮い、女生徒たちが苦労していた固まりを、手際よく破砕する。養成所の訓練よりは、よっぽどたやすい……と、太介は思った。
 あっという間にチョコのブロックを片付けた太介に、すぐに隣のテーブルの生徒たちが助けはを求める声をかけた。太介は、この程度の力仕事ならお手の物、とばかかりに、声をかけられる端からついていって、チョコをばらしていった。

 その一部始終をみていた荒野は、
『ま……いいか……』
 とか、思う。
 嫌われたり排除されたりするよりは、便利に使われる方がまだしもマシというものだ。太介も、テンやガクと同様、今度の春からこの学校に通うようになる。顔見知りが増やしておいたほうが、後々なにかと都合がいいだろう、という計算もある。第一、本人たちが喜んでやっている。
「……だいたい、溶けましたか?
 溶けたら、今度は、型に流し込みます」
 そんなことを思いながら、荒野は、次の手順を説明する。
「……型に入れたチョコを冷やしている間に、同じ要領でホワイト・チョコを溶かします。
 これは、表面に書く文字用のものですから、そんなに大量にはいりません……」




[つづき]
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