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彼女はくノ一! 第五話 (238)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(238)

 荒野、楓、茅、酒見姉妹は、学校を出ると商店街に向かう。
 週末ということもあって、人出は多かった。服装から判断すると、近所の買い物客が六割、イベント目当ての着飾ったお嬢さんたちとその取り巻きが四割といってところか。
 いつもの二倍近くの人がいる勘定で、歩くのにも時間がかかる。二手に分かれて効率よく動こう、ということになって、荒野と茅、楓と酒見姉妹の二組に分かれる。楓は酒見姉妹を押しつけられる段となるとごねたが、荒野は「……そっちの人数のが多いんだから……」と無理に押しつけた。実際、荒野と茅は、多少、来客が多いというはいっても二人暮らしだが、狩野家はその倍以上の人数がいる。当然、食料の消費量も多い……筈だ。
「……こいつらも、喜んで手伝うといっているんだから……」
 そう、荒野は酒見姉妹の背中を押す。
 もちろん、酒見姉妹が実際にそんなことを行ったわけではない。
「まあまあ、松島さん……」
「加納様も、二人っきりになりたいそうですから、その辺のことを汲んで……」
 荒野に背中を押されながら、酒見姉妹は、楓にそう囁くところをみると、少なくとも、楓と行動を共にすることをいやがってはいないようだ。それに、「荒野と茅の都合」というのを持ち出されると、楓も無碍には断れない。
「その二人……せいぜい、こき使ってやってくれ……」
 酒見姉妹に肩を押さえつけられているうちに、荒野はそう言い残して人混みの中に去っていった。
「……行きま、しょうか?」
 荒野の背中が人混みの中に消えたのを確認した楓は、なんとなく居心地の悪くを感じながらも、酒見姉妹にそう声をかける。考えてみれば……楓は、この二人と、長時間話し込んだりした経験がない。
 この時点では、面識はあるが……といった程度の、浅い付き合いにとどまっている。

「……そうなんですか?」
 楓は、買い物がてらに、酒見姉妹と話し込んでいる。
「ご両親から……わたしは、養成所以外のことはよく知らないのですが……そういう技の相伝もあるのですね……」
「……いえ、それでも……」
「基本技も、極めれば……」
 酒見姉妹は、左右から楓の言葉を否定する。
「松島さんと、仁木田さんのストロング・スタイルの戦い方をみたら……」
「小細工は、所詮、小細工だなぁ……って……」
「……はいよ、白菜。
 いつも買ってくれるから、今日は一つおまけしておくから……」
「あ。ありがとうございます。
 じゃあ、これも、お願いします……」
「「……はい」」
 酒見姉妹はすでに両手にいっぱいの荷物を抱えていたが、その荷物の上に乗っけるように、楓はいくつかの白菜を乗せる。もちろん、楓自身も、両手に抱えきれないくらいの荷物を抱えている。
「……あなたたち……」
 荷物の山に足が生えているような三人に、声をかけてくる者がいた。
「……何をなさっているの?」
 制服姿の、才賀孫子だった。
「お買い物、なんですが……白菜、安かったんで、まとめ買いしてお漬け物にでもしようかな、って……」
 そう答えたのは、楓だ。
「才賀さんは……お仕事ですか?」
「そう……だけど。
 もう、帰るところですけど……」
 制服姿の孫子は、まじまじと三人の顔を……特に、酒見姉妹の顔を、見つめた。
「あなた方も……昨日の今日で……」
 孫子の表情は、複雑だった。
 酒見姉妹の調子の良さもさることながら、この二人に平然と荷物持ちをさせている楓の神経が、孫子には理解できない。
「……ええっと……。
 その、加納様の命令ですし……それに、話してみると、そんなに悪い人たちでもないですよ?」
 孫子の表情を読んだ楓が、そう返す。
 屈託のない楓の表情に、孫子は深くため息をついた。
「……わかりました。
 わたくしも、荷物を持ちます……」
 そういって孫子は、楓が持つ荷物を引ったくるようにして、奪い取る。
 この時点で、楓と孫子は、お互いに対して「……敵わないなぁ……」という気後れを感じている。
 楓は、孫子のように、自分で会社を立ち上げるほどの知識や行動力を持たない。また、孫子は孫子で、昨日の今日で酒見姉妹のような得体の知れない相手を易々と信用してしまう楓の人の良さは、真似できない……と、思っている。
「どのみち、帰る先は、一緒ですから……」

 めいっぱい荷物を抱えた四人が商店街の外れまで来ると、マンドゴドラの前に茅が立っていた。
「……ちょっと、待って……」
 荷物を足下に置いた茅が、楓たち四人の姿を認めて、行く先を手で制した。
「……おう。
 お前ら、ちょうどよかった……」
 マンドゴドラの入り口から、マンドゴドラのロゴ入りの手荷物を持った荒野が現れる。
「……ほい……。
 土産。そっちのみんなで、食べてくれ……」
 荒野は、一番荷物が少ない孫子の手に、ケーキが梱包された大きな袋を持たせる。

「……おー。お前ら……」
 マンドゴドラの前からいくらも歩かないうちに、今度は車道から声をかけられた。振り返ると、小型車の窓から三島百合香が、顔を出している。
「今、帰りか?
 全員は無理だが、何人かは乗ってけ……」
「……おれと茅は、いいや」
 即座に、荒野がいう。
「歩いてもいくらもないし。そっちは、一応、女ばかりだし……」
「……そうだな」
 三島も、あっさりと頷く。
 荷物を抱えているという条件は、全員、同じだった。
「……んじゃ、楓と才賀、それに双子、乗ってけ……。
 荷物、いくらかはトランクに入れないと入りきれないだろ……」

「……先生、この二人……」
 窮屈そうに助手席に乗り込むなり、楓は三島にいった。
「料理を、覚えたいっていっていますけど……」
「……そっか……」
 三島はあっさりと承諾して、車を発車させる。
「じゃあ、早速今日から、教えてやるか……。
 材料、たらふく買い込んできたようだし……」




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