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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(153)

第六章 「血と技」(153)

 楓、孫子、飯島舞花、柏あんな、テン、ガクら、おなじみの連中をまじえた「手作りチョコ講習」も、無事に第一回目を終えた。
 これだけ大勢の人間を前にして、長時間、一人でしゃべりまくる、という経験は、荒野にしても初めてのことで、感想はといえば、「無我夢中でやっているうちに終わった。気疲れした」という、おおよそ凡庸なものしか出て来ない。
 講習が終わると、そうした顔見知りも含めて、女生徒たちがぞろぞろと外に出て行く。孫子とテン、ガク、それに甲府太介は、用事があるといって下校していった。
 孫子は相変わらず例の会社設立準備に奔走しているし、テン、ガクは徳川の工場に向かい、甲府太介は、涼治に紹介された下宿先に顔をだしてくるという。

 調理実習室の中に料理研の部員しかいなくなると、手分けして片付けと掃除、次の講習の準備がはじまる。次の講習の開始時間まで、三十分しかないから、主催する側の動きはかなり慌ただしくなる。
 掃除が終わり、新しい材料をテーブルの上に配り終わると、すぐに次の講習に参加する生徒たちが入ってくる。
 荒野は教壇の椅子に座って、次の講習に備えて、気持ちの切り替えを行った。

 次の講習も無事終えると、荒野は精神的な疲労を感じて、ぐったりとなった。
 そんな様子を見た他の部員は、「お疲れさまー」とかいいながら、「片付けはこっちでやっておくから」といって、荒野を調理実習室から追い出す。精神的な重圧を伴う講師役を荒野一人に押し付けたことに、それなりに引け目を感じているらしかった。
 荒野は、とぼとぼと廊下を歩いて、パソコン実習室の方に向かう。

「……あっ……加納様!」
「大変なことに……」
 荒野がパソコン実習室に入るなり、酒見姉妹が近寄ってくる。
「……どうした?」
 大変な……という割りには、茅は落ち着き払っている。楓は、若干、青白い顔をしていたが……皆がここに顔を揃えている以上、少なくとも、一刻を争うような性質の異変ではなさそうだ……と、荒野は思った。
「……これ……」
 そういって、茅は、手近の液晶画面を指さしてみせる。
 その画面に写しだされた動画をみて、荒野は、固まった。
 ……一族の内情について、知識のある楓や酒見姉妹の様子がおかしいのが、非常によく納得できた。
「……これ……いつから……」
 荒野は、かすれた声で確認する。
「……今朝方から。
 玉木が徹夜で編集して、できあがってすぐにアップしたそうなの……」
 ……いらんことにばかり熱心なやつだ……と、荒野は思った。
「……ここに写っているやつらの了解は……」
「仁木田は、テンやガクたちの存在を利用して、一族に揺さぶりをかけようとしているの。
 そして、それはテンたちにもメリットがある。
 撮影以外にも、多様な一族の技を吸収する機会なの……」
 茅が、手早く結論を提示した。
「……そういう、ことか……」
 荒野は、茅の言葉に頷いた。
「今の時点では、双方にとって、メリットがある……。
 でも、揺さぶりをかけられた方は……」
「……今のところ、それらしい動きは確認できてないですけど……」
 楓が、いった。
「でも……時間の問題、だと思います……。
 現在、わたしたちが、公然と一般人社会で暮らしはじめたことを、よく思っていない人たちは、それなりにいるだろうし……。
 それ以外に、あの映像を見て、テンやガクに挑戦してみたくなった人たちとかが……」
 楓のその言葉は……荒野の予測と、大体のところ、一致する。
「……今でだって、十分にややこしいってのに……」
 荒野は、その場で自分の頭を掻き毟りたい衝動に駆られたが、自制して大きく深呼吸をする。
 今、荒野が取り乱せば、楓とか下の者は、もっと狼狽する。
「……ったく。
 玉木の奴は、いろんな画が撮れから、歓迎するんだろうがな……」
「……なあ、おにいさん……。
 それって、今までと、違うのか?」
 飯島舞花が液晶ディスプレイを指さしながら、荒野に尋ねる。
「今までと来ていた人たちとも、こうしてやりあっているじゃないか……」
「……こんなの……じゃれあいだよ……」
 荒野は、答えた。
「今まで来ていた連中というのは、基本的に、こちらに適応することを望んでやってくる。
 多少の腕比べをすることがあっても、敵意があるわけではない……」
 荒野の後ろで、酒見姉妹が頷いていた。
「……この映像が世界中に公開されちまった事で……そういう移住組に加えて……テンやガクたちと、本気で立ち会いたくなった奴らとか、そもそも、おれたちがここで行っている、共存路線自体が気に食わない奴らまでを、挑発しまくったようなもんだ……。
 そういう奴らは……おそらく、本気でこっちを潰しにやってくる……」
「……それって……仲間内の内紛、ってわけ?」
 荒野の話しを聞いた柏あんなが、聞き返す。
「一族……っていっても、異なる出自をもつ者たちが寄り集まっているだけだから……。
 その中で協同作業を行うための連絡組織は整備されているけど、統一的な指揮系統があるわけではない。
 おれたちは、一枚板ではないんだ。
 ……話し合い、もそれなりに尊重されるんだが……それも、話し合いに望む者同志に、大きな実力の開きがないことが前提の場合だけで……」
 荒野は、ため息をつく。
「……最低限の実力のさえない者の声には、誰も、耳を貸さない……」
「……実力主義と合議制の混合、ってこと?」
 今度は舞花が、質問する。
「さっきもいったように……統一的な、トップダウン式の組織ではないから、合議制といいきれるのかどうか、わからないけど……一族全体に関わるような重要な議題は、その時の有力者集団のトップ同志が、話し合いの場を設けて決議する。
 末端の方は……大体、実力が上、と見なされた者の下に、別の者が従う……という形だな……。
 時々、合議制になるけど、基本は、実力とか能力に応じて責任と指揮権を委任される形だ……」
「そうか……」
 有働勇作が、荒野の説明に頷く。
「現場の判断に任せる局面が多いから、自然とそういう形に……」
「……そうそう。
 おれたちは、ミッションごとに必要なスキルを持つ人材を集合させて小隊を編成し、ミッションをクリアして別の仕事につけば、また別の人たちを組む……というのが普通だから……小人数だと、実力主義で即断即決、の方が、判断が早いし、なにかと小回りが効いて便利なんだ……。
 かえって、一族のトップが集合して決議するような議題は、数十年に一回とか、そんな割合でしか発生しない……」
 荒野自身、ついこの間、その「数十年に一度のトップ会談」に顔を出して来たばかりなのだが、もちろん、そんな説明はしない。この場で説明をする必要も、ない。
「あの……じゃあ、さ……」
 柏あんなが、おずおずと片手をあげた。
「ものは考えようで……そういう、これから襲いかかってくる人たちを、片っ端から返り討ちにしちゃったら……その人たちは、加納先輩のいうことをきいてくれる、っていうことですよね?」
「……いうことをきいてくれる……って、いうより……せいぜいがとこ、耳を傾けてくれる、って程度だけど……」
 荒野は、肩を竦めた。
「……逆にいうと、これから一回でも負ければ、おれや三人組は、一族全体から、かなり軽く見られる、ということでもある……。
 そうなると……今後、有形無形の様々なバックアップを受けるのは、難しくなるな……」
 実に、楽しい状況だ……と、荒野は思う。
 惜しいのは、荒野自身が、このイベントの中心にいる当事者であることで……もしもこれが他人事だったら、もっと心の底から、楽しんでいられただろう……。
 だが、現実は……これから、一度でも負ければ……その結果は、荒野たちの先行きに直接影を落とすことになる。





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