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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(150)

第六章 「血と技」(150)

 涼治との交渉が一段落したところで、テンとガクが古風な風呂敷包みを抱えて訪ねてきた。
「……はい、これ。
 今朝、頼まれたやつ。
 にゅうたん、朝の忙しい時間に探してくれたから、後で直接お礼をいっておくように……」
 ガクはそういって、持参した大きな風呂敷包みを甲府太介の胸元に押し付けた。
「……おっ……おうっ……」
 荷物を押し付けられた方の太介は、どこか戸惑った表情で生返事をする。
 そもそも太介は、「にゅうたん」とやらに会ったこともない。
「……これ……」
 ……何?
 と問う前に、テンが続きを引き取る。
「服だよ。服。
 古着で悪いけど、これだけあれば、当座、着る物に困らないだろ?」
「……あっ……ああ。
 その……あの……。
 ……ありがとう……」
 ますます困惑した風で、太介ははっきりしない口調で、礼をいう。
「……お礼なら、にゅうたんとかおにーちゃんに。
 二人とも、夕方からならすぐそこの家にいるから……」
 そういってテンは、窓の外を指さす。
「……あっ。ああ……。
 後で、お礼をいいに行く……」
 太介は、すっかりテンやガクのペースに呑まれている。
「あの……その、にゅうたんとかおにーちゃんとかのことも、知りたいけど……おま……じゃ、なかった。君たちは……何者だ?
 朝も一緒にいたけど……やっぱり、一族の関係者?」
 そう返されて、テンとガクは顔を見合わせる。
「……うーん……」
「無関係かどうか……って、ことになると……関係は、それなりにあるけど……」
 小声でそんなことをしばらく囁きあい、結局、荒野に助けを求めた。
「……かのうこうや……こいつ、本当に、ボクらこと、何にも知らないの?」
 二人にしてみれば、まるで予備知識を持たない他人に、複雑な自分たちの境遇をうまく説明する自信がなかった。
「……こいつ……断片的な噂話を真に受けてここまでやってきた粗忽者でな……」
 荒野は、後ろから太介の頭に何度か手を置いて、テンとガクに説明する。
「おそらく……お前らのようなやつらが存在することなんか、想像すらしたことがない筈だ……」
「……弱い上に無知なのか……」
「本当に、へたれだな……」
 荒野の言葉を受けて、テンとガクは太介をボロクソに評価する。
「……ちょっ、ちょっ、ちょっ……」
 太介は、慌てた。
「これでも、おれ……養成所じゃあ、教官にも負けなかったんだけどっ!」
 精一杯の自己主張、だった。
「……だって……ねー……」
「……酒見姉妹に軽くあしらわれる程度じゃあ……」
 テンとガクは再び顔を見合わせ、わざとらしく肩を竦め、再び、わざとらしく囁きたあう。
「……これだから、田舎者は……」
「……広い世界を知らないのっていうか……」
「……こらこら……。
 お前らがそれいうか……」
 結局、荒野が苦笑いをしながら割って入る。
「そういうお前らだって、ついこの間まで島以外の場所にいったこと、なかったろう?」
「で、あの……あに……じゃ、なかった。荒野さん。
 結局のところ……こいつら、何者なんですか?」
「……ああっと……そうだな。
 途中から脱線したけど、そういう話しだった……」
 荒野はしごく真面目な顔で太介に告げた。
「こいつら二人と、そこの茅……それに、今はこの場にいないけど、ノリっていう四人な……。
 一族の遺伝子をつぎはぎして作られた、合成人間なんだそうだ……」
 そう聞いた太介は……目を点にして、たっぷり一分以上、押し黙った。
「……うっそでぇええ……」
 それから、やおらに大声をあげる。
 腹を抱えて笑おうとした太介は、自分以外の者たちが真顔でいるのに気づき、ぴたりと動作を止める。
「……あの……。
 冗談とか、そういうことではなしに……マジで?」
 太介は、恐る恐るといった様子で、荒野に向かって確認して見る。
「……本当に、おまえの言う通り、冗談だったらよかったんだがな……」
 荒野は深刻な顔をして、深いため息をついた。
「その根本的な条件が、冗談だったら……おれも、こんなに苦労しなくてすんだのに……」
 そういう荒野の目は、どこか遠くの……実在しない場所に焦点を合わせている。
「……ええっと……」
 太介は、きょときょとと周囲を見回した。
「……本当に、本当?
 …………合成人間? 合成人間?」
 テン、ガク、茅を指さしながら、確認してくる。
「……失礼だから、他人を指ささない……」
 ガクは、憮然とした顔でそう返した。
「……合成された時の記憶は、当然ながら持っていないけど……今まで推移をみてみると、その仮説は、かなり妥当な結論だと思う……」
 テンは、あくまで淡々とした口調で、そういった。
「……しっかり説明すると、長くなるから……」
 そういって、茅は、ポットを抱え直す。
「……お茶をいれ直すの……」
「……誰でもいいけど……」
 そういって、荒野は財布をだした。
「ひとっぱしりいって、軽いお茶うけでも買ってきてくれ……」
 今までの経緯を順番に語りはじめるとなると……かなり、時間がかかる。
「……あっ……じゃあ、ボクたちが、ぱっと走って、マンドゴドラに行ってくる!」
 途端に、ガクが目を輝かせた。
「……おま……。
 朝っぱらからケーキかよ……。
 まだ、朝飯食べたばっかだろ? お前らも……」
「……いいじゃん。まだまだ入るよ!」
 テンも、ガクの提案を後押しする。
「……いや、おれも、入るけど……。
 ま、いいか……。
 じゃあ、悪いが、テンとガク、ひとっぱしり、行ってきてくれ……お前らが行っている間にも、茅とおれとで説明をはじめとく……」
「……大丈夫!」
「すぐ戻るから……」
 荒野が言い終わらないうちに、テンとガクはばたばたと足音をたてて、慌ただしく出て行った。
「……っと、ここまでお膳立てが揃えば、ついでだ……。
 先生にも声をかけておくか……」
 そういって、荒野は自分の携帯を取り出した。

「……と、まあ……だいたい、こんなところかな……」
 荒野たちは、二時間近くかけて、これまでのいきさつを太介に説明し終えた。完璧な記憶力を持つ茅と、詳細な日報を継続してつけていた三島とが、交互に説明する形になり、マンドゴドラに使いにいったテンとガクもすぐに帰ってきて、その説明に加わった。全員が全員が、ともすると詳細すぎる部分まで語ろうとするので、荒野は特に補足説明を加える必要もなく、いくつかの事実誤認を訂正する時くらいしか、出番がなかいくらいだった。
 最初、殊勝な態度で拝聴していた太介は、話しが進むにつれてポカンと口を開けるようになり、それでも最後まで口を挟まずに聞き入っていた。
 そして、最後まで聞き終えると、
「……あの……それ……全部……騙し、とかでなく……」
 といって、自信なさそうな顔で周囲を見渡す。
「……何度でもいうけど、全部、本当のことだ……」
 荒野は、そう保証した。
「……信じ難いのは、よくわかるけど……。
 なんなら、こいつらの能力、みてみるか?」
 そういって、荒野は、テンとガクを指さす。
「……いや、いいっす……」
 太介が首を横に振ったのは、別に遠慮してのことではない。
 太介は既に、荒野にいわせれば、「同世代の中では、比較的マシ」な酒見姉妹にさえ、いいようにあしらわれていた。これが、荒野たちのいう「新種」を相手にするとなると……。
 そうして「試した」後、自分が無事でいられるのかどうか、太介は自信が持てなかった。
「……とりあえず……記憶力の話しは、本当のようだし……」
 テンと茅の話振りは、時折、「思い出しながら」というよりも、「目の前で起こっていることを実況中継的に伝えている」口調になる。
 おそらく……完璧な記憶力を持つ、という二人は、細部に至るまでかなり詳細に脳裏に再現された像を、的確に言葉に変換していたのだろう。
 落ち着き払った語り振りもそうだが、テンとガクについては折に触れて必要以上に微細にわたる部分にまで言及し、語り手以外の他の誰が慌てて止めに入る、ということが何度かあり、その二人の記憶力について、太介が疑う余地はほとんどなくなった。




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