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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(152)

第六章 「血と技」(152)

 どんよりとした空模様の中、三島は、荒野たちを乗せて学校まで送る。教員用の駐車場で車を停めると、
「……んじゃ、わたしゃあ、しばらく保健室の方にいるから……」
 といって、去っていった。
 取り残された荒野は、茅と太介をひきつれて、若干名、部活に勤しんでいる生徒が点在するがらんとした校庭を経由して、中央玄関まで移動する。
「……お前は、そこのスリッパで履いて……」
 と、来賓用の下駄箱を指さす。
 通常の学校へ通学した経験もある太介は、以前の荒野たちほど世間知らずでもなく、「校舎内は土足厳禁」の基本ルールも当然のようにわきまえていたので、「……うっす……」と短く返事をして、素直に荒野の指示に従った。
 自分たちの上履きに履き替えた荒野と茅は、太介を伴ったと三人で、薄暗い廊下を、調理実習室へと目指す。
 ……いつもより、薄暗いな……と感じた荒野は、すぐにその原因に思い当たる。
 今日は、授業がないから、廊下の照明が、すべて消してあるのだ。晴れた日なら気にならないが、昼間でも厚い雲に遮られて陽光が差さない今日のような天候の日は、見慣れた廊下が随分陰気に感じられた。

 調理実習室にたどり着くと、料理研の女生徒たちが、総出で講習の準備をはじけているところだった。荒野は、「今日の主役だし、一番大変なパートを担当するから……」という理由で、事前の準備への参加は、やんわりと断られていた。少し前、飯島舞花にそれとなく確認した所、この「料理研主催、手作りチョコ講習」は、確かに毎年の年中行事になっているが、今年はいつになく盛り上がっている、といわれた。
 荒野が顔見知りの部員たちに挨拶をすると、
「御苦労様です。
 今日と明日、よろしくお願いします」
 とか、
「……いつもは、一日で済むんだけどね……今年は、希望者が例年の三倍以上、来ているから……」
 舞花の証言を裏付けるようなことも、いわれる。
 大変だ、というわりに、下準備も手を抜いていないのは、校内の女子の手前、手を抜けば、料理研の威信にかかわる、と考えているからだろう……と、荒野は推測する。
 運動部等とは違い、大会やコンクールなど、晴れの舞台が用意されていない料理研は、この日ばかりは、過分に注目を集める。
 要するに、料理研の生徒たちも、同じ女性としてここではしくじることは沽券に関わる、と考えており、それなりに張り切っているのだった。
「……それで、加納君。
 妹さんはいつものことだけど、そっちの男の子は……」
 部員の一人が、そういって太介を指さす。
「……ああ。これ。
 知り合いが、勝手について来たというか……。
 邪魔だったら帰しますけど、こいつも何でもするっていうんで、遠慮なく用事押し付けてください……」
「ども、荒野さんの知り合いの、甲府太介です。
 できることなら何でも手伝いますので、本当、遠慮なく用事いいつけてください……」
 太介も、荒野の言葉に合わせ、殊勝なことをいって頭をさげる。
 荒野たちを取り囲んだ生徒たちが、「かわいいー」とか騒ぎはじめたが、もちろん、本気で太介の容姿を褒めたたえているのではなく、まだまだその容貌に幼さを残す太介がしっかりした口を利いた、というギャップに感じ入った、ということをワン・フレーズで表現しただけにすぎない。
 しかし、少し年上のおねーさんたちにいっせいに騒がれて、太介は少し腰が引き気味になった。
「……はいはい。
 おびえないでよろしい。
 みんな、いい人ばかりだから……」
 そういって荒野は、太介の肩に手を置いて、強引に前に出す。
「……で、とりあえず、おれたちは、何を手伝えばいいですか?」
 荒野がそういうと、他の部員たちは額を寄せ合って話はじめる。
「……もう……今日の分の準備は、大体の所、終わっているけど……」
「……チョコ、一人分に分けるの、やってもらったら?
 あれ、結構、力仕事だったし……」
「そっか……男手の方が……」

 相談の結果、荒野と太介は、実習室の隅で、キロ単位で購入したブロック状の固まりを、二百グラムづつに分割する仕事をすることになった。
「……これ、結構、力いる……」
 実際にやってみた太介が、呟く。
 専用の機器、などという気の利いた者はないから、包丁で切れ目をいれて、体重をかけ、左右に揺すったりして、不器用にばらしていく。
「かといって、力入れ過ぎると、粉々になっちまうし……」
 荒野もなれない仕事に、すぐに額に汗を浮かべはじめた。
「細かくなる分には、構わないから。重ささえ、均一にしてくれれば……。
 破片が小さい方が、かえって溶けやすくなるし……」
「……これ、今日の分は、みなさんがやったんですか?」
 荒野は、部員たちを見渡して、尋ねてみる。
 女性の細腕で、数十人分の材料を、軽量どおりに切り分けるのは、かなりの重労働な筈だ……と、荒野は、思った。
 すると、部員たちは、すぐに種明かしをしてくれる。
 話しを聞いてみれば、なんのことはない。包丁を熱して、その熱でチョコを溶かながら切った……という。
 その話しを聞いた荒野と太介は、顔を見合わせた。
「……その方が……切り口が、きれいか……」
「第一……力、入れなくて済むし……」
 それから、他の部員たちにやり方を指導して貰い、ブロック状のチョコに定規をあて、熱した包丁でまっすぐに切り分けていった。荒野も太介も、一度やり方を覚えると、回数をこなすほどに手際がよくなり、作業効率が上がってくる。

 用意されたチョコをだいたい切りそろえ終わったところで、ちょうどいい時間になり、講習の参加者がばらばらと集まりはじめた。そうした参加者は、全員、女生徒なわけで、対応とか受け付けは、荒野以外の料理研の部員たちが行った。受け付けといっても事前に手渡している整理券の番号をチェックし、名簿に印をつけるだけで、後は、来る端から適当にグループを作って談笑している。
 ふと窓の外に目をやると、寒そうに肩をそびやかし、校庭をつっきって校舎の方に一人で向かってくる楓の姿を見つけた。楓はまだ気づいていないようだが、その少し後ろに、テンとガクの姿も見える。テンとガクだけが制服姿ではないので、遠目にもよく判別できた。
『……迎えにいってやるか……』
 片付けを終えた荒野は、そんなことを思いながら手を洗い、廊下へと出る。
 茅と太介も、荒野の後についてきた。




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