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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(155)

第六章 「血と技」(155)

 一緒に学校を出た楓や酒見姉妹とは、商店街に着く早々に別れた。
 茅がなんとなく二人きりになりたいというサインを送っているような気がしたし、それを除いても、この人混みの中、あれだけ目立つ連中と一緒に歩くのはごめんだ。茅と荒野が二人で買い物をすることはそれほど頻繁にあるわけではない。が、茅と荒野の二人は、すっかり顔なじみになっており、「兄弟」というふれこみも浸透しているので、二人で買い物をしていても、特に注目を浴びるということもない。しかし、全く同じ顔の酒見姉妹まで引き連れていれば、間違いなく、強い印象を残す。普通、「学校の友達」程度では、晩飯の買い物にまで付き合いはしないだろう。
 それに、制服を着てみても実際には学校に通っているわけではない酒見姉妹のことを、無関係の他人にうまく説明できる文句を、荒野は思いつかなかった。
「……荒野」
 雑踏の中で二人きりになると、茅が突然、口を開く。
「昨夜は、何回?」
 人通りの多い中でいきなりそう尋ねられて、荒野は吹き出しそうになる。
「茅……そういう話しは、回りに誰もいない時に……」
 と前置きを置きながらも、茅を不機嫌にさせるのは得策ではない、と感じたのか、
「……二回、だよ……」
 ぼつり、と、荒野は答えた。
「……そう……」
 茅は、一見、なんでもなさそうな顔をして、頷く。
「今夜は、四回……体力のつくものを買うの……」
 以前した、「二倍以上の約束」は、どうやら冗談ではなかったらしい……と、ここにいたってようやく、荒野は納得する。
 そして、文句もいわずに、茅の買い物につき合う。

 当面必要な食料品を買い込んだ後、どうせ、ついでだから、と、マンドゴドラに立ち寄る。顔見知りのバイト店員に、
「ケーキ適当に選んで、一ダースの包みと半ダースの包みにして」
 と声をかけると、すぐに用意してくれた。マスターは、仕事が立て込んでいるのか、この日は顔を見せなかった。
 二つの包みを紙袋に入れて貰い、外に出ると、茅が楓たちを引き留めていた。楓は、酒見姉妹だけではなく、孫子まで引き連れている。四人とも、目一杯荷物を抱えていた。
「……おう。
 お前ら、ちょうどよかった……」
 ……ほい……。
 土産。そっちのみんなで、食べてくれ……」
 そういって荒野は、四人の中で一番荷物の少ない孫子の指に、ケーキの入った紙袋の取っ手を掴ませる
 もともと、一ダースの大きな包みは、何かと世話になっている狩野家にそのまま渡す予定だった。
 全員で談笑しながら、ぞろぞろ歩いていく。
 孫子の話しによると、例の会社の立ち上げは、それなりにうまくいっているようだった。
「……地元商店街の仕事も、しっかりとやるつもりですが……」
 孫子によると、その前に、法人という体裁を整え次第、集まるだけの人数を投入して、この町の至る所に監視カメラを仕掛けるための営業活動を行う、という。
「……徳川の会社が、製品の運用テストとして、無料で各所に設置します……」
 カメラを設置する場所の地主との交渉を、孫子の会社が委託される……という形を取ることになる。当然、徳川の会社から孫子の会社に、少なからぬ金額が流れ込む。
「……例の……悪餓鬼、でしたっけ? そういった方々の備えでもありますが、初期にまとまった収入が保証される契約を確保できたのは、わたくしの会社にとっても、とてもいいことです……」
 孫子の会社に流れ込んだ資金の大半は、すぐに雇用する者に還元していく。実質的に会社に残る金額は、さほど多くはない筈だったが……会社の運転資金もそれだけキープできるし、立ち上げ時から、まとまった金額を動かした、という実績も、できる。
「つまり……仕事は、大丈夫そうだ、と……」
 一通り孫子の話しを聞いた後、荒野は、尋ねた。
「……人は、集まりそうなのか?」
「……それなりに。
 いくつかのフリーペーパーとか情報誌に求人広告を出しています。雇用先が不足しているのか、地元の人たちが、予想よりも多く来ていますわね……。
 それと、これは予測通りなのですが、あなたの一族関係者も……」
 それから孫子は、「商品の宅配業務」の契約をすませた商店の在庫リストを作成し、場合によってはそれをカタログ化したりする作業も、何人かではじめている……と、説明した。
「うちの会社の者が、この周辺を頻繁に歩き回るようになれば……」
「それは、そのまま、監視の役割も果たす……」
 荒野は、孫子の言葉を引き取った。
「才賀……感謝するよ……」
 なんだかんだいって孫子は、自分の才覚をフルに活用して、現在の状況をよりよくするために動いている。
「礼を言われる筋合いではありません。
 それに、資金を出していただいている以上、あなたの会社でもあります……」
 孫子は、すました顔でそう答えた。

「……おー。お前ら……」
 そんなことを話していると、車道の方から声をかけられる。
 見ると、三島が車の窓から首を出して徐行していた。
「今、帰りか?
 全員は無理だが、何人かは乗ってけ……」
 三島自身も小さいが、三島の車も小さい。
 荒野と茅は辞退し、他の四人が荷物をトランクに詰めたりして、窮屈そうに三島の車に乗り込んだ。

 遠ざかっていく三島の車を見送りながら、……予想外のことばかり起こるけど、かなりうまくいっている方だよな……と、荒野はそんなことを、思う。
「……今日は、珍しく平和だった……」
 事件らしい事件といえば、朝一で太介に襲われた程度で……。
 口に出して、荒野が呟くと、茅はきょろきょろとあたりを見合わす。
「……どうした?」
「あまり平和だとかいうと……途端に、何か起きる気がして……」
 ……茅の方も、突発的なイベントが続いていたせいで、多少は神経質になっている。
「……早く帰って、今日はゆっくり休もう……」
 荒野は、そういって頷いた。




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