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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(154)

第六章 「血と技」(154)

「……今にも降りそうな空模様だな……。
 降る前に、早めに帰るか……冷蔵庫も、空っぽだし……」
 ひとしきり、一族についての周辺知識を説明し終えると、荒野は窓際に立ってそんなことを呟く。
 窓の外はどんよりと厚い雲に覆われていて、その空模様は、佐久間現象とか悪餓鬼たちが襲撃してきた土砂降りの日を連想させる。
「……茅。
 まだここで作業やってくの?
 おれ、買い物もあるし、今日はもう帰りたいんだけど……」
「……ああ。
 加納君たちは今、二人で生活しているんでしたっけ?」
 買い物、という単語を聞いて、有働がそんなことを言いだす。
「……え? そうなの?」
 柏あんなは、その有働の言葉に驚いている。
「飯島先輩と同じマンションに住んでいるとは聞いていたけど……。
 そっか、二人暮らしなんだ……」
「……とはいっても、いろいろがちゃがちゃしているし、来客も多いから、あんまり二人っきり、って感じじゃないんだけどな……」
 荒野は、そう呟く。
「それでも、家事やなんかは、他に誰もやってくれないから、自分たちでやらなければならない。
 今、冷蔵庫空っぽだし、商店街は、最近、人が多すぎて、買い物するのに時間がかかるし、雨、降りそうだし……」
 荒野は窓の外を眺める。
 室内は暖房が効いているが、外は実に、寒そうな光景が広がっていた。
「……今日はもう、いいですよ。茅さん」
 堺雅史が、そう声をかけてくれる。
「当面、急ぎの仕事はないし、茅さんや楓ちゃんは、いつも、何人分も仕事してくれるし……こっちも、いつまでも、甘えてばかりいられないから……」
「……わかったの」
 茅は、素直に立ち上がって、帰り支度をしはじめる。とはいえ、今日はいつもとは違い、荷物がないから、コートをかけている場所までとことこと歩いていくだけだが。
 茅に続いて、酒見姉妹と楓も、帰り支度をしはじめた。
「……楓は……無理して一緒に帰らなくてもいいんだぞ。
 おれも、酒見たちも、いるんだから……」
 荒野は、学校指定の野暮ったいコートに袖を通しながら、楓に話しかける。
「……いえ。
 わたしも、平日は人任せですから、週末くらい、お買い物とかご飯の仕度とか……」
「ああ……そっちか……。
 そういや、真理さん、まだ留守だったよな……。
 じゃあ、荷物持ちも二人余分にいることだし、帰りに一緒に買って回るか……」

 荒野と茅、楓と酒見姉妹は、居残る生徒たちに別れの挨拶をして、実習室を出て行った。
「……なんていうか……さっきまでの会話と、あの、夕飯の買い物の相談とかしている時の、ギャップが……」
 五人の姿がみえなくなったのを確認して、柏あんなが、誰にともなく、そんなことを呟く。
「いくらニンジャでも、ご飯くらい食べるでしょう……」
 大柄な有働勇作が、小柄な柏あんなを見下ろして、そう答える。
「加納先輩……あれで結構、大食らいですよ。
 三人前とか四人前くらいなら、平気で平らげちゃうし……。甘い物に目がないし……」
 そういったのは、堺雅史だ。
「ああいう、生活感とか漂わせているところがあるから……まだしもみんな、萎縮しないでつきあっていられるんだよ……」
 そういう飯島舞花自身も、十分に美形に入る容姿の持ち主だった。
「そうでもなけりゃ……あんな別嬪さんが、何人も固まってたら……学校のやつら、誰も声をかけられないって……」
「実際に話してみると、気さくな人たちばかりなんですけどね……」
 有働勇作も、飯島舞花の言葉に頷く。
「あの人たちは……能力のものすごさと、普段の様子の普通さとが、乖離していると思います……」
「……いえてる」
 飯島舞花も、頷き返す。
「例えばバトルしている時とか、おにーさん、結構凄い目つきするんだけど……普段は、ほにゃららって感じで笑っているもんな……。
 ああやって、愛想がいいのも……警戒されないための、擬態なのかも知れないけど……」
「……飯島先輩も、そう思います?」
 柏あんなが、舞花の推測に同調する。
「楓ちゃんは……裏表がないっていうか、素直すぎて、かえって怖いくらいだけど……加納のお兄さんの方は……かなり意識して、ああいう温厚な態度を保っているような気がしていたんだけど……」
「……そうそう。
 才賀さんの場合は、不機嫌な時は不機嫌な顔をするんだけど……おにーさんの方は……しんどい時とか泣きたい時でも……回りに心配かけたくなくて、無理して笑っていそうだな……」
「……はぁ……いわれてみれば……。
 今だって、十分に複雑な状況で……ストレスも多いと思いますが……それを、全く外には出してないですし……」
 有働も、今までの荒野の態度を思い返しながら、そういう。
「……加納君は……現在の状況に対して、完全に受け身の立場に置かれながら……精一杯、責任を取ろうとしているように、見えます……」
「心配性……っていうか、自分の守備範囲外まで、責任を感じちゃうタイプだよなぁ……」
 舞花が、そういって天井を仰ぐ。
「テンちゃんたち三人や、あの双子だって……別に、おにいさんが面倒をみるべき筋合いはないんだけど……今は、ああやって、当然のように世話しちゃっているし……。
 あれ、下手すると……プレッシャーで、いつか潰れるぞ……」
「……彼は、タフですから……そう簡単には、潰れはしないと思いますが……」
 有働も、頷く。
「それでも……早め早めに、ガス抜きはしておいた方が、良さそうですね……」
「……ほっとくと、絶対に休まないからな、おにーさんは……」
 舞花も、有働と顔を見合わせて、頷く。
「……はいはい!」
 柏あんなが、片手をあげる。
「……よーするに、他人を出汁にして、みんなで遊びに行こう、と……」
「……あんなちゃん……。
 加納先輩だけどこかに連れ出す、というのは、かえって不自然でしょ?」
 堺雅史が、額に手をあてる。




[つづき]
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