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彼女はくノ一! 第五話 (233)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(233)

「……おつかれー……」
 一時間ほどの講習が終わると、大半の生徒たちはぞろぞろと調理実習室から出て行ったのだが、若干名の顔見知りは椅子にぐったりと座り込んだ荒野の周りに寄って来た。
「本当……疲れたわ……」
 荒野は顔をあげて声をかけてきた飯島舞花にそう答える。
「でも……加納様、かなり、わかりやすかったです……」
 楓は、先程の荒野の講習を、そう評する。
「……わかりやすいも何も……」
 げんなりとした口調で荒野は答えた。
「あんなもん、気をつけるのは湯せんする時の温度くらいだし……注意深くやれば、誰でもできるし……」
「内容」、よりも、荒野にとっては、「大勢の注目を浴びながら、長時間しゃべる。しかも、聴衆はほとんど女子」という「条件」の方に、より精神的な重圧を感じていた。
「……野郎……お前一人だったもんな……」
 甲府太介を見ながら、ぽつり、と、付け加える。
「お役に立ちましたか?!」
 勢い込んで、元気よく返事をする甲府太介。
「ああいうのは、役に立つとはいわないの。
 ただ、そこにいただけなんだから……」
 平坦な口調で、茅が突っ込みをいれる。
「……これ……あと三回もやるのか……」
 予定では、今日、休憩を挟んでもう一回。明日の午後も今日と同じように、二回、行われる予定だった。
 受講希望者の人数が多すぎるので、それだけの回数、行われることになったのだが……荒野にしてみれば、いい迷惑でもある。
 同年代の女の子に取り囲まれて、一時間も一人でくっちゃべっているよりは、殺伐とした世界で命の取り合いをしている方が、よっぽど気が楽だ……と、荒野は思った。
「……荒野……汗、かいている……」
 茅がハンカチを取り出して、荒野の額にあてる。
「……どーもー……」
 荒野は気の抜けた返答をして、額におかれた茅のハンカチに手をあてた。
「おにーさん、本格的にお疲れのようだから……」
 飯島舞花が、みんなを見渡して提案する。
「わたしらは、ちょっと消えようか……。
 ラッピングもしたいし……」
 特に反対する者もいなかったので、他の生徒たちに少し遅れて、茅を除く全員で、ぞろぞろと調理実習室を出て行く。
「……あ。
 楓!」
 荒野は、みんなと一緒に出て行こうとする楓を、呼び止める。
「……はい……」
 一度、実習室をでていかけた楓は、荒野の方に戻ろうときびすを返す。
「いや、来なくていい」
 荒野は、自分の方に歩み寄ろうとする楓を、押し止どめる。
「お前……今日と明日は、自分の好きなように過ごせ。
 茅の護衛はおれがやるし、手が必要になったら呼び出すから……」
 こうでもいわないと、楓は、自分から休もうとしない……と、荒野は、思っている。
「これからは……今までとは違った意味で忙しくなると思う。
 複雑な局面下での、微妙な判断が要求される……というか……。
 意味、わかるな?」
 楓は、無言のまま、頷く。
 楓も……前々からいわれていたように、命令を待ってそれを実行するだけの、手駒……以上にならないと、変化が早い、様々な状況に対応できない。
「そのためにも……休める時は休んで、普段からいろいろなことを経験して、見聞をひろげておけ……」
「……わかりました……」
 不承不承、といった感じではあったが……楓は、頷いた。

「……おにーさん、何だって?」
 廊下で楓を待っていた飯島舞花が、楓にそう声をかける。
「ええっと……今日明日は、わたしの好きにしていいって……」
「そっか……」
 舞花は、その返答を半ば予測していたような表情で、頷く。
「おにーさん、あれで気をつかうタイプだからな……。
 不器用なところもあるから、そう見えない時もあるけど……」
「……そう、ですね……」
 楓も、舞花の言葉に頷く。
 何だかんだで……楓は、荒野には、かなり心配をかけていると思う。
「そんなに暗い顔をすることはないよ。
 おにーさんの苦労性は、別に楓ちゃんのせいではないから……」
 舞花は、うつむき加減になった楓にそう声をかける。
「そうそう」
 柏あんなも、舞花の言葉に同調した。
「加納先輩も……なんでもできるようで、鈍感で抜けているところもあるから……」
「特に、女性の気持ちが、推測できないタイプですわね、加納は……」
 孫子も、珍しく尻馬に乗る。
「……そういえば、そんな感じだなぁ……」
 と、舞花が関心したような声を出して、みんなで笑いあった。
「……あれ? どうした?
 少年……」
 調理実習室から出て来た甲府太介に、舞花が声をかける。
「……追い出されました……」
 太介は、世にも情けない顔をして首を振った。
「おれには……ここでの生活の準備とか、一人で片付けなければならないことが、一杯あるだろうって……」
「……宿無しなんだよ、こいつ……」
 ガクが、太介を指さす。
「そうそう、人を指さしてはいけませんっ!」
 楓が、反射的にそういって、ガクの腕を押し下げた。養成所時代、後輩たちの面倒を見ていた時の癖で、こういうときについつい反応してしまう。
「……宿は……長老が、今朝、紹介してくださった方がいらっしゃるので……これから、そこへご挨拶に行きます。半分、面接なんですけど……」
 太介の話しによると、太介は、涼治のつてで紹介された一般人の家庭に、「遠縁」という触れ込みで潜り込むことになるらしい。
「……ただ、そうそううまいだけの話し、というわけでもなく……」
 その家庭には、介護が必要な老人が同居している、という。涼治の知人でもあるその家庭の人たちは、一族のこともうっすらと知らされていて……。
「……そういうことで、おれの力と体力が、あてにされているわけです……」
 下宿代は別に支払うが、太介が介護の手伝いをする、というのが、下宿先からでた条件だった。
 その家庭の人たちも……長年、介護と、自分たちの仕事や生活を両立させることに、疲れ果てている状態で……同居して、介護に協力してくれる人ならば、素性にかかわらず歓迎する、という。
「……で、これから、挨拶というか、面接にいかねばならんのです……。
 で、そこで気に入られなければ、また一から探し直しですね……」
「……ああ……」
 いつもは調子のいい舞花が、そういったっきり絶句する。
 その家庭の状況は……需要と供給の一致、と言い切ってしまうには、あまりにも「重い」。
 本当に……家族同然に世話をしてくれる人が、労働力が、喉から手が出るほど、欲しい……
 そういう、状況なのだろう……と、簡単に推測できてしまう。
「……頑張れ、少年……」
 舞花は、そういって甲府太介の肩を叩いた。
「……うっすっ……」
 太介も、微妙な表情をしながら、そう答える。
 舞花が太介を励ましたのは、太介のためではない。太介を置いてくれる、といってきた、その家庭のために、太介に「頑張れ」といっている。
 そして、太介も、その意図を正確に読み取った上で、そう答えた。
「……おれ……養成所を出て来た時は、こんなことになるとは思わなかったけど……。
 頑張ります……」




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